ポルシェ3台のPHV

公開 : 2014.10.28 23:50  更新 : 2021.10.11 09:11

2014年パリ・モーターショー。メジャー・モーターショーの中でも最大の入場者数を誇るこのショーで、ポルシェが主役として用意したのは、マイナーチェンジを受けたプレミアムSUVのカイエンに、新たに誕生したPHV=プラグイン・ハイブリッド、カイエンS E-ハイブリッドだった。カイエンのラインナップには、これまでもハイブリッドモデルのSハイブリッドが存在していたが、PHVへの進化によって、その商品力、そして環境性能は大幅な向上を果たしている。

パリ・サロンのプレスコンファレンスで、ポルシェはパナメーラS E-ハイブリッド、そして918スパイダーの両モデルとともに、自身が3モデルのPHVを市場へ投入する、世界で唯一のメーカーであることをアピール。ポルシェがもちろんその先に、自動車の電動化に対するさらなるプラン、すなわちEV=電気自動車やFCV=燃料電池車を持つことは、世界的なテクニカルトレンドを考えれば、これもまた否定はできないところなのだろうが、そこに至るまでのプロセスにおいては、PHVが理想的な技術的ソリューションであると考えることを、ポルシェは世界に向けて改めて主張したともいえる。

今回ポルシェは、この最新のカイエンS E-ハイブリッドをメインに、パナメーラS E-ハイブリッド、そしてパッセンジャー・シートからのレポートということにはなるが、918スパイダーを加えた、PHVファミリーを一堂に揃えた試乗会を、ドイツのフランクフルト空港をベースに開催した。テスト・ドライブのルートは、PHVというキャラクターを考慮してか、市街地からカントリー・ロード、そしてアウトバーンといった、さまざまなシチュエーションを持つものだった。

■カイエンS E-ハイブリッド

まずは最新モデルのカイエンS E-ハイブリッドのメカニズムを、簡単に解説しておくことにしよう。マイナーチェンジによって、フロント・マスクやリアセクションのデザインを一新。よりスポーティなフィニッシュとなったエクステリアは、新型カイエンの全車に共通する大きな魅力だ。S E-ハイブリッドではさらに、パナメーラや918スパイダーと同様に、蛍光イエロー色をブレーキ・キャリパーやエンブレムを採用。それが最新のPHVモデルであることを象徴する。

フロントに搭載されるエンジンは、3ℓ仕様のV型6気筒+スーパーチャージャー。これはそもそもアウディによって開発されたエンジンだが、長い休止時間の後に瞬間的に再始動が行われるなど、ハイブリッド・モデルでは厳しい使用環境が想定されることもあり、ポルシェはそれに対してのさまざまな対応策を講じている。このV型6気筒エンジンに、クラッチを介してエレクトリック・モーターを組み合わせることで、パラレル方式のフル・ハイブリッド・システムを完成。先に誕生したパナメーラS E-ハイブリッドとの大きな違いは、そのパワーをセルフロック式デファレンシャルによって、常時4輪へと伝達していること。RWDと4WDという駆動方式の違いは、実際の走りの中でドライバーにはどのように感じるのかは興味深い。組み合わせられるミッションは8速ATだが、こちらもEパワー・モードと呼ばれるEV走行用のシフト・プログラムを持つなどの追加機能が備わる。

ラゲッジ・ルームのフロア下に収納されるバッテリー(二次電池)も、これまでのS ハイブリッドではニッケル水素式を採用していたが、S E-ハイブリッドではリチウム・イオン式が採用された。エネルギー容量は10.8kWhと、パナメーラS E-ハイブリッドの9.4kWhよりもさらに拡大されている。ポルシェの説明によれば、今回カイエンにPHVモデルを新設定するにあたって、まず開発時の目標として掲げられたのは、79g/kmというCO2排出量を達成すること。ヨーロッパ市場の中には、この数値を達成することで購入時の補助金や、税制面での優遇措置を得ることができる国が存在するからだ。このCO2排出量を達成するために必要な燃費性能のために、Eパワー・モードでのゼロ・エミッション走行の可能距離を36kmと設定。10.8kWhというエネルギー容量は、ここから計算された数値だったのである。

333ps&440Nmを発揮する、V型6気筒+スーパーチャージャー・エンジンと、95ps&310Nmのエレクトリックモーターを組み合わせることで、416ps&590Nmのシステム最高出力&最大トルクを得たカイエンS E-ハイブリッド。ドライビング・モードには、すでに紹介しているEパワーのほかに、ハイブリッド、スポーツ、そしてEチャージがあるが、最後のEチャージは、走行中にリチウム・イオン・バッテリーの充電を最大効率で行うためのものだ。ちなみに家庭用電源を使用してのゼロからのフル充電は、3.6kWモードの標準チャージャーで約3.5時間。カイエンS E-ハイブリッドにはさらに、7.2kWの高出力チャージャーがオプションで用意され、これを使用すれば1.5時間以下でのフル充電が可能になるという。

0-100km/h加速で5.9秒、そして最高速では243km/hを実現するという(Eパワーモードの最高速は125km/h)、カイエンS E-ハイブリッド。そのパフォーマンスは “S” の称号を掲げるポルシェとして、相応しいものであるのはもちろんだ。プレミアムSUVにおいて初のPHVであり、また市場で大きな話題を呼ぶことは間違いない、このポルシェの野心作は、はたしてどのような走りを披露してくれるというのか。大きな期待とともに、そのステアリングを握った。

記事に関わった人々

  • 山崎元裕

    Motohiro Yamazaki

    1963年生まれ。青山学院大学卒。自動車雑誌編集部を経て、モータージャーナリストとして独立。「スーパーカー大王」の異名を持つ。フツーのモータージャーナリストとして試乗記事を多く自動車雑誌、自動車ウェブ媒体に寄稿する。特にスーパーカーに関する記事は得意。

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