ポルシェ911ターボS

公開 : 2014.02.15 23:00  更新 : 2017.05.29 19:05

イントロダクション

われわれにとって一番好きなフィーリングの911とは、必ずしもこのポルシェ911ターボのことではない。だが、衝撃という点ではこのクルマの右に出るものはほとんど存在しない。

911GT3の魅力がドライビングの醍醐味とモータースポーツに由来するフィーリングであるなら、911ターボの魅力は全く異なるものだ。このクルマは十分な安全性と快適性を確保した無理のないシャシーで、肩の力を抜いてハイスピード・ドライビングを楽しみたい人に向いている。

ターボは昔からずっとそういうクルマだったわけではない。1975年、初となる911ターボがタイプ930に設定された。当初は3.0ℓの排気量に最高出力は”たった”260psで、トランスミッションもわずか4段であった。近頃ではホットハッチバックの方がずっと高出力で、ギア数も多いものだ。それでも911ターボのボディというのは横幅がぐっと張り出していて、リア・スポイラーは挑発的で、ハンドリングはかなり危なっかしいものだった。

タイプ930のターボは最高出力が330psまで増加し、1989年にタイプ964へとバトンタッチしている。そのタイプ964のターボは最終的に360psを得て、続くタイプ993ではターボが4輪駆動モデルとなった。また、こうした世代交代の間により速さのあるターボSも設定された。

911ターボの4輪駆動モデルが登場してからは一層速さと安定感を増していき、異論もあるかもしれないが攻撃的な性格が陰を潜めた。

そして興奮をもたらす走りは他の911シリーズに任せ、こうした過給機モデルは正気とは思えない速さと寛容な一面とを併せ持つパッケージングでポルシェの技術的ハイライトを示すものとなった。

近年の911ターボ・シリーズというのは、ポルシェ959を実用化したもとの考えてみよう。もはや限られた使い道のスーパーカーを手に入れられる極少数のためのモデルではないのだ。一般大衆のためとは言わないまでも、少なくともより多くの人々が望みうるすべてのテクノロジーと必要な実用性を備えたモデル、それが現代の911ターボなのだ。

新型では再び2種類の911ターボが販売されている。”標準”モデルと、今回テストするターボSである。それでは近年のターボに見られた特性が最新モデルにも引き継がれているか見ていくこととしよう。

デザイン

外見上、他の911とターボモデルをもっとも区別しやすいのは、”ターボ・ボディ”として知られるリアがワイドになったボディ・ワークが存在するかどうかである。こうしたリアのトレッドを広げる考え方は、リア・ドライブの近年のRSにも引き継がれている。

このモデルではリア・フェンダーはフロントよりも85mmも張り出されている。そのフロントでさえ先代の911ターボに比べてすでにトレッドが49mmも拡大しているのだ。さらに可変式エアロパーツも備わっており、フロントとリアのスポイラーは最適な空力を得るために可動するという。

フロント・スポイラーを格納すると、地面とのクリアランスと斜面へのアプローチ・アングルが先代ターボモデルよりも広くなる。これにより、フロントを擦ってしまう心配がこれまでより少なくなったのだ。

時速120km/hを超えると、ラバー製フロント・スポイラーの両端部分がせり出てくる。同時にリア・ウィングが25mm上方に持ち上がるので、両方の効果により空力効果がさらに増大する。このモードでターボSは最高速度319km/hを記録する。

エアロダイナミクスの設定をパフォーマンス・モードにすると状況がさらに変化する。フロント・スポイラーは中心部分を含めて全体が展開された状態になる。これによりスポイラーの後方の圧力低下が実現する。一方、リア・ウィングは最大可動範囲の75mm持ち上がった状態になり、前方に向かって7度の傾斜を作る。911ターボはこのモードで時速約300km/hに達すると132kgものダウンフォースを得るのである。

エンジンにも注目すべき点がある。直噴の水平対向6気筒は排気量が3800ccで、可変タービン機構を備えた2基のターボによって吸気が強制的に行われる。ターボSの実用回転域は7200rpmまでとなり、標準のターボ・モデルよりも200rpm高くなる。これにより39psのパワーが追加されるのだ。

最高出力の560psは6500rpmで発生し、それが6750rpmまで維持される。一方でわれわれがこのクルマに期待する最大トルクは、76.5kg-mを2200rpmから4000rpmの間で発生する。標準のターボモデルはやや少ない67.4kg-mとなる。

