コラム&エッセイ

2016.09.27

クルマ漬けの毎日から

今のところ今年いちばんの変わり種

The year’s weirdest machine so far

 
今のところ今年いちばん変わったクルマに試乗するために、イングランド中部のミルブルック試験場へ行った。そのクルマは、ゴードン・マーレーがデザインしたOXという木製ボディの軽量トラックだ。OXは平箱に収納されたパーツの状態(フラットパック)でユーザーに納められ、ユーザー自身が現場で組み立てる方式を採用している。また強度、扱いやすさ、低コストがキーとなる人里離れた場所で使用されることを意図して設計されている。この300万ポンド(39億円)のプロジェクトは、慈善家のサー・トーキル・ノーマンの独創的なアイディアによるものだ。サー・トーキルは長年、“アフリカのためのトラック” を造りたいと思い続けてきた。そしてついにその夢を実現したのだ。OXにはすでに大手企業が関心を寄せているが、現時点でOXを発表した理由のひとつは、有力な後援者をさらに見つけるためだ。

 
私はOXに特別な気持ちを持っている。というのも4、5年前にサー・トーキルとマーレーの最初の顔合わせの仲介をしたからだ(サー・トーキルはイングランド南西部のグロスターシャーに住んでいて、私の家から近い)。それにOXの機能や仕様について話し合った初期の打ち合わせにも参加したが、資金の話が始まった時点から身を引いた。とはいえ、OXはアイディアから実際に走るプロトタイプまで全てのプロセスを直接見てきたクルマなので、愛着を感じている。

 

 
もし私が半年間BMW i8の長期テストをしていたとしても、同僚のアンドリュー・フランケルほど気前よく他のジャーナリストとi8をシェアできないだろう。寛大なフランケルは自分が他のクルマのロードテストをしている間、i8を同僚に貸し出している。それで私はi8を借りてコベントリーへ取材に出かけた。i8は速く、緻密で運転しやすいクルマだ。それに賢いクルマでもある。354bhpのパフォーマンスは3つの動力源(ふたつのモーターと3気筒のガソリンエンジン)から発せられるが、トルクの伝達はとてもなめらかで、つなぎ目を感じることはほとんどない。

 
i8はGTなのか、それともスポーツカーなのかという議論をよく耳にする。落ち着いたパフォーマンスと価格を理由に、i8はポルシェ911タイプのクルマではないと批判する人もいる。だが、もっと広く考えるべきだと思う。i8は価格10万ポンド(1300万円)でハイブリッドのパフォーマンスカーを造ろうというBMWの実直な試みなのだから。それに、他にこういうクルマはない。他のハイブリッドは遅いか、ファミリーカーか、それとも100万ポンドのハイパーカーかのいずれかだ。i8には先駆的な素晴らしさがある上に、それ以外にも優秀な点がいくつも備わっている。このことをたたえるべきだ。ちなみに、コベントリーへの200mile(322km)の取材の旅は平均時速60mile(96.6km/h)で走行し、燃費は60mpg(約21.2km/ℓ)だった。

 

 
英国版編集部は、1台の日産リーフでスコットランド、ウェールズ、イングランドのそれぞれいちばん高い山へ行き、その三つの山に登るという走行距離470mile(756.7km)の旅に挑戦した。だが、残念ながら成功を祝うことはできなかった。リーフのドライバーを担当した者として(また登山は同僚に任せた者として)、この旅を計画どおりに終えられなかったことを悔やんでいる。

成功しなかったとはいえ、私たちはこのチャレンジを楽しんだ。また、リーフは過去に数台試乗していてなじみのあるクルマであるが、今回新たにたくさんのことを学んだ。なかでも次のふたつは重要だ。

 
第一に、EVをイギリスのあらゆるタイプのすべての道路で使用可能にするためには、文字通り200mile(322km)の航続距離が必要だということ。アメリカ人は、“文字通り” という言葉を強調しながら長年こう言い続けているが、彼らは正しい。第二に、軽飛行機で長距離フライトをする時と同様、EVでの走行には完璧な準備が必要だ。つまり、予想とは異なる展開になった時に備えて、理想のルートと充電ポイントの代替案を考えておく必要がある。予想外の展開になることは十分あり得る。今回出かける前に、私はある日の午後をほとんどこの準備に費やしたが、それでもまだ十分ではなかった。

