イタルデザイン・ジウジアーロ・パルクール4×4

公開 : 2013.08.06 20:00

■どんなクルマ?

ファブリジオ・ジウジアーロによれば、イタルデザイン・ジウジアーロ・パルクール4×4は究極のスーパーカーの姿ではないという。事実、スーパーカーの理想的な究極の姿は4WDであるということについては、私も否定的な意見を持っている。特に、このパルクールをドライブする機会に恵まれた2日前まで、英国の片田舎でRWDのマクラーレンMP4-12Cをドライブしていたからそう思ったのだろう。イタルデザイン・ジウジアーロ・パルクール4×4も、結局のところ、すべての環境に適したミッド・エンジンのV10スポーツカーというコンセプトを貫いたモデルにすぎないのだ。

フォルクスワーゲンのプレ・ジュネーブ・ショーの会場で初めてパルクールを見た時に直感的に思ったのは、これはランチア・ストラトスのオールロード・モデルではないかということだった。もちろん、ストラトスはかなりの数が生産されたのに対し、このパルクールはワンオフ・モデルではあるが。

パルクールという名前は、フランス語のParkourに由来するものだ。フランス発祥の運動方法で、走る、跳ぶ、登るといった移動動作で身体を鍛える方法のことだ。別名フリーランニングとも言う。簡単にいえば、このモデルはパルクールのUSP(ユニーク・セールス・プロポジション:マーケティング用語で価値提案という意味)ということが出来よう。つまり、どんな路面状況でも理論的には319km/hのトップスピードを持ち、0-100km/hを3.6秒で疾走できるクルマであるということだ。

澄み切った青い空を切り裂いてサルディーニャ空港に降り立ち、アウディA5に乗ってテスト会場となった丘の上へ向かう。パルクールはその特徴的なガルウィング・ドアを開けたままわれわれを待っていた。4点式のシートベルトを締める前に、簡単なコクピット・ドリルを受けるが、実にシンプルなものだった。

比較的高さのあるセンタートンネルにある突出したコンソールは、単純な操作しか必要がない。オートマティック・トランスミッションのドライビング・モードを切り替えるパースペックス製のパドルがそこにはあるだけだ。ギアシフト自体は、指先のパドル操作で行う。また、様々な地形に合わせたシャシー・セッティングを切り替えるランドローバー・スタイルのスイッチもセンター・コンソールに付けられている。今回は通常のアルファルト路面でのテストのみだが、そのセッティングは、ロード、レース、オフロード、スノー&アイスの4つに切り替えが可能だ。

ジウジアーロによれば、パルクールは最低地上高はランドローバー・ディフェンダー110と同じかそれ以上あるといい、ロード・クリアランスやデパーチャー・アングルはアウディQ7よりもあると主張していた。スペック・シートによれば、グラウンド・クリアランスは標準で210mmだが、250mm、そして330mmにまで高くすることができるという。ディフェンダー110は235mm、オプションのタイヤを履いても245mmなので、その数値は本当にランドローバーよりも大きいことになる。

パルクールは984mmというフロント・オーバーハング、836mmというリア・オーバーハングを持つ。これも、ディフェンダーのフロント649mmという数値には届かないが、ディフェンダー90SWの913mm/1196mmという数字よりも小さい値だ。

そのボディの下には、ランボルギーニガヤルドに搭載されている5.2ℓV10が搭載される。これは、イタルデザインは公表していないので、推測値だがパワーは542bhpだ。サスペンションはユニークな2ステージのプッシュロッド・サスペンションが装備される。

そのシャシーはガヤルドのアルミニウム・スペースフレームの修正版であると思われるが、注目に値するのは、イタルデザインがそのシャシーをこのパルクールのキャラクターに合わせて再設計したということである。

■どんな感じ?