ターボSの最大トルク76.5kg-mというのは、わずか20秒間だけ許されたオーバーブースト作動時のもので、通常の最大トルクは71.4kg-mとなる。しかしながら、滑走路でもないところで、いや仮に滑走路であったとしても911ターボのドライバーが連続20秒以上もフルパワーを出し続けるのは、想像し難いものだ。

駆動力はPDKデュアルクラッチ・オートマティック・ギアボックスを経由して4輪に伝えられる。このギアボックスは本来の7段に加えてヴァーチャル・ギアを設定することができる。これはある速度で巡航中にもしも既存のギアが高過ぎたり低過ぎる場合には、一定の速度を維持するためにクラッチを滑らせるというものだ。

GT3と同様にダイナミック・エンジン・マウントも備わる。これは極端な負荷が掛かるドライビングの際にエンジンを適切な位置に保つようマウントを固めるものだ。またリアアクスル・ステアリングが装備されており、高速走行時にはフロントと同位相に操舵しホイールベースを伸ばしたときと同様の効果を得る。一方で低速域では逆位相にリアタイヤを操舵し、ホイールベースを短くしたような効果を得る。この場合はステアリングを45度切ったときと同様の効果になるという。

シャシーにはあらゆるテクノロジーが備わっている。ポルシェ・ダイナミックシャシー・コントロール(PDCC)はボディ・ロールを抑制するもので、ターボSには標準となっている。同様に電子制御リア・ディファレンシャルとトルク・ベクトリングを組み合わせたポルシェ・トルク・ベクトリングプラス(PTV Plus)、さらにはセラミック・ブレーキもターボSには標準装備となる。

インテリア

現行のタイプ991発表時のテストからまだ2年も経過していないが、今はそのキャビンに大いに親しみを感じるようになった。

従ってターボの見通しのいい計器盤、控えめなステアリング、高めに位置するセンター・コンソール、がっちりとしたフィーリングのシフトレバーといったものすべてが、われわれが現代の911に望むものと見事に一致するのだ。

ターボには非常に多くの標準装備が付いてくる。デュアルゾーン式オート・エアコン、温水機能付きフロントウィンドウ・ウォッシャー、電動アシスト・スポーツシート、それに情報機器としてGPS統合ナビが備わる。

トップモデルとしての地位を明確にするため、ポルシェの広範囲に及ぶ(そして高価格でも知られる)オプションに含まれる追加装備が、S仕様には多く取り込まれている。

コクピットに入ると、ごてごてしたバケット・タイプではなくレザーで包まれたクッション性のある改良型スポーツシートに身を沈めることになる。これは18通りのシートポジション調整が可能というものだ。そしてはるかに光沢を増したスポーツタイプ・ステアリングが目の前に陣取る。これらの装備により、ラグジュアリー性はそこはかとなく高めらている。

こうした意匠のインテリアは先代よりもタイプ991の満足度を高めるが、それは豪華な内装を設えたためだけでなく、このクルマの基本構造自体が快適性を増すよう根本的に設計されているからでもある。

このためターボ、およびターボSは人間工学的にも気持ちの上でもカレラと同じくらいドライビングに専念できるのだ。

新型ターボのプライス・タグを見て、「カレラの2倍もする割に飾り気がなさ過ぎる」と言う人には、その批判に同調するよりも他社のスポーツカーをお薦めする方がいいだろう。

パフォーマンス

911ターボの存在意義は、ストップウォッチが最小限の時間を刻むうちに、実現不可能に思える最大の数値を記録することだ。

思っていた通り、タイプ991のトップモデル、ターボSはこれまでのどの世代よりも優れたパフォーマンスを見せてくれる。スタンディング・スタートから猛進を始めると1マイル(約1.6km)も走らぬうちに時速274km/hに達する。別の言い方をするとたった20秒で1kmもの距離を進むパフォーマンスを備えている。このクルマの並外れた速さには、もう疑問の余地などないのである。

こうしたスピードを見る限り、われわれがテストしてきた最速の部類のクルマと対峙してもターボSには勝算があるのだ。われわれの計測器の結果では、時速96km/hより下ではフェラーリF12よりもターボSが少しばかり速いのである。つまり後輪駆動のフェラーリが強大なパワーを発揮するまでは、4輪駆動のターボSのトラクションが勝るのだ。

こうしたわずかの差は、PDKギアボックスの低いギアリングを活かして一気に加速するフラットシックス・パワーと、4輪駆動にも対応した高性能ローンチ・コントロールによって生まれるのだ。

