クルマ漬けの毎日から

2016.12.25

残り枠1台 編集長の仮想ガレージ

My notional three-space garage

 
今週、私はあるクルマでイギリスのあちこちの農場へ行って泥だらけの道を走らせ、すべりやすい草地に何度も駐車させた。それにロンドンの中心部にも三度出かけ、全部で1300mile(2093km)走行している。そのクルマは、毎回どのドライブでも完璧だった。その名はアウディA4オールロードであるが、今週になって初めて乗ったにもかかわらず、個人的に所有したいと思うほど気に入っている。私はこの2週間でふたつも大きな決断をしている。3台のクルマが納められる私の “仮想ガレージ” の1台目として、マクラーレンが入ることが先週決定したばかりだが、今週は2台目としてA4オールロードが入ることが決まった。この分だと、仮想ガレージの3台目は来週にも決定するかもしれない。シトロエン2CVとか、ディフェンダーあたりだろうか?

 
どういうわけか、私はアウディを本気で好きになったことがこれまで一度もなかった。といっても、このA4オールロードが私が運転したクルマのなかで最高に個性的なクルマだと言っているわけではない。だが、A4オールロードは与えられたどんな困難も乗り越えられるクルマだ。ドライバーはこのクルマの性能の高さに感心し、10年後もまだ元気に走っているだろうと確信できる。A4オールロードは本当に万能なクルマだ。こういうクルマを1台所有していれば、あとは面白いが実用性の低いクルマでも何でも、好きなクルマを持つことが可能になる。

 

 
先日私が書いたマクラーレン540Cのいくぶん興奮気味の試乗記を読んで、友人がこう言った。「いつも思うことだけれど、価格が安いものがベストなのかもしれないね」と。540Cに乗ってガソリンスタンドに行った時、何人かの人たちが540Cをマクラーレンの最上級モデルのP1と見間違えた。P1は540Cの8倍か9倍も高いクルマだ。断言できないが、126,000ポンドの540Cは、17,000ポンド高い570Sよりもじつはよい選択なのかもしれない(AUTOCARのロードテスターたちは、異議を唱えるかもしれないが)。私はいつもシンプルで複雑でないものに魅力を感じる。何かを買う時、私と同じように考える人はたくさんいるはずだ。シンプルだからこそ買うという時代が、やがて来るだろう。

 

 
ジャガーのバッテリーエンジンのI-PACEには肯定的な評価が多いが、これには納得だ。自動車ビジネスにおけるモノづくりの成功が、単に右へならえの似たようなクルマをつくるのではなく、新しい価値を提案することにあるならば、ジャガーのあっと驚く未来への飛躍は称賛を受けるに値する。E-TYPEやレンジローバーがデビューした時を思い出す。このふたつのモデルがどれほど多くのことを成し遂げたことか。

それでも私は、I-PACEを大好きになるまでには時間がかかると思わざるを得ない。ひとつひとつのデザインはどこも素晴らしいが、これまでジャガーを欲しいと強く思った時ほどにはI-PACEを欲しいとは思わない。私を思いとどまらせている理由は、電気のパワートレインにあるのではない(このパワートレインは素晴らしいだろう)。それにSUV系のデザインだからでもない。実際、F-PACEとレンジローバー・スポーツは公道を走るクルマのなかで最高に魅力的なモデルだと思っている。

それならいったい何が私を思いとどまらせているのか。それは、ボディのプロポーションについてのこだわりだ。ホイールベースが長く、ノーズが短く、リアはゆったりしているというのが私のこだわりだ。記憶にある限りでは初めて、ジャガーのデザインがインテリアの寸法に左右されているが、私は単純にこのデザインに慣れていないのだろう。ジャガーといえばいつもノーズが長く、運転席に座るとタイトに感じるクルマだった。こういう根本的な変更を快適だと感じるまでには、少し時間がかかりそうだ。

 

