コラム&エッセイ

2016.12.25

目標はル・マン! 女子大生レーサー日記

第8話:1年の締めくくり 日本一決定戦@岡山国際サーキット

12月3日土曜日。岡山国際サーキットはとても気持ちが良いくらい快晴でした。今日はロードスター・パーティ・レースIIIの日本一決定戦。今までのパーティ・レースで上位30名までが参戦権を得られるレースで今年1年の締めくくりとなるレースでした。

 
この日のわたしはいつもと違いました。「一年の締めくくり、絶対表彰台に立つ、楽しく年をこせるように……」そんなことばかり考えてクルマに乗り込みました。

そして10時20分から15分間の公式予選。岡山国際サーキットは高低差があり、1500ccのND型マツダ・ロードスターは回転数を落としてしまうと立ち上がりが鈍くなってしまいます。特に3コーナーのアトウッド・コーナー。ここでは前回のレースで1台抜いたものの、クロスラインを通られてしまい、抜き返されたりとバトルをした場所でした。
 
今回わたしは土曜日のレースのために木曜日からサーキットに入り練習を重ねました。しかし、前日の金曜日。ここから調子が次第に悪くなってしまいました。木曜日は中古タイヤでほぼ自己ベストと同タイムを出すことができ、金曜日は絶対自己ベストを出す! 57秒台に入る! と意気込んで練習走行に臨みました。

しかし……

井原慶子先生が教えてくれた、ふたつのアドバイス

しかし走っても走ってもタイムが伸びない。自己ベストから1秒も遅くなってしまう始末。ブレーキはいつもよりも突っ込めてるはずだし、お尻が出て滑りすぎている感覚もない、一生懸命走っているのに何でタイムが出ないんだ? と頭は混乱状態。

こうして前日練習を終え、わたしのテンションはガタ落ちでした。しかし決勝は明日。やるしかない。これまでも前日に調子が悪くても、予選では必ず1秒はタイム・アップして自己ベスト出してきたし! とポジティブに考えて、頭を切り替えようとました。

 
前日の夜、相部屋だった北平さん(えなちゃん)と車載動画やロガーを見比べ研究していると、井原先生から電話がかかってきました。「タイムが出なかったのは、どうしてだろう?」井原先生はわたしたちにいつもヒントをくださいます。

「3コーナーのアトウッドは速い人にもついていけるのですが、中盤のリボルバー・コーナーで上手く向きを変えることができず、そこで失速してしまいます……」と相談すると、

・もっとコース幅を広く使い、きちんと荷重をかけて曲がる
・目線の置く場所に気をつけること

などのアドバイスをいただき、車載動画を見ながらイメージして寝ました。ちなみに目線にかんしてですが、岡山国際サーキットだと、中間セクターにブリッジがあります。それが見えたらアクセル全開。あとは、コース出口の縁石を見るようにする、などですね。

いよいよ予選、これがまったく……

さて、予選の時間。「大丈夫、今までだったら予選でタイムを出せてたから今回も上手くいく」そう言い聞かせてピットから出ていきました。

やっぱりブリヂストンのRE-71Rはすごくグリップする! 今までよりももっと突っ込んで早めにアクセルが踏める!

しかし、やっぱり走っても走ってもタイムが出ない……。なんで? 周りはみんなどんどんタイムが上がって行ってるのにどうして? もう頭では理解できませんでした。15分間の予選が終わり、予選結果は19台中17位。チームメイトの猪爪さん(あんなちゃん)はなんとポール・ポジション。

わたしはといえば、岡山国際サーキットではいつも予選は4位。決勝も4位。そして前回の第4戦ではパーティレースで初めて3位表彰台を獲得した場所。今年3戦も出ていてよく走っているサーキットで、今までのレース当日は上の方に名前があったのに。

こんなはずじゃなかったのに……。

このショックは頭からずっと離れませんでした。

ピットにいたメカニックさん方は「もうこうなったらやるしかない!」メンバーの方は「こういう状況の方が燃えるよ!」「大丈夫! 万梨恵ちゃんはできるよ!」みんなが声をかけてくれました。みんなの優しさと期待に答えられなかった自分の不甲斐なさと悔しさで、感情はぐちゃぐちゃ。予選が終わった時点で我慢すればするほど涙が出てしまいました。
 
しかし決勝はこれから。決勝までの時間、井原先生と参戦メンバーでミーティングをしました。

 

見事ポール・ポジションを獲得した猪爪さん(あんなちゃん)の車載動画を見ながら自分の走りと違うところをみんなで検証していくと、前日の井原先生との電話で課題であったリボルバー・コーナーのシフト・チェンジのタイミング、1コーナーの出口のクルマの向き、アトウッド・コーナーでは突っ込みすぎてボトム・スピードを落としすぎていたのでアトウッドは突っ込みすぎないこと、多くの違いを発見しました。
 
そして、13時30分。決勝が始まりました。

いけそう! と思った矢先の災難

 

決勝グリッドでは、メカニックの皆さん、メンバーが声をかけてくれ、そして今回ははるばる岡山まで父も来てくれました。

みんなが声をかけてくれて、応援してくれて、本当に心強く「全開の岡山でもスピン車両に巻き込まれて11位くらいまで落ちたけど、抜きまくって3位になれた。だから今回も抜きまくってやる! ここから表彰台に登ったらかっこいい!」と闘争心のスイッチが入りました。
 
フォーメーション・ラップを終えてグリッドにつく。大きく息を吸って、深呼吸。前回まで一気にクラッチをつないだため少しスタートが遅れてしまうことがありました。

その反省を生かして今回は、1速にちゃんと入っているか確認しサイドをひいて、スタートのランプに集中しました。ひとつずつランプが点灯。1、2、3、4、5……。消えた瞬間、ていねいにクラッチをつなぎました。

