クルマ漬けの毎日から

2015.12.29

想い多き冬越しの季節

Everything in 2015 raises questions about 2016

 
シトロエンのCEOを務めるダイナミックなイギリス人、リンダ・ジャクソンとランチを一緒にするのに、今週はちょうどよいタイミングだった。以前、ジャクソンはイギリスのシトロエンのトップを務めていたが、昨年、シトロエン全体の舵取りを任されることになった。ジャクソンの指揮のもと、シトロエンは96年間の歴史を振り返ってその長所と短所を把握し、未来の道筋を定めようとしている。男女差別と思わないでほしいが、こういった課題は女性の指揮官のもと実行するほうが、とりわけうまく行くように思う。

シトロエンでは目下、1. まとまりのないモデルレンジを見直すこと、2. 強気だが現実的な販売拡大計画を策定すること、3. 傑出した価値の ‘革新’ と ‘快適性’ を将来に向けて確立すること、4. 大いに愛されてきた油圧サスペンション、ハイドロニューマティックをシトロエン特有の新しいものに変更すること、といった4つの見直しを進めているという。大きな声では言えないが、ハイドロニューマティックは今日では複雑すぎるうえにコストも高い。これらの見直しに成功したら、その結果はどうなるか? 少なくとも1名のシトロエン・オーナー(私)は、シトロエンの未来を確信している。

 

 
フォルクスワーゲンのチーフデザイナー、ワルター・デ・シルバ(64歳)が退職すると聞き、残念に思った。デ・シルバは静かにフォルクスワーゲンを去ることになった。前CEOのマルティン・ウィンターコルンが辞任した結果、デ・シルバの世界も崩壊することになったのだ。新しいクルマを生み出す素晴らしいコンビとして、このふたりは世界中のモーターショーを旅し、大きな称賛を受けてきた。だが、ウィンターコルンが辞職せざるを得なくなった時、デ・シルバは未来に希望が持てない状況になってしまったにちがいない。とくに今、フォルクスワーゲンは節約に努めなければならず、コンセプトカーもその対象だ。

 
とはいえ、デ・シルバは素晴らしい遺産を残している。自身のペンで素晴らしいクルマをたくさん生み出し、また他のデザイナーたちが新しいクルマを創り出せるように影響を与えた。デ・シルバはよく懇親会で、小さな紙に見事なスケッチをしていた。業界の大物デザイナーになっても、子供が筆記帳の裏側にいたずら書きをしている時のように、嬉しそうにクルマを描いていることを私たち自動車ジャーナリストに証明してくれた。

自分が手がけたいちばん美しいクルマはアウディA5だといつも言う彼だが、私はその栄誉に輝くのはアルファロメオ156ではないかと思っている。不朽のプロポーションをもつ156のデザインは、最近デビューしたばかりのジュリアに影響を与えていることは、誕生して20年近く経過しようとも、まったく疑う余地がない。

 

 
休暇のあいだ乗っていたフォルクスワーゲンのe-Up!を後ろ髪を引かれる思いで返却した。高速道路を走る時は定期的に休憩をとって急速充電をすることがすっかり習慣になってきた。だが、それにもかかわらず、e-Up!のようなクルマはより長い航続距離が必要だと今回の試乗で確信した。イギリスで発表されているe-Up!の航続距離は約90mile(約145km)であるが、実際にはドライバーは60mile(約97km)走ったところで心配しはじめる。そして80mile(129km)走る頃には、近くに充電ポイントがあるだろうかととても不安になる。フォルクスワーゲンは、このクルマはシティカーなので一度に走る距離は短いはずだと指摘するだろう。だが問題なのは、e-Up!はどの点でも非常に優秀なので(時々、妙に跳ねる乗り心地になることを除けば)、このクルマで世界中をドライブできるような気分になってしまうことだ。

 

