2015.08.28

小粒の醍醐味

I love little cars with little engines

 
私は小型エンジンを搭載する小型車が大好きだ。だが、最新の1.0ℓ3気筒ターボエンジン(94bhp)を搭載したアウディA1スポーツ5ドアで往復750kmを超える丸一日掛かりの旅に出かけることに、少しばかり不安を感じていた。このA1はロードテストのために編集部(英国版)に到着したばかりだ。今回のような過酷な旅には同じA1でももっと速くてパワーのある1.4TFSI、またはレンジローバー・スポーツで快適に走るのがよいのではないかと、昔ながらの考え方が私の頭によぎるなか、旅が始まった。

 
初めてのことではないが、私のなかの昔ながらの考え方はまちがっていた。5kmも走らないうちに、この3気筒の新型A1は単に極めてスムーズで静かなだけでなく、非常にレスポンスよく元気に94bhpを発揮するとわかった。このA1のコンパクトさ、素晴らしいドライビングポジションを私は大いに楽しんだ。だがすぐに、同僚のロードテスターが言っていたことが理解できた。A1スポーツはサスペンションが硬く、タイヤサイズも大きいため、ベースモデルのSEよりロードノイズが大きく、乗り心地がよいとはいえない。折衷案として、A1スポーツをオーダーする時には硬いサスペンションは選択せず、見栄えのよいホイールはそのままにしておくことが、イギリスでは無料でできる。A1の大きな強みは、大型車のラグジュアリーさを提供しながらも、小型車のアドバンテージを維持しているところにある。

 

 
世界最高峰のレーシングカーデザイナー、エイドリアン・ニューウェイがロードカーのデザインを手がけていることがもし正式に発表されれば、それはどんなクルマなのだろうという基本的な想像がふくらむ。かつて、デザイナーのゴードン・マーレーがマクラーレンF1を手がけて自分の遺産を守ったように、ニューウェイも同じ目的でロードカーを手がけようとしている。察するところ、ニューウェイが造るクルマはエアロダイナミクスが抜群に優れた超軽量なレーシングカーに由来するスーパーカーであろう。ニューウェイはこういった方面に並外れた専門性をもちあわせているからだ。

 
問題なのは、スーパーカー市場の隙間はずいぶん前に埋まってしまったことだ。マクラーレンF1が登場した時には、まだ“余白”が存在し、他のモデルとは異なる特徴が受け入れられた。だが、今回はどうだろう。パフォーマンスはその答えではない。ブガッティ・ヴェイロンと1000bhp近い馬力を持つマクラーレン、ポルシェ、フェラーリの3台のハイブリッドが極めて高い最高速度と短い加速時間を実現しており、さらに速いクルマを誕生させることは馬鹿げているように思う。また、非常に高価な新型GTという選択も道理にあわないだろう。近頃は、評価が確定しているクラシックカーが文字通りたくさんあり、そういうクルマはおそらく新型車より安い価格で手に入るからだ。並はずれたスタイリングも進むべき道ではない。ニューウェイはエンジニアであり、デザイナーではない。お伝えしたように、ニューウェイのクルマは独特なミッションを見つけることがこのプロジェクトのキーになる。それがいったい何なのか、早く知りたくて仕方ない。

 

 
ジャガーのデザイン・ディレクターのイアン・カラムとロンドンの老舗レストラン、ルールズでリラックスした雰囲気のなか、昼食を共にした。普通こういった会はモーターショーで催されることが多いが、ショーの期間中は次から次へと大イベントが待ちかまえている。だが、今回は嬉しいことに、ジャガーというブランドにどうやって長年取り組んできたか、カラム本人から直接聞くことができた。

「まるでジェットコースターに乗っている気分ですよ」とカラムは話した。「私はいつでもジャガーというブランドを愛し続けてきましたから。ジャガーで仕事をすると決まった時、何が必要なのかも理解できていました。でも、実際にこのブランドのビジョンを任せられると、身が引き締まる思いでしたよ。正しい方向に進むには10年はかかると思っていましたし。16年かかって、ほぼたどり着いたと思います。サルーンをモデルチェンジし、Fタイプも発表しました。そして、かつて私が絶対にデザインしないと明言したスポーツクロスオーバーのFペースを今度は登場させます。これでジャガーはますます前進するでしょうね」

