社会人1年目、ポルシェを買う。

2016.08.04

第26話:タイヤのいろいろ。最終話

photo:花村英典 (Hidenori Hanamura)

 
僕:そのノイズ、
ミシュランPS2はどうなんでしょうか?

石井さん:意外とあんまりうるさくはないよ。
ちょっとヒュイーンヒュイーンって聞こえてくるけど
ボリュームとしては、それほどでもないと思うなぁ。

前のタイヤとの違いとかはどう?

僕:
それが正直わかんないです。古かったのもありますし。
あまり比較対象にならないかもしれません。

石井さん:
タイヤ・ノイズって音量だけだと思われがちだけど、
音質もあるんです。一般的に ‘耳障り’ といわれるのは
高音側なんだ。逆に低い音はあまり気にならない。

ちなみにこのヒュイーンっていう音は、
タイヤの溝のなかを空気がぶつかっている音だね。
パターンに由来したパターン・ノイズっていいます。

あ、そうそう、ノイズの発生は3つあるのね。
ロード・ノイズ、パターン・ノイズ、
そして、空洞共鳴音の3つです。

僕:
ロード・ノイズはタイヤが路面とあたる音ですよね。
パターン・ノイズは空気が溝のなかで共鳴するもの。
あれ? 空洞共鳴音とはどう違うんでしょうか……。

石井さん:
たとえばバスケット・ボールを手のひらで叩くと、
ボールのなかでパァーーーンと音が反響するよね。
あれとおなじ理屈。タイヤのなかで音が響くの。

空洞共鳴音は首都高3号線とかで
継ぎ目を思いっきり踏んでみると体感しやすい。
プレミアム・コンフォートだと低めのトンッって音が
軽く鳴ったあとに、あっという間に消えるけど、
うるさいタイヤだと高めのパァーンみたいな音なんだ。

僕:音でいうと、ミシュランPS2に換えたあと
継ぎ目を超えるたびに、シュタッ シュタッ って、
湿り気のある音だなぁと思ったことがあります。

石井さん:それ、気持ちいいと感じたでしょ?
PS2って、もちろんプレミアム・コンフォートほど
ノイズを省くことに力を注いでいるわけじゃないけど
そのぶん ‘ダンピングがいい’ という結果がでている。

僕:すっごく気持ちがいい音です。
でも、ダンピング……。またむずかしそうな……。

石井さん:
ダンピングがいいタイヤだと、継ぎ目をこえると
一発でタイヤがもとのカタチに戻るイメージね。
そうじゃないボヨヨヨヨンと上下動がのこる。
ためしに空気圧を落としてみると、ブニョンというか
ボヨヨヨヨンっていう気持ち悪さを感じられると思う。

僕:じゃあ硬いほうが?

石井さん:これまた駆け引きのはなし。
このタイヤの場合、硬すぎず、やわらかすぎず、
とてもうまい落としどころを見つけられてるね。
後味がすっきりしているといってもいいかもな。
落としどころがとてもうまいなぁと感心します。

もちろんこのスタンッていうダンピングのよさも、
スポーティに感じる 源 ではあるよ。まちがいなく。

僕:なるほど。だとしたらこれらの要素が、
トータル・バランスというやつでしょうか。

石井さん:ふふふ(笑)

僕:え……(笑)

石井さん:
トータル・パフォーマンスっていう方が
ミシュラン関係者の方々にはよろこばれます(笑)
バランスっていうと、ぜんぶ80点みたいじゃない?
ぜーんぶ、100点というのをミシュランは目指してる。

僕:ミシュランったら貪欲ですね(笑)
このタイヤの評価としてはトータルでいかがですか?

石井さん:とにかくポルシェ996に合ってる。
‘ここが中立です’ というのもすごくわかりやすいよね。
微舵領域も曖昧さがないし、かといって過敏でもない。
おもったとおりって、こういうことだなぁと感じたよ。

僕:
‘ここを改善してほしい’ みたいなのも聞いてみたいです。

石井さん:んー、ははは(笑)
ものすごく強いていうならば、高周波のノイズかなぁ。
でもこれは、しょうがないと思えるレベルだよね。
さほどうるさくないし、そもそもスポーツ・タイヤだしさ。
それよりも粘り強さと直感性の高さに僕は目がいくよ。
乗り心地も全然わるくない。RRの場合、
リアがガツンと衝撃を伝えるときもあるけど、
それさえも感じなかったと思う。

僕:
なるほど。でもここまで突き詰められたということは、
タイヤ技術は頭打ちしているんじゃないかと思います。

石井さん:
もう進化しないんじゃないかっていわれながら
ずっと進化してきたからねぇ。バイアス→ラジアルに
なったときがものすごく大きな進化だったけれど、
そのあとも少しずつ少しずつよくなっていってるんだ。

だからいろいろなタイヤを常にずっと試してみてね。
いろいろなと車格を観察してみるのもいいと思う。

僕:はい、わかりました。
ホイールにくっつけるゴムひとつから、
これほどの学びと変化があるとは思いませんでした。
石井昌道さん、今回はどうもありがとうございました。

石井さん:こちらこそありがとうございました。
僕もとても勉強になりました。
 
 
※今回も最後までご覧になってくださり、
 ありがとうございます。
 いや、長い長いタイヤの旅に根気づよく
 ついてきてくださりありがとうございました。
 
 なにかひとつでも
 シャカイチ読者の皆さまにとって
 得るものがあったとしたらうれしいです。

 目の前に「ポルシェ」という壮大な課題が
 ポンと置かれているのがこれまでだとしたら、
 これからはタイヤをはじめとするさまざまな
 「発展問題」のようなものが、
 つぎつぎと出てくるんだろうなぁと感じています。

 なんだかアタマがぼーっとしてきました。
 気温が高いせいだといいんだけれど。

 今後とも、[email protected] まで、
 皆さまの声をお聞かせください。
 もちろん、なんでもないメールだって
 お待ちしております。

 
 

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