巨大なカーボンセラミック・ディスクでターボSを動かないようにブレーキングし、そのペダルを一気に離す。その加速はカタパルトから飛び出すとしか表現できない狂気の沙汰だ。タイヤがスピンし、タービンがうなり、クランクが猛回転する。これこそターボSの真価を味わえる瞬間である。

しかしエンジンフードの中では、ドライバーが感じるよりも劇的な局面を迎えている。スタートを切った直後は、ターボがほんの一瞬だけF12の前に出るだろう。しかしフェラーリのV12エンジンが激しい唸りを上げても、911の水平対向が奏でる不協和音はそれほど劇的には高まらないのだ。これは7200rpmまでレッドゾーンを引き上げたのと、標準装備のサウンド・シンポーザーによる効果なのである。

いずれにしろターボSは、大きなリア・ウィングをひけらかしていても、派手な演出でドライバーを引き込もうとはしないのだ。かたくなに推進力で勝負することを選び、肩肘張らずに楽しめるハイスピード・ドライビングを重視しているのだ。このため、ハイギヤードな7速以外なら何速に入っていても、所かまわず弾丸のような加速が味わえるのだ。

4速の48-113km/h中間加速タイムは、2012年にテストしたカレラより3.9秒も速く、モンスター級のパワーを誇った先代GT3 RSと比べても約1.5秒も速いのだ。

ターボの標準仕様は、馬力で40ps、トルクでおよそ4kg-m劣るにもかかわらず、ほとんど差のない素晴らしいパフォーマンスを発揮する。0-100km/h加速ではわずかに差が生まれるのだが、それでも唖然とするほどのスピードを気負うことなく体験できる。

ターボSのレッドゾーンが200rpm高く設定されていることに目をつぶれるなら、ターボを買ったところでSとの違いを区別できる人間などまずはいないだろう。

乗り心地とハンドリング

911のトレードマークとも言うべき輝かしい動力性能がターボに欠けているのは誰もが予測できることだ。長距離ドライブに必要十分な実用性を考慮し、ユーザー志向の控えめな性格を強めたのが996世代以降の特徴なのである。

また歴代911の中でも、ターボは爆発的な力強さに不足する魅力に劣るモデルだと言う人もいる。しかしそうした批判は、最も魅力的でキビキビとした走りを味わえるスポーツカー、911だからこそ生じてくる問題なのだ。

もっとはっきり言えば、ターボはわれわれが購入できる最も痛快なポルシェというわけではない。一方で、しなやかさ、緻密さ、凝縮感、そして運転の楽しさという点では、日産GT-Rベントレー・コンティネンタルGT・スピードという同様の実用性を備えたライバルに引けを取っていないのも事実だ。

その昔911の新型が出れば、たとえヒヤヒヤさせられる走りっぷりでも必ずオーナーの気持ちを捉えてしまうという時代があった。しかし、このクルマにはそれを望めない。新型ターボはグリップに優れるし、非常に快適なレベルから鉄骨のような乗り味までボディ・コントロールを制御できるPASMが備わる。さらにスタビリティシステムのおかげで、高速域でも正確で安全なハンドリングを実現している。

ロードノイズを除外して考えれば、乗り心地はしなやかなもので高速安定性にも優れている。こうした性能はターボのようなハイスピード・モデルにとっては非常に重要なのである。それも、一年の8割以上が理想的とは言えない路面状況になる英国ではなおさらなのだ。しかし、このクルマに最上級と呼べる繊細なコーナーリング・バランスも、限界を極めるハンドリングの醍醐味もないのは残念なことだ。

サーキット走行に話を進めると、ターボの走りを引き締める高性能システムがこのクルマには十分備わっている。細部まで慎重にテストしてみたが、そのシステムの総合的な完成度ときたら見事と言うしかない。

しかしハンドリングについてはGT3のように感心することはほとんどない。一方でこのクルマのブレーキングは途方もないもので、かなりのスピードでアタックしても、優れたブレーキによりクルマがコースアウトするのを防ぐのだ。いや、それ以上のパフォーマンスだと言ってもいい。その改良版カーボンセラミック・ブレーキは、実のところブレーキング・ポイントをこれまでの位置から変えなければならないほどの制動力を発揮するのだ。

さらに横方向のグリップにも非常に優れ、ドライ・コンディションでは相当にコーナリング・スピードを上げられる。一方、エントリー・グレードのカレラ3.4(もはやGT3のことは言うまい)にはあったシャシーの繊細な反応や姿勢変化への柔軟性は、全くこのクルマには感じられない。

