クルマ漬けの毎日から

2016.01.30

七日目の朝は決断のとき

The kind invitation to drive a supercar for a week

 
年末になると、多くの人がその年のうちにやっておくべきことをすべて終えたいという気持ちに駆られる。私もそういう気持ちから、ハイブリッドのスーパーカー、i8に1週間試乗しませんかというBMWのありがたい誘いをお受けした。そして、これは2015年に私がしたことのなかで最高の出来事のひとつになった。

i8には、後輪を駆動させる230psの1.5ℓ3気筒ミドシップ・ターボエンジン、それに前輪を駆動させる130psのモーターが採用されている。モーターだけでも立派に15mile(約24km)の走行が可能だが、エンジンとモーターの両方を作動させれば、0-100km/h加速はわずか4.4秒であり、リミッターが作動する最高速155mph(約250km/h)になんなく達する。燃料タンク1杯分の燃費は40mpg(約14.2km/ℓ)を実現できるし(この燃料でバッテリーの充電も可能)、カーボンファイバーの精巧な構造により、車重は1575kgという驚くべき軽さだ。

素晴らしいスペックであるが、もっと重要なのは実際の走りだ。i8は猛烈というより俊足だが、このことからドライバーはi8がスプリンターではなく最高のGTだと気がつく。ハイギヤードで、心地よい正確さもあり、運転次第でリラックスした走りも気持ちが高ぶる走りも可能だ。とりわけ、現代のドライブ環境にすばやく対処できるので、高額のスーパーカーが予期せぬ時にスリップして怖い思いをさせられたり、視界が悪くなったりするような悪天候の時であっても、自宅までの遠距離ドライブをこのクルマで走りたいという気持ちになる。10万ポンド支払ってクルマを買おうとしている人の全員がi8を買おうとは思わないだろうが、私はその選択をしてもいいと思う。

 

 
ゲイドン(イギリスのウォーリックの近く)にあるジャガー・ランドローバーのエンジニアリングの中枢部へ行った。チーフエンジニアのニック・ロジャーズに会い、ジャガーが新たにフォーミュラEに参戦するという嬉しい発表について取材をした。フォーミュラEへの参戦を機に、数年後に電気自動車のラインナップがジャガーのショールームに登場する見込みだ。

ジャガーの人たちはシングルシーターのレースに新たに参戦するにあたって、十分に自己分析を行ったにちがいない。というのも、ジャガーは2000年から2004年にかけてフォーミュラ1に参戦していたが、その恩恵は少なかったからだ。だが、費用対効果という点では今回はまったく異なる。フォーミュラEの効果は大きく、将来のロードカーに直接結びつく。ジャガー・ランドローバーはウィリアムズに経験豊かなパートナーがいて、すでに中心になって活動している。ロジャーズもこのプロジェクトには夢中のようだ。ロンドンのバタシーパークで、ジャガーのシングルシーターEVのレーシングカーを見られるとは、ほんの数年前にだれが予想していただろうか。私はまったく予想していなかった。

 

 
このところオートカーの新しいベントレーであちこちドライブして自分自身を元気づけている。そのベントレーとは、走行距離は21,000mile(約33,810km)、2012年前半に登録されたオニキス(メタルブラック)のコンチネンタルGT V8クーペだ。このクルマを提供してくれたバーミンガムのベントレーの正規販売店によれば、中古車だからといって、そのクルマが魅力を失ってはいないと私たちを納得させることがこのコンチネンタルGTの役目だという。

ベントレーはこの点に自信を持っているので、認定中古車プログラムを生産から11年が経過した厳選モデルにまで拡大している。これは素晴らしい表明だ。バーミンガムの正規販売店が改装中だったため、コンチネンタルGTはクルー(ベントレーの本拠地)で受け取った。このクルマは美しい。ボディに傷はないし、まるでならし運転が終わったばかりの新しいクルマのように感じる。受け取りの最中に、ベントレーの会長兼CEOのヴォルフガング・デュルハイマーに偶然出会った。クルマが好きなデュルハイマーはオートカーのコンチネンタルGTをまるで自分のクルマのように気に入り、ためになる運転のアドバイスをしてくれた。「セレクターレバーを手前に引くのを忘れないように」と。