 
価格20万ポンドのベントレー・ベンテイガを試乗した。自動車ジャーナリストとしてこのクルマに早期に試乗できたことを幸運に思っている。とくに今、スペインのマラガにいて背中に太陽の暖かい日差しを感じている時に、イギリスでは空は暗い雲に覆われて雨が降っていると聞けば、なおさらありがたみを感じる。変なことを言っているかもしれないが、ベンテイガは私にとってまるで外国の領土にいるように、なじみのない領域のSUVだ。かねがねレンジローバー・クラスまでのSUVには親しんできたが、ベンテイガは私の知らないクラスの人々、そして決して交わることがない人たちが乗るクルマだ。適切な批評をするには、そういう人たちとこのクルマのクラスを十分に考慮しなければならない。

それはそうと、このモデルはやはり素晴らしい。ベンテイガを買う人の多くは、このクルマを日常に使うだろう。というのも、古きよき時代のラグジュアリーと本物の実用性が、正確な判断のもとで結び合っているからだ。また、このクルマに敏捷性が備わっていることがステアリングフィールからわかる。さらに、オフロードの驚くべき能力も備わっており、 攻めの走りが必要になる路面や傾斜で、ベンテイガはオフロード性能を大いに発揮した。ベントレーでは、計画の50%増の販売を確信している。また今後、小型のSUVの導入も計画している。ベンテイガという名前が発表された時には議論が起きたが、その弟モデルの名前もやはり議論になるのか、今から楽しみにしている。

 

 
クリスマス休暇をどのクルマで過ごすかが、今私の課題になっている。この数年、クリスマス休暇には、自分とカミさん、成人しているふたりの息子、そのガールフレンド、それにおばあさんが1台のクルマでイングランドを半分くらい移動しなければならなくなる。しかも、楽に移動したいと思っている。そうなるとゆったりした7人乗りを選ぶのがよさそうだ。この場合、私の頭に自動的に思い浮かぶクルマは、ランドローバー・ディスカバリーだ。それで、ランドローバーの社有車を管理する人たちにディスカバリーを貸してもらえないかとお願いしたところ、快諾してくれた。クリスマス・プレゼントというものがあるならば、まさにこれがそうであろう。

ディスカバリーをドライブして休暇を過ごすことは重要だ。なぜなら、このクルマは来年、新車のリストから外れるからだ。ロードノイズが極力低いことがクルマに対する私のこだわりのひとつであるが、現在のディスカバリーはがっちりしているが静粛性の高いツインレールT5シャシーを採用しており、ロードノイズは非常に低く、優秀だ。独立懸架エアサスペンションもロードノイズの低さに貢献している。後継モデルは合理化、現代化されたオールアルミボディの美しいクルマになるだろう。きっと私は後継モデルを好きになると思う。だが、一方で現行ディスカバリーの販売が終わってしまうのは残念だ。

 

 
型にはまった考え方はしない。これが、毎年この時期に心がけていることだ。もし過去を振り返るなら、新しい視点で振り返るのがよい。だが、今年に限っては、このルールは当てはまらない。2015年に起きたことはすべて、引き続き2016年の関心事となる。フォルクスワーゲンは挽回するだろうか? ヨーロッパでディーゼルは人気を失ったままだろうか? もしディーゼルに乗る人が少なくなれば、CO2の排出量はどうなるのか? そして、その結果何が起きるのだろう? EUは適切な排ガス基準の合意にどれくらい時間がかかるだろうか? SUVは世界を制するだろうか? 電気自動車の需要は続くだろうか? TVRはもっている可能性を十分に発揮するだろうか? 来年も注目すべきことがたくさんあり、過去を振り返る時間はないようだ。

最後に、今年も厚いご支援をいただいた読者の皆さまに心より御礼を申し上げたい。近頃、不振に陥るメディアが多い中、AUTOCARは皆さまのおかげで活気にあふれている。素晴らしいクリスマスと良い年をお迎えください。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)



 
 

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