「ジャガーのデザインティームは素晴らしいメンバーが集まっています。私が考えていた通りのクルマを彼らは誕生させるんですよ。そうあるべきデザインにね」

カラムは今でもクルマのスケッチを楽しんでいるが、ポストFペースの時代は熟考の時だと考えている。というのも、ジャガーの行く手には、新時代が待ち受けているからだ。この先が楽しみだ。

 

 
クルマに対する評価は時の経過とともに変わるから面白い。プジョー407(2004〜2010)がデビューしたばかりの頃、大きな長所がなく当たりさわりのないクルマだと私は考えていた。407のプラス面は、フォルクスワーゲン・パサートとフォード・モンデオの影に隠れてほとんど目立たなかった。だが今は、407を特別なクルマだと思い始めている。というのも、フロントエンドに目をやると、フェラーリの影響が感じられるあの“口”、派手なライト、それに格子のグリルがまっ先に目に飛び込んでくるからだ。

販売台数の多いファミリーカーが、フランス人デザイナー(ジェラール・ヴェルテール)によってフェラーリ・デイトナの最高の部分に共感してデザインされたことは、突如、注目に価することになったようだ。そして時の経過とともに、今後再評価されるのはまちがいないだろう。ヴェルテールはこのイタリアのスーパーカーに対するあこがれを隠すことが単純にできなかった。しかしその一方で、ヴェルテールは彼自身が極めて特異だった。この男は自身のプライベートのル・マン・ティーム(ヴェルテール・レーシング)を運営した史上初の唯一のチーフデザイナーなのだ。それにヴェルテール・レーシングの本拠地は、彼が所有する裏庭(バックヤード)のガレージだったというのだから。

 
フェラーリFFが3か月前に編集部(英国版)にやってきて以来、1万km近く走行した。イギリスでもっとも多くの距離を走っているフェラーリの1台にちがいない。もちろん一人で走ったわけではないが、6000km以上は私が運転しただろう。

 
変な話だと思うかもしれないが、このクルマに慣れて心地よく運転できるまでにかなり時間がかかった。フェラーリFFは運転しにくいクルマではなく、実際はその逆だ。ドライビングポジションはゆったりとしていて豪華だし、視認性も素晴らしい。モンスターのように強力なパワーも優秀なトランスミッション、グリップ、極めて高いスタビリティのおかげで従順だ。だが、この赤いフェラーリを運転していると、初めてこのクルマを見る人たちに絶えず注目され続けるので、ドライバーはなかなかリラックスできない。フェラーリFFを運転するのは決して普通のことではない。

だが、最近ウェールズの浜辺にブルーバードの90周年の記念走行を見に出かけた時、ようやくよい環境でフェラーリFFを運転することができた。それほど速くはなかったが、行きも帰りも一人で3時間ずつ運転し、今年いちばん満足できるドライブのひとつだった。

 
今週はずっとランドローバー・ディフェンダーを運転していた。実のところ、自分の運転の変化をこれほどはっきりと認識させてくれるクルマを他に知らない。これまで自分の運転は上手いとは言えなくても、少なくとも堅実で安定していると思っていた。だが、今週あることを発見した。運転に集中している時は、メカニズムを感じながらディフェンダーを走らせることができる(ディフェンダーをスムーズに運転するには正確なハンドリングが必要だ)。ディフェンダーは私たちが普段乗っているラバーで消音されるクルマとはまったく違う。だが、何かに気を取られていたり、疲れている時にディフェンダーを運転すると、コンクリートのミキサー車のように荒っぽい走りになってしまう。ディフェンダーを毎日運転している人なら(たとえロンドンで運転していても、多くの人は)私が言っていることがわかるだろう。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)
 
 

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