ボルボXC60 T5 R-デザイン

公開 : 2014.08.14 11:11  更新 : 2017.05.22 13:59

更に磨きが掛かった2014年モデル

編集部では昨年の2月まで約半年間に亘ってVOLVO XC60 T5 R-DESIGNの長期テストを行い、その実力の程をレポートした。その際、編集部で最も気になったのは、走りが秀逸であるにも拘らず、最近、ユーザーの多くにとって大きな関心事のひとつとなっている燃費が、ごく平均的な数値であったことだ。編集部ではその旨をVOLVO側にも伝え、更に競争力を増すには、燃費の改善は急務であるとレポートした。しかし、この問題についてはすでに対処が進んでいて、早くも今年の2月にデビューした最新モデルは、新エンジンを搭載し大幅な燃費向上を実現したという。ならば、その結果を確認するのも責任のひとつであろう、ということで、今月から3ヶ月に亘って、レポートをお送りしたいと思う。

注目の新エンジンは、これからボルボが新たに導入する新エンジンシリーズDrive-Eの第1弾である。具体的なデータとしては、直列4気筒DOHCの直噴ターボで、91.0mm×82.0mmのボア、ストロークから1968ccの排気量を持ち、得られる出力は245ps/35.7kgmで、これまでに比べ、5ps/3.1kgm向上しているという。しかも、燃費はJC08モードで、23%も改善しているというから、いい事ずくめだ。データ上では正に我々が指摘していた点が全て改善しているという印象である。具体的な新エンジンの改良点は、燃圧を向上させた高圧インジェクターをはじめ、エンジン内部の各部摩擦低減、専用低摩擦エンジンオイル、可変制御オイルポンプ、電動ウォーターポンプ、高性能ターボチャージャーなどの採用で、ほぼ全面に渡って、徹底的に見直された。これにアイシン製の8速ATトランスミッションが装着されて、更に効率化が計られることになった。もっと徹底して燃費に注目したい人には、ECO+モードが用意される。この機能はアクセルオフ時にエンジンとトランスミッションが切り離され、惰性走行モード(ECO COAST機能)になって、エンジン回転がアイドリング状態になり、結果、燃費を抑えることができる、という仕組みだ。以上のような徹底した改良により、果たして実用レベルでどの程度の改善になったのか、早速、結果を報告しよう。

試乗車が編集部に来たのは3月14日である。それから今日まで、丁度丸1ヶ月が経過した。結論から言えば、ボルボの努力は確実に実っており、燃費は大きく改善されているということだ。先号でもレポートしたとおり、ジャーナリストによる高速道路のロングドライブの燃費競争が行われた際も、当編集部はことさら低燃費を心がけずに普通に走り、それでも14km/ℓの数値を出している。無論、通常の使用ではその数値には及ぶべくも無いが、1ヶ月、1909kmを走破し、この間には何と、袖ヶ浦フォーレスト・レースウェイのサーキット走行まで含んで217.22ℓのハイオクを消費し、平均燃費は8.7km/ℓとなった。この数値は、先年の長期テストの際の総燃費7.5km/ℓを遥かに上回っている。因みに、サーキットでエンジンを全開に回して10周以上した時を含む燃費が7.9km/ℓ。そして、この時の燃費を外し、通常の走行だけのデータでは、9.07km/ℓという優秀な値が得られた。車重2tのSUVでは立派な数値と言えよう。因みに、私の通常の走行パターンは、通勤が毎日約50kmで、その内5分の3が首都高速であり、この他、取材や出張でかなり不規則に走ることが多く、凡そ、月平均の走行距離は1500〜2000kmといったところである。4月に入って新年度となり、例年通り首都高速はかなり交通量が減っているので、今後更に燃費は向上するものと思う。

新エンジンになって良くなったのは燃費だけではない。エンジンのフィーリングは画期的に変わった。実に軽く、フォンフォン吹けるのである。だからこそ、他車の取材の際、サーキットに行った時も、思わずコースを走ってしまった訳で、その時の感触も意外にも結構速い、しかもステアリングもいい、というものだった。確かに摩擦の低減の効果は大きく、あまりにスムーズなので、つい回したくなるのは事実である。R-DESIGNで、20インチのタイヤを装着する足回りは、都内の低速走行でこそ、ややドタバタ感があるものの、ワインディングや高速道路、そして、勿論、サーキットではスムーズで高いグリップが得られる。特にステアリングは、大きく変わっていないはずだが、操舵力は一定で、フィーリングは大きく改善されたと思う。

と言うことで、まずは、ボルボの進歩を目の当たりにした訳だが、次号では更に距離を伸ばした印象を述べてみたい。

(AUTOCAR No.133 2014年4月26日発売号掲載)

フェイスリフトは成功か?