限界が迫っているのは多くの911と同様にアンダーステアが顔を出すことで見極められる。しかしそのアンダーステアに対処するための選択肢は非常に制限されている。サーキットでのハンドリングについては安定感と安全性というものをゆがんで解釈してしまったようだ。

結論としては、信じがたいほど多様な性能を備えている一方、911ならばと期待するほどの高みをターボが体現しているようには感じられない。あるスタッフは、仮にも彼自身がターボを運転したにもかかわらず、思い出すのに一苦労したほどだ。このクルマが彼に残した印象はそれほど薄いものだったのだ。

ランニング・コスト

911ターボの出来というのはライバル達に脅威を与えるものだ。パフォーマンスに関する限り、われわれのテスト結果が示すように全面的に高評価に値する。

しかし車両価格については疑問が残る。最上級パッケージのターボSはベントレー・コンティネンタルGT W12よりも高価格で、アストン・マーティンV12ヴァンテージSより高く、アウディR8の最高級仕様よりも高いのだ。

ミッドシップ・エンジンのフェラーリやマクラーレンという猛烈に速いクルマは、依然として手の届かない価格設定になっている。だからといって911ターボに£140000(2446万円)を払おうと考えるのは、同価格帯の他のマシーンより価格低下が速いことを考慮すると自分を納得させるのに四苦八苦させられるだろう。

このクルマは少なくとも装備については気前がいいと言える。とくにターボSの方は、PCCBカーボン・セラミック・ブレーキ、PDDCアクティブ・アンチロールバー、ポルシェ・スポーツクロノパケージ、LEDヘッドライト、シートヒーター、DABラジオ、他にもたくさんがつくのだから。それでもリア・ワイパーは有料オプションというのはいただけない。

また、オーナーの満足度を上げているユーザビリティも忘れてはならない。ほぼ400ℓという荷物置き場は、どうしても必要な時には後部座席にも使える。そして特筆すべきは、われわれのツーリング・テストの結果が示すように巡航時の燃料消費率が10.6km/ℓ以上にもなることだ。

もしも911ターボを本気で考えているなら、カラーリングはGTシルバーを選ぶのが賢い選択だ。天然革のシートも同様である。リアビュー・カメラ、リア・ワイパー、フロア・マットは選択するだけの価値を認められるが、有料オプションにするべきではなかった。

また、ターボSの代わりにターボの標準仕様を選べば、その時点で£20,000(約350万円)の節約になる。しかし、少しだけスピードが劣るので、もし911の魅力が速さだと考えるならよく考えて判断するべきだ。

結論

ポルシェ911ターボの立ち位置は、すでに日産GT-Rによって蝕まれており、さらに大きな脅威も訪れようとしている。

現在£100,000から£150,000(約1700万円から2500万円)で手に入る優れたスポーツカーがいかに少ないかということは、業界内でも皆が知る事実だ。

そのことは現行のタイプ991が、まだ発表から2回目の誕生日を迎えてもいないのに、ライバルとなるマクラーレンP13とメルセデス・ベンツGT AMGが投入されることからもうかがえよう。

それにもかかわらず新型のターボは毎日乗れるスーパーカーであり続けようとする。スーパーカーと暮らしたいのにそれが許されないという人々をターゲットにしているためだ。

このクルマのスピードは強烈でとてつもないものだ。そしてどんな状況下でもやり過ごせるグリップと安定感を備えている。まさになんの気負いもなくハイスピード・ドライビングを楽しめるのだ。そのうえ快適で実用性もあり、多くの機能が装備されている。

これだけの性能が備わっていて911の頂点に立てないのなら、その理由は1つしかない。あのGT3が存在するからなのだ。

PSM解除時の限界ハンドリングがもう少し扱いやすく、もう少しドライバーにフィードバックが伝わってくるなら、911ターボに文句をつける余地はないのだろう。

現在のところこのクルマが最も走りの醍醐味を味わえる911とは言い切れない。しかし、この911ターボSは生まれながらのアスリートであり十分に優れたエンターテイナーである。それにこのクルマはほとんどのライバルより優れたパフォーマンスを見せてくれる。しかし、どんなライバルにも勝るかというと、それほど優れているとも言えないのだ。

ポルシェ911ターボS

価格 £140.852(2,165万円)
最高速度 319km/h
0-100km/h加速 3.1秒
燃費 10.3km/ℓ
CO2排出量 227g/km
乾燥重量 1605kg
エンジン 水平対向6気筒3800ccツインターボ
最高出力 552bhp/6500rpm
最大トルク 71.3kg-m/2100rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

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