社会人1年目、ポルシェを買う。

2016.05.14

第11話:社会人1年目、ポルシェをほんとうに買う。

「これだな。これ、OK、買おう」
となり、そこからがドキドキだった。
いうまでもなく ‘資金繰り’ に関してである。

横須賀の996を探すうえでお世話になった
ルマン・ガレージの北島さんのお店で買うために、
横須賀から引っぱっていただくことになったのはいいが
「まだローン通るかわかんないですよ……」
と弱々しい声で笹本編集長にいうと、
「あぁ、そうだったなぁ」という返答とともに
笹本編集長はいきなりどこかに電話をしはじめた。

「あ、もしもし? 笹本です〜。
 うちの若いのがクルマ買いましてねぇ
 ローン通してやってくださいや」

‘セタシン’ というところに電話しているらしい。
ヤバイところではあるまいかとビクビクしていると、
しだいにそれは世田谷信用金庫の略
であることがわかった。

笹本編集長がネコ・パブリッシングを設立したときの
メイン・バンクであり、その当時の担当者さんが、
今はローン審査の窓口にいるのだそうだ。

「審査するらしいから用紙送りゃあいいさ」
あわててサイトから審査用紙を
ダウンロードし、必要事項を書いた。
当然印鑑ももっていないから、
100円ショップに駆け込んだはいいが、
スタンプ印を買って帰り、皆に大笑いされ
三軒茶屋駅のすぐそばの三角地帯にある
印鑑屋さんに駆け込み、
‘ちゃんとした印鑑’ をふたたび買った。
(ちなみに三文印は返品が効かず
必要もないのに延長コードと交換してもらった)

クルマの値段、住所、年収などを書き、
北島さんの奥さまに大急ぎで作っていただいた
注文書と一緒にFAXを恐る恐る送信した。
通ればいいなという願いよりも、
会社の全社員がこのことを知っているから
通らなかったらかなり恥ずかしいな、というのと
通ったとしても支払いをどうしよう……
という気持ちの方が明らかに強かった。

ちなみに支払い回数は96回。
昨日の提案で打診した70万円は
カウントせずに申請した。
あとで支払い回数を変えられるため
最初は月々のコストを抑えることを目的にしたのと
ポルシェ996はもう(たぶん)底値であるうえ、
(もちろん大どんでん返しがある可能性もあるが)
多分、中古マーケットの価格は大暴落しないだろう
という読みがあったからだ。これはポルシェならでは。

きのうまで、ホイールのガリ傷や
フェンダーのえくぼのことをくよくよ悩んでいたのに
もう今は、そのクルマを買おうとしている。
すごく落ち着かないし、正直何も手につかない。

明くる日。

オフィスにつくやいなや、
携帯電話に知らない番号から電話があった。
たぶん世田谷信用金庫からだ。
書類に書いていた内容の確認だと思うが、
会話の聞こえないバルコニーまで走り、
恐る恐るでてみると

「あ、上野さま、お世話になります。
 世田谷信用金庫の◯◯です。
 早ければ明日、口座に振り込みますので
 印鑑と身分証明書をお持ちになって窓口に……」

「あの……ということは、
 ローンの審査を通過したということでしょうか」

「えぇ、そうですけど?」

“ちょっとコンビニいってくるわ”みたいに、
さらっとおっしゃるものだから、
こちらも喜ぶタイミングを失ったというか、
とにかくあっけらかんとしていた。

でも、電話を切ったあとに、
金銭的なアシストを受けずにローンが通ったことに
ふつふつと喜びがこみあげてくる。
取り急ぎ笹本さんに電話しなきゃ。
「笹本さん、ローン通ったみたいです」
「あぁ、知ってるよ」
むむ……、大人というのはクールである。

「あ、それでさぁ、
 もうあした、北島さんに取り行ってもらおうや」
と笹本さん。

えッ! まだ駐車場も決めていないし、
保険も入っていない。当然心の準備もできていない。

とにもかくにも、あしたポルシェが僕の手元にくるようである。
 
 
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記事に関わった人々

  • 上野太朗

    Taro Ueno

    1991年生まれ。親が買ってくれた玩具はミニカー、ゲームはレース系、書籍は自動車関連、週末は父のサーキット走行のタイム計測というエリート・コース(?)を歩む。学生時代はボルボ940→アルファ・スパイダー(916)→トヨタ86→アルファ156→マツダ・ロードスター(NC)→VWゴルフGTIにありったけのお金を溶かす。ある日突然、編集長から「遊びにこない?」の電話。現職に至る。
 
 

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