2014年モデルのボルボ60シリーズは、フェイスリフトが施され、かなり印象が変わった。どう変わったかというと、これまでの顔立ちはどちらかと言うと端正でややおとなしい風貌であったのだが、フロントグリルを拡大したことにより、よりアグレッシブな迫力のある顔つきに変貌している。実際に新旧を比べてみると、フロント回り以外はほぼ変わっていないのだが、グリル回りとその周辺のデザインに手を入れるだけで、これだけイメージが変わってしまう、ということは驚きである。中身の走りも大きく進歩しているが、外観もそれに合わせた、ということなのだろうか。

ボディ全体のデザインは、これまでどおり、クリーンで気持ちの良いスッキリしたラインで構成され、嫌味がなく好感が持てる。もうすぐ、モデルチェンジをひかえているXC90が、このXC60のデザインのルーツなのだが、既に新型XC90のコンセプト・モデルはショーで発表されていて、今後のボルボのSUVの進化が窺がえそうだ。とまれ、このXC60はとても気持ちの良いデザインであることは間違いない。

先月号で、大きく走行距離を伸ばすつもりと書いたが、残念ながら事実は全く逆の結果になってしまった。その理由は、ゴールデン・ウイークとその前後で、イベントのために他のクルマに乗る機会が多く、それ以外にも、どうしても乗らなければならない試乗も重なって、殆ど時間をとることができなかったのだ。実際にこのクルマに乗ったのは、僅かに300km強で、今回はデータらしいデータにはならなかった。しかし、無駄にガレージで惰眠を貪っていた訳ではなく、リアの広いスペースを利用して、嵩張る荷物の移動などに使い、大変重宝した。こうした際に、唯一不満だったのは、リヤゲートの開閉がいささか重いことで、特に開けた状態のゲートを下げるのは力が必要で、どうしてもボディに触れるので手も汚れてしまう。ここはオートで閉まる機構をぜひ装備して頂きたいところだ。

さて、4月の輸入車新車販売台数が先頃発表になった。消費税が8%に上昇した月で、その結果が注目されたが、トータルで20%程度の落ち込みとなった。しかし、この数字は予想とそれほど変わらず、むしろ胸をなで下ろしているメーカーが多いと聞いている。ボルボは4月こそかなり落ち込んだものの、今年度の1~4月のトータルでは、前年対比114.4%と健闘している。おそらく全体としてみると、5〜6月で1度、前年割れをし、その後徐々に回復をしてゆくとの推測が大半である。ボルボもその動きに乗ってくるのでないかと思うが、販売の中心となるのは相変わらず販売が好調なV40シリーズと、V60、S60、XC60からなる60シリーズであることは間違いない。とすれば、新エンジンを搭載したXC60に掛かる期待も大きいものがあるが、それに充分答えられる車両だと思う。

(AUTOCAR No.134 2014年5月26日発売号掲載)

燃費が更に向上

長期レポートが3ヶ月目に入ったボルボXC60だが、今月は走行距離もかなり伸び、大活躍の月であった。私が通常、日常の取材や通勤の足として使う場合、1ヶ月間に走る距離は、凡そ1500〜2000kmといったところだが、今月はその最大限を越え2139Kmの走行となった。このような場合には、遠出をすることが必ず入り、今回も京都往復が1回、長野の上田への往復が1回あり、この他に、東京近郊への取材も何回かこなしている。従って、高速道路の走行の距離数も伸び、それにつれて燃費も飛躍的に向上した。トータルでは、10km/ℓに迫る9.8km/ℓという素晴らしい数値を叩き出している。先月までの平均は8.7km/ℓであったから、何と約1km/ℓ以上もの改善となった。ロングランの際の燃費低減の効果は絶大なものがあると思う。無論、街中の走行でも、今や当たり前となったアイドリング・ストップをオフにはせず、スタート時のアクセルの踏み込みも意識して注意した結果である。レポートを開始した時からの通算の燃費でも9.36km/ℓで、先年の前モデルのテストの際の7km/ℓ台から見れば著しく改善した数値だと思う。梅雨に入る前までは、ECO+モードを積極的に選択し、燃費の向上に努めていたが、最高気温が30℃に迫るようになった最近では、ECO+モードに入れるとエアコンの効きがかなり弱まるため、絶対的な温度はともかく、さっぱり感がなくなってしまうので、通常のモードのままにしている。燃費を良くするために、無用な汗をかく、などというのは正に本末転倒で、全く意味のないことだからだ。