 
事前に想定しておくべきだった三つの出来事に遭遇し、私たちの旅は予想外の展開になった。ひとつめは、スコットランドのフォート・ウィリアムから南へ向かう深夜、1車線の幹線道路で時速45mile(72.45km/h)というイライラがつのる速度で列になって走るトラックに遭遇したことだった。ふたつめは、10数頭の鹿の群れとの遭遇だ。道路を渡ろうとする鹿もいたので、あわててスピードを緩めざるをえなかった。三つめは、月の見えない真っ暗な夜の日に計画を実行してしまったことだ。道路の勾配を読むことがほとんどできなかったので、極めて重要な第一区間のレンジを予想より7~10mile(約11~16km)も縮める結果になってしまった。次回は(すでに計画は始まっているが)、EVでの旅をもっとうまく走るだろう。

 

 
ジャガーは見込み客にジャガーXEと比較してもらうために、250台のアウディA4、BMW3シリーズ、メルセデス・ベンツCクラスをレンタルして厳選したイギリス国内のジャガー販売店に配車したと聞き、大いに感心している。当初私は、ジャガーは強力なライバルたちから厳しい仕返しを受けるのではないだろうかと思っていたが、マーケティングの専門家によればドイツメーカーは互いの競争で頭がいっぱいで、ジャガーのことを気にかける時間はないだろうと話す。この戦略の長所は、ジャガーが “ライバルから攻撃を受けずに成功できること” だという。

しかし、複数モデルの比較テストに長年関わってきた経験からひとつアドバイスさせていただくなら、試乗する見込み客の方にはタイヤ・プレッシャーゲージを持っていくことをお勧めしたい。タイヤ・プレッシャーが正しくないだけでクルマがどれほど悪くなってしまうことか。これにはまったく驚かされる。

 

 
AUTOCAR英国版の主任カメラマンのスタン・パーピオから面白い話を聞いた。映画製作会社はカーチェイスのシーンに苦労して本物感をインプットしているという。『007 スペクター』のなかで、ジェームズ・ボンドのアストンと悪役が運転するジャガーC-X75がローマでカーチェイスをする場面があるが、製作会社はこの2台が階段を駆け下りてくる時の音が気に入らなかった。それで、音響技術者はミルブルック試験場でいろいろな路面でのサスペンションテストの音をまる2日間かけて録音し、ようやく満足のいく音を探し出した。

だが、まだ不都合があった。ローマでのカーチェイスは夜行われる設定だったが、ミルブルックでの録音からは、太陽の下でさえずるイギリスの小鳥たちの声がはっきり聞こえてきたのだ。バックグラウンドに流れる鳥の声を消去するために、映画会社はさらに数日間かけなければならなかったという。

 

 
編集部(英国版)が長期テストをしていたクルマ、マツダMX-5 2.0を買った。色は赤、そして総走行距離は17,000mile(27,370km)だ。MX-5は現在所有しているロータス・エリーゼ(2000年登録)と入れ替わることになる。私はエリーゼをとても楽しんできたが、乗る機会が少なすぎた。ルーフを閉じている時、大柄の私には乗り降りがしにくく、これがエリーゼへの熱が冷める理由のひとつになってしまった。だが、買い替えの最大の理由は、MX-5が多目的に使える現代のクルマだと考えたからだ。ヒルクライムで走ったり、ひとりでレースに参加して楽しんだりすることも十分可能であるし、家族で楽しむこともできる。現在、MX-5はマツダの中古車として納車前点検を受けている。これが完了したら近所の販売店で受け取りと支払いをすることになっている。もうすぐだ。
 

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)


AUTOCAR 英国版 編集長 スティーブ・クロプリー

オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。新しく独特なものなら何でも好きだが、特に最近はとてつもなくエコノミカルなクルマが好き。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。