ご存じの方が多いと思うが、コンチネンタルGTでは、セレクターレバーを後ろに入れてスポーツモードを選択する。スポーツモードはスロットルのレスポンスを鋭くし、8速パドルシフト付ATを低いギヤで保とうとする。すると、ツインターボV8はまるで地震が起きたかと思うほどの轟音を発する。家まで180mile(290km)ほど走ったが、デュルハイマーのアドバイスは的確だった。

 

 
ジャガーについてもう少し話そう。ジャガーのフォーミュラEティームのボス、ジェームズ・バークレーはドライバーのラインナップを5月に発表すると聞いている。ということは、バークレーはちょうど今頃、交渉を行っているにちがいない。われわれオートカー編集部(英国版)では、彼が能力のある、個性的なイギリス人ドライバーを選び、そのドライバーたちを国民的ヒーローにするために最大限の支援をしてほしいと願っている。

もしジャガーが(そうはなりそうもないが)ジェンソン・バトン、それにマクラーレン・オートスポートBRDCアワードを受賞したばかりのウィル・パーマーを採用すれば、どれほど注目を集めるだろうか。以前、イギリスを拠点に活動していたフォードのWRCワークスティームはあまり知名度の高くないフィンランド人ドライバーを続けて採用したが、思うに、このことはその後に長く影を落とした。本拠地イギリスで、だれも関心をもたなかったからだ。街角でだれかにラリー・ドライバーの名前を尋ねれば、「コリン・マクレー」という答えが今も返ってくるだろう。それにWRCと聞けば、ゴールドのホイールを履いたブルーのスバルを思い浮かべる人も多いはずだ。どちらも20年前の話であるが。

 

 
今年最初の大きな取材をするためにバンベリー(英国オックスフォード州)へ行き、フォードの世界耐久レースのティームに会った。フォードは1966年のル・マンでGT40が記憶に残る1-2-3フィニッシュを果たしたが、その快挙を記念して、今年、フォード・ティームは大西洋の両側で行われるレースにフォードGTの最新マシンで参戦する。IMSA(アメリカ)とWEC(ヨーロッパ、アジア、中東)に2台のGTを擁するフォード・ティームが1ティームずつ参戦するが、6月のル・マンにはこの4台がそろって参戦し、熱戦を繰り広げることになりそうだ。ル・マンでは、WTCCで3回優勝しているイギリス人のアンディ・プリオールもフォードGTのハンドルを握るので、きっとイギリスからも大勢の人たちが観戦に出かけるだろう。

取材中、フォード・ティームからは “友達や家族のような雰囲気” が大いに感じられた。ティーム・オーナーのチップ・ガナッシ、ティーム代表のジョージ・ハワード-チャッペル、フォード・パフォーマンスのグローバルチーフのデイブ・ペリキャック、マルチマティック社のマスター・エンジニアのラリー・ホールト(ロードとレースカーの両方の製造責任者)、それに最後にドライバーのプリオールとも話ができた。プリオールはフォードに加わることは、“いちかばちかの決断” だったと話して、ジャーナリストとティームのメンバーの両方から笑いを誘った(彼はこの日がフォードに加わって2日目だった)。プリオールは自分の選択肢を十分に検討した結果、ガナッシ–マルチマティック–フォードには大いに勝算があると考え、決断したのだった。世界耐久は4月にシルバーストーンで開幕するが、何か新しい特別な展開が期待できそうだ。

 

 
フォルクスワーゲンの排ガス不正が発覚して以後、クルマの実燃費と公式燃費は一致しないという点について、イギリスではマスコミからの批判が再燃している。ところで、オートカー編集部(英国版)では、実燃費が公式燃費を実現できるクルマを発見した。なんと、それはフォルクスワーゲングループの1台だ。編集部に最近やってきたベントレーのコンチネンタルGTの公式燃費(複合モード)は26.1mpg(約9.1km/ℓ)であるが、トランクに荷物を多く載せすぎなければ、この燃費を実現できる。実際、クルー(ベントレーの本拠地)から家まで帰る途中でこの燃費を実現できた。だがその後、ベントレーのCEO、ヴォルフガング・デュルハイマーのアドバイスに従ったところ、さらに発見があった。気分が盛り上がってスポーツモードで運転すれば、実燃費は18〜21mpg(約6.4〜7.4km/ℓ)ほどであることを。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)


 
 

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