「よし! 大丈夫! いける!」

スタートが決まり、1コーナーまでに2台抜くことができました。勝負はこれからです。前にいる相手から絶対離れないように、すきをついて抜けるように、でも前にいる相手につられてコース幅が狭くならないように。幅を広く使ってコーナリング・スピードを落とさないように……。

今までレースをして学んできたことをひたすら考えながら走りました。

ほとんどのクルマが団子状態だったこともあり、次第に前のクルマとの距離がつまる。決勝前に発見したリボルバー・コーナーのシフト・チェンジのタイミングを次第に掴むことができ、また1台パスすることができました。

すると予選で前の方にいた北平さん(えなちゃん)の車両が1台前にいました。

17位スタートからこの時点で13位。

「えなちゃんいた! この調子、この調子」そう言い聞かせて走行していました。また徐々に前のクルマと近づいてついていくと、1台外に飛び出して失速しているクルマがいました。

「あ、これはチャンス」こう思ったのが今回のレースの運命を変えました。
 
1台失速している車両があり、なんとかコースに戻ってきた様子。アウト側に寄っているし、前のクルマに続いて一緒に抜いちゃえ!

そう思った瞬間でした。最終セクターのヘアピン1個目のイン側に入った瞬間、アウト側にいた失速していたクルマが、わたしのいるイン側に入ってきて

「ガンッ!」

レースで初めてのクラッシュでした。

「終わった」そう思いました。

なんとかコースに戻りましたが、4速はフニャフニャ、エンジン音もいつもと違う……。もう何が起きたかわかりませんでした。

とり急ぎピットに戻るなり、ベルトを外して降りようとすると「降りなくていいから!! すぐ行くぞ!」と、メカニックさんの声。

 

皆さんが処置してくださる姿に申し訳ない気持ちを感じましたが、それでも走らせようとしてくれる皆さんの優しさに、わたしもなんとか気持ちを整えることができ、最終的にチェッカーを受けられました。

けれどピットに戻りたくない。みんなにどんな顔をしたらいいんだろう。

マシンから降りると、まずはじめに「タワー3階に行ってね」と、オフィシャルの方の声。

きました。コントロール・タワー3階へ呼び出し。3階に呼び出されるということはレギュレーション違反をして注意されるときに呼びだされる部屋です。

「絶対怒られる。わたしがいけないもんな……。行きたくないな」表彰式の明るい歌を聞きながらわたしは ‘怒られ部屋’ へ向かいました。

憂鬱になりながら向かうと審査員の方と今回ぶつかってしまった方と話が始まりました。

「今回は運が悪かったね。あなたは悪くないよ」と審査員の方がおっしゃってくださいました。

「え、わたし悪くないの? 怒られないの?」

今回は失速していた相手のクルマがいて、スピードにのっていたわたしのクルマがいて、相手が見ていなかったという判定となり、ペナルティもなく事をなきを得ることとなりました。

内心少しほっとしながら、井原先生に報告。

「外に出てしまった車両がいて、その人は動揺しているに決まっているのに突っ込んでぶつかってるんだから冷静に判断できない万梨恵ちゃんが悪い」

やっぱり怒られてしまいました。

わたし自身も前に北平さん(えなちゃん)が見えたこと、「もっと、もっと前に行きたい。表彰台に乗りたい」という気持ちが強すぎて焦っていました。そのせいで冷静な判断ができなかった。
 
最終戦で大きな失態をやってしまい、そして怒られ、ショックの大きいレースとなりました。

今回、そして今年を振り返って

今回のレースを振り返って、シフト・チェンジのタイミングやボトム・スピードを上げるなど、速く走るためのことを考えていましたが、レースを終えて、自分に気持ちの余裕がなかったなと、あらためて思いました。

木曜日に自己ベストが出て、金曜日は絶対もっと自己ベストを更新する! 予選で良いタイムを出す! もっとブレーキ詰めてみよう! こういうことがわたしの頭を支配して、荷重など基本的なクルマの動きを感じ取れていなかったことに気が付きました。

また、レース中も「前に行きたい!」という気持ちが高まり、必死すぎるあまり、冷静な判断ができなかったことが反省点だと感じました。

 
上手くいくことばかりじゃない。レースってむずかしい。と改めて感じました。

今回のレースでだいぶ落ち込んで、翌日の月曜日には廃人となっていました。井原先生に今回の反省点などをメッセージすると、

「今回のレース、冷静に判断できて、万梨恵ちゃんの実力なら絶対表彰台も狙えていた。冬の間にトレーニングしないとね!」

井原先生からのメッセージを見て、自分を信じてくれている人がいる、落ち込んでいる場合じゃない。もっと頑張らないと。素直にそう思いました。

今回の反省点をきちんと見直し、気持ちを切り替えて、冷静に行動するという課題を克服できるよう日常生活から心がけます。

また、今年も1年間支えてくださった、井原先生、MAZDAの皆さま、メカニックの皆さま、メンバーの皆さま、応援してくださっている皆まへ、思いっきりレースをさせていただいたこと、本当に感謝いたします。

ありがとうございます!

来年は応援してくださる皆様に、笑って恩返ししたいという目標が定まった、記憶に残るレースとなりました。

レーシングドライバー 岩岡万梨恵

1993年生まれ。父がレース好きで3歳からF1を見に行く。現在マツダ・ウィメン・イン・モータースポーツに在籍し、今年からロードスターのスプリント・レースに参戦。幼少期から器械体操を続けて得意技はバク転、Y字バランス。趣味は旧車を眺めること。将来は井原慶子さんのようなル・マン女性ドライバーを目標とし、老後はヒストリックカーのレースで楽しむことも夢。