 
「新型ゴルフ」とフォルクスワーゲンが呼ぶクルマが登場した。だが、すぐにどの評論家も「マイナーチェンジのゴルフ」と呼ぶようになった。今回の新型はフォルクスワーゲンにとって簡単に生産ができて世に送り出すことができるクルマなのは明らかだ。この新型の発売は技術的進歩よりも劇場的な要素のほうがはるかに大きい。フォルクスワーゲンの経営陣はリセットボタンを押したくて仕方がないのだ。とくに今、排ガス問題の訴訟は、“和解” とか “合意” といった言葉が使われる状況になってきたからだ。可能な限り怒り続けることを好むアメリカでさえも、そういう状況になってきた。

しかし、ここに皮肉がある。あまり進歩していないにもかかわらず、新型ゴルフはいまだに素晴らしいクルマだからだ。もしこのセグメントのクルマを買おうと思ったら、私はたぶんゴルフを選ぶと思うし、仲間にも勧めるだろう。だが、フォルクスワーゲンのデザイナーとエンジニアには、彼らの優れた能力を数年後にはもっとたくさん見せてほしいと思っている。

 

 
数日の間に1台のクルマにどのように慣れるか、これはクルマの運転において尽きることのない魅力のひとつだ。初日にはなんだか馴染めないと思っていたクルマも、3日目にはまるで自分の体の一部になったかのように感じることがある。私は同僚のアラン・ミューアのランドローバー・ディスカバリー・スポーツに乗って、このことを再度実体験したばかりだ。今回試乗できたおかげで、ディスカバリー・スポーツで週末を過ごし、ようやく500mile(約800km)ほど走行することができた。というのも、昨年、ディスカバリー・スポーツの発表直前のモデルにフェロー諸島で試乗したものの(海上はフェリーで移動)、それ以来、この新型に乗る機会はほとんどなかったからだ。

最初は運転席に慣れることができなかった。シートの座面が高すぎるか、平らすぎるかのどちらかに感じたからだ。それに、トップギアと2番目に高いギアで走っていると、エンジンからかすかに低い連続音が聞こえ、その音が好きになれなかった。また、乗り心地も記憶していたほどよくないと思った。だが、そのあとは親しみを感じ始めた。きっかけは、タイヤの空気圧が正しく計測されておらず、高くなりすぎていたことに気づき、空気圧を下げたことだった。すると不思議なことに、耳障りだった高速ギア時のエンジン音を心地よいと感じるようになった(この音は、最高の経済性でパワートレインが出力を伝達しているというしるしだ)。そして思ったとおり、編集部への帰路では、ディスカバリー・スポーツのシートは理想的だった。こうしたすべての点から、短時間のテストドライブは、本気で購入を考えているドライバーにとって助けにならないと言える。もし、購入を検討しているクルマを週末に借りることができるのなら、その機会を決して逃さないでほしい。

 

 
編集部(英国版)で一年を振り返って話をする時、年間のスケジュールに基づいて振り返ることが多いが、同僚の中には、これは話題を制限してしまう可能性があり、あまりよい方法ではないと言う人がいる。だが、それでもこのやり方で2016年を振り返ってみたところ、私たちエンスージァストにとって、今年もまた素晴らしい年だったと私は確信している。

自動車業界は、失敗を乗り越えるには、次にもっとよい仕事をするしかないことを知っている。だから、2016年に起きたよくない出来事でさえも(たとえば、ランドローバー・ディフェンダーの販売が終了したこと)未来を期待させてくれる。クルマが好きな人で、ディフェンダーの後継となるまったくの新型の2018年モデルに好奇心を持たない人はいないだろう。新型のデザインはすでに完成していて、ランドローバーのデザイン部門の秘密の場所にひっそりと佇んでいるはずなのだから。

さて、ここであらためて読者の皆様にお礼を申し上げたい。今年もAUTOCARをご愛読いただき、ありがとうございました。2017年も変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。皆様にとって新年が、クルマの楽しさに満ちた素晴らしい年になりますようお祈りいたします。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)


 
 

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