パルクールのエンジンをスタートさせる。ワンオフ・モデルとしては珍しく非常に滑らかなフィーリングだ。エアコンも実に効きが良い。サルディーニャのメインストリートで速度を増していっても、7速デュアル・クラッチはスムーズに継ぎ目のない加速を示してくれる。最初の数kmの走行でも、パルクールはロールフリーなコーナリングと高い安定性を持つことが理解できた。週末にドライブしていたマクラーレンMP4-12Cが、良い比較対象となったようだ。ファースト・インプレッションは、パルクールのハンドリングの素晴らしさに驚かされたことだ。

ドア開口部が大きい。サイドシルにまで続くシート・クッションのおかげで、シートは広い。しかし、その乗り降りは必ずしもイージーであるとは言いがたい。しかし、典型的なスーパーカーよりも高いドライビング・ポジションのため、前方の見晴らしは良い。ドライバーの着座は低く足を前方に投げ出すようなポジションとはなるが、着座点自体が高いので目線が高くとれるのだ。これは賢いセッティングと言えよう。

幅が2070mm、全長は4530mm。しかし、そのサイズから想像するよりも取り扱いは簡単だ。センター・ガラス・ルーフもそれほどワイドではないののの、キャビンは軽快で充分な採光がある。

問題だったのはサーボ・アシストのないセラミック・カーボン・ブレーキだ。美しいアルミニウム製のブレーキ・ペダルを力強く踏まないと制動力が得られないことだ。

しかし、それを除けば、ワンオフ・モデルとしては非常に印象的なドライビング・インプレッションを与えてくれた。サルディーニャの道では極めて快適なドライビングを味あわせてくれた。また、22インチという高いタイヤによる乗り心地も良かった。また、そのプッシュロッド・サスペンションは、ハードなコーナーでもほとんどロールを見せずにクリアしていってくれたのだ。

このサスペンションをジウジアーロは”プッシュロッド2.0″とネーミングした。これはコンベンショナルなプッシュロッドとメイン・スプリングの代わりに、コイルオーバー・スプリングとダンパー・ユニットを装着したもので、各コーナーに2つ、合計8つのコイルオーバーを持つものだ。通常の道では4つのコイルオーバーが作動し、オフロードなどでは更に4つのコイルオーバーも作動するというもの。これによってサスペンション・トラベルを増し、サスペンションの固さを和らげるという仕組みなのだ。

ジウジアーロは、ガヤルドもドライブするが、SUVモデルの大きなユーティリティと能力に魅力を感じているという。事実、ジウジアーロ・シニアは熱心なSUVドライバーであり、ジウジアーロの母も今はSUVをドライブしているという。

「このプロジェクトをスタートするにあたって、もうひとつのカタチのスーパーカーが必要なのかどうか、自分自身にたずねてみた。」とジウジアーロは言う。

「確かに週末になればガヤルドをドライブすることはできる。しかし、あまりに制限が多いのも事実だ。私は、気兼ねすることなく乗れるSUVのファンであり、ミッド・エンジンのSUVをどこでも運転できるというアイデアに可能性を見出したのだ。」と。

■「買い」か?

パルクールには今までのスーパーカーにない魅力が多くある。縁石や路面のパンブに心配することなく走ることが出来るだけでなく、このクルマはサルディーニャの砂浜にまで乗り入れることができたのだ。

しかし、SUVが広く認知されるようになったとはいえ、これほどまでのクロスオーバー・スーパーカーの可能性は少ないだろう。

スーパーカーは確かに週末だけのものかもしれない。もしそうでないとするならば、パルクールはマクラーレンに勝る魅力を持つモデルとなるだろう。

(ヒルトン・ホロウェイ)

イタルデザイン・ジウジアーロ・パルクール4×4

価格 NA
最高速度 319km/h
0-100km/h加速 3.6秒
燃費 NA
CO2排出量 NA
乾燥重量 1500kg
エンジン V型10気筒5204cc
最高出力 542bhp/8000rpm
最大トルク 55.0kg-m/6500rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

おすすめ記事

 
最新試乗記

試乗記の人気画像