京都往復の際は、第2東名を使用し、かなりのペースで走ったが実に快適で、ちょっと大きな声では言えないようなスピード域でも、非常に安定していて、気持ちの良い走りが体験できた。しかし、もっと眼を見張ったのは、浅間ヒルクライムの取材の際、標高2000mあまりの高峰高原まで駆け上がった時で、ヘアピンコーナーの続くワインディングをロールの少ないスポーツセッティングの足と低回転からリニアに効くターボの分厚いトルクのお陰で苦もなくクリアし、実際にタイムを計ったら、かなり良い数値が出るのでは、と思わせてくれた。この際も、2速、3速を多用したが、燃費に大きな影響はなかった。やはり、このクルマは、都内の混んだ路を走るより、郊外を走行する方が遥かに良い面が出る。SUVなのだから、当然といえば当然なのだが。

逆に、ワインディングで、いささか不利なのは、ボディサイズで、国内の片側1車線の道路ではXC60のサイズでもやや大きいと感じてしまう。もう一回り小ぶりなサイズにこのスペックの装備であれば、更に使い勝手が良いように思うのだが、そのような要望にはV40のクロスカントリーがある、ということなのだろうか。

ところで、このXC60のシートは、良く出来ていると思う。左右のホールドもしっかりしていて、ワインディングでも、何の不安もない。長時間座っていても、どこかが痛くなるとか疲れるということはなく、優秀だと思う。そして、標準で付いているセンサーによって、斜め後ろの車両の存在も確認できるので、いちいち車線変更の際に、首を振って後ろを振り返る必要もなく、その分、余裕のあるドライビングが実現している。

(AUTOCAR No.135 2014年6月26日発売号掲載)

新エンジンへの改良は大成功

3月4日より開始したこのXC60のレポートも、4ヶ月間で5896kmを走破し、無事に終了することとなった。今回のレポートの主な目的は、新エンジンを搭載したXC60がどの程度ドライバビリティの向上を果たしたか、ということであったが、5000km以上を走ってみて、充分にその成果が感じられたということである。まずは数値的な検証を行ってみよう。

今回、5896kmを走破し、その間に消費したハイオクガソリンは630.99ℓで、平均燃費は、9.34km/ℓとなった。この数値は前回、4525kmを走破して得た平均燃費7.5km/ℓを1.84km/ℓ上回っている。走行内容は、前回よりもハードで、あまり例のないサーキット走行や、峠道の往復など、かなりアクセルを踏み込んだ走行を含んでいるにも係わらずこの差がでたのは、本当に大きい効果だと思う。それだけ、ターボチャージャー装備の2.0ℓの新エンジンで、徹底して燃費向上に取り組んだ結果であろう。アイドリング・ストップも確実に効き、特にECO+のモードにすると、その時点で回転数自体が下がり、しかも、アクセル・オフ時の走行ではクラッチが切り離されてアイドリングに設定されてしまうので、極端に言えば、殆ど2000rpm以上で回っている時がないほど、低回転になる。だから、非常に良い数値が出るのだが、梅雨の終わりで、連日30℃を越えるようなこの時期ではエアコンもエコモードになり、殆ど効かなくなるので、このモードは使っていない。

このクルマで、最も感銘を受けたのは、R-DESIGNと名付けられた、サスペンション・チューニングで、20インチのタイヤの装着と相まって、ワインディングでは、とてもSUVとは思われぬ活発な走りを実現してくれている。リニアにトルクが掛かるエンジンと、スムーズに動く足のお陰で、ヘアピンが続くような山岳路でも脱出は早く、本当に気持ちの良い走りが出来た。反面、都内では、ややバタバタ感があり、20インチ・ホィールのため、キャッツアイなども、引っ掛けないように注意が必要であった。ブラックで統一されたコクピットは、一目見て計器の場所も認識でき、ボルボ得意の数々の安全装備も、分かりやすく配置されていた。私が最も、有用だとおもったのは、ブラインドスポット・インフォメーションシステムで、左右の後方にクルマが存在することを認識でき、首をわざわざ回す必要がないので、非常に便利であった。無論、バックモニターや、前後の障害物認識モニターも狭い場所に駐車するようなときは、非常に助かった。車間警告機能も、渋滞時の低速走行時などは特に必要で、ハッとすることも何回かはあったことを告白しよう。

SUVなのだから、リヤの荷室が広いのは当たり前のように思いがちだが、ゴルフバックが横に置ける数少ない1台で、何回か、大量の荷物を運ぶ必要に迫られた時も、苦もなく全てを飲み込んでくれて、非常に助かった。

では最後に、このクルマは買いか、と聞かれればどう応えるかだが、唯一の欠点は車高が高いので、乗り降りの際、足がそれほど長くない私の場合は、ズボンがボディに触れてしまうことぐらいで、長く付き合える伴侶としては、自信を持ってお勧めできる1台だと思う。もともと、ボルボは、長く乗れば乗るほど、メリットが出てくるクルマだと思っているが、このXC60も、正にそのとおりなのである。

(AUTOCAR No.136 2014年7月26日発売号掲載)

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