コラム&エッセイ

2017.01.31

クルマ漬けの毎日から

洗うべきか? 洗わざるべきか?

To wash or not to wash?

 

 
洗うべきか? それとも洗わざるべきか? 毎年この時期、週末にカミさんのフィアット500を見るたびに、この問いが私を悩ませる。現在、カミさんは仕事の関係で定期的に高速道路を走っている。それで、彼女のフィアット500の魅力的なリアには、いつも黒い汚れがべったりとついている。私たち道路ユーザーはこれを ‘塩’ とよんでいるが、かつて王たちの宝として珍重され、ディナー・テーブルに登場した雪のように白い食塩とは似ても似つかないものだ。

 
このフィアットはカナリア色だからというのが購入理由のひとつだった。だから、カミさんは真っ黒に汚れた状態でM4(高速道路)を走っていることを快く思っておらず、なんとかして私にバケツとスポンジを持たせようとする。だが、フィアットは1mileも走らないうちにまた汚れるのだから、寒さの中、かじかむ手とびしょぬれの足で洗車をすることが価値ある行為とは私にはどうも思えない。救済手段として思いついたのは、Muc-Off(マックオフ)という妙薬を使うことだ。値段は高いが魔法のようにきれいになる。塩は溶けてなくなり、マルチスポークホイールもぴかぴかになるだろう。Muc-Offは容器にポンプを取りつければ簡単に使えるが、何しろ値段が高いので二の足を踏んでいる。

 

 
次に手に入れたいお勧めのクラシックカーは何だろうか? 私はランドローバー・ディスカバリー1に一票を投じたい。先週、極めて程度のいいディスカバリー1を運転して、プリマスからミッドランドまで200mile(322km)の旅を楽しんだ。それ以来、ディスカバリー1を素晴らしいクルマにしているユニークで複合的な要因が何度も頭に思い浮かんでいる。まず、このクルマのドライビングポジションは最近のクルマより高い。だが、おそらく近頃のエアバッグには向かない高さだろう。そして、乗り心地は驚くほど路面への適応性が高く、快適だ。だが、高速での操縦性が悪く、現在新車で販売されている大手メーカーのクルマは、どれももっと操縦性がよい。それでも、ディスカバリー1の視認性は素晴らしい。

だが、最近のクルマの場合はフロントガラスにもっと強度が求められ、ピラーをこれほど細くはできない。それに20数年前に製造されたクルマにもかかわらず、ディスカバリー1はオフロードでも公道でも、いまも信頼できるので、運転するうえで特別な配慮はまったく必要ない。そして極めつけは、このクルマは錆びやすいため、売ろうとしてもほとんど値段がつかないことだ。だから修理が必要になった時には、スクラップになることが多い。こういった点を総合してみると、ディカバリー1は面白いクルマだと言える。しかも、だんだん珍しいクルマになってきている。

 

 
年末に頭に浮かんだのは、ロン・デニスのことだった。デニスは最近、マクラーレン テクノロジー グループのトップとして劇的な最後を迎えた。そしてデニスの後任は、数日後に発表された。まるでこの去りゆくCEOに屈辱を与えたいかのように早いタイミングで後任が発表されたが、どうやらそういう意図があったようだ。無慈悲で知られた男は、情け容赦なく退任させられた。

 
私はずっとデニスを称賛してきた。AUTOCARは数年前にイシゴニス・トロフィという私たちの大きな賞に彼を選んだことがあるが、それを後悔する気持ちはまったくない。デニスはコミュニケーションがうまい人でも、外交的手腕にすぐれた人でもないかもしれないが、モータースポーツ、自動車製造、ハイテクノロジー、構造といった分野での彼の功績を思い起こしてみると、デニスに匹敵するのはエンツォ・フェラーリだけだと思う。こう言ってみたところで、わずかな慰めになるわけでもないのだが。

 

 
クリスマス休暇中に私が運転できるクルマの選択肢は、ある種記録的なものになっている。まず、休暇中の最初の1,500mile(2,415km)をベントレーのベンテイガW12で走ったことは、まったくの驚きだ。このベンテイガは今年の半ばまで編集部(英国版)で保有する見込みだ。そして、マクラーレン540Cも数日間貸してもらった。少し前にやや興奮気味の試乗記を書いたことで、私がいちばん手に入れたいスーパーカーは540Cだと知り、貸してくれたのであろう。だから、クリスマス休暇中に出かけようとするたびに、夢のような選択肢のなかからクルマを選ぶことになった。ベントレーを近くで見た人はみな、素晴らしいインテリアと王者の風格を持つ洗練されたパフォーマンスに感動した。マクラーレンはとてつもなく速いが、いつも安心して操縦できるし、運転しやすかった。

だが幸運なことに、ベンテイガも540Cも我が家に常駐しているクルマの役割を侵害することはなかった。どちらもシトロエン・ベルランゴほど暖炉の薪を運ぶのが得意ではないし、狭いスペースに駐車する時にはフィアット500ツインエアが必要になった。友人のパーティに行く途中で、曲がりくねった道路をマツダMX-5で駆け抜けた時はスリル満点だった。それにハーレーのスポーツスターに股がって20mile(32km)ほど走ることもできた(Vツインエンジンの振動が、お腹にずんずん伝わってきた)。そして休暇が終わり、最高にリフレッシュされた気分で仕事に戻った。クルマに乗ることには欠点がないわけではないが、それでもやはり素晴らしいと思う。

 

 
マクラーレン テクノロジー グループの新エグゼクティブ ディレクターの職に就いたザック・ブラウンに取材をし、興味深い時間を過ごした。当初私は、ザック・ブラウンはロン・デニスの直接の後任だと思っていたのだが、そうではない。ブラウンの緊急任務は、マクラーレンのフォーミュラ1の活動を支えてくれる大口のスポンサーを探すことだ。

この取材で話題になった事柄のひとつは、“利害関係の衝突” だった。ブラウンはモータースポーツ・ネットワークの非常勤会長を務めている。モータースポーツ・ネットワークというのは急成長しているマスコミ関連の巨大複合企業であるが、AUTOCARの姉妹誌だったAUTOSPORTをモータースポーツ・ネットワークは最近買収した。AUTOSPORTはおそらくF1を報道する世界最大のメディアであろう。ブラウンがマクラーレンで仕事に就いていることを考えると、これまでも時々あったことだが、AUTOSPORTがマクラーレンを批判する記事を書きたい時には、いったいどうなるのだろうか。

「そういう記事はまちがいなく掲載されるはずです」とブラウンはきっぱりと言った。「私はAUTOSPORTのビジネスに関与しているのであって、記事を選ぶことには関与していません。マクラーレンがいい成績を残せば、好意的な報道を望むでしょう。そして成績が悪ければ、それに見合った取り上げられ方になるでしょうね」

 

 
同僚のマット・プライアが最近見かけたフォード・グラナダのワゴンのことを「古くて安いけれど、本当に魅力的」と言っていたが、偶然にも、私も元旦にブルックランズサーキットでまさにそういう魅力的なクルマを見た。この日注目を集めていたその一台は、とてもきれいな1983年モデルのオースティン・メトロHLEで、総走行距離はわずか32,000mile(51,520km)だった。15年間走ることもなく、スクラップになるのを待っている状態だったところを現在のオーナーが700ポンドで手に入れ、基本的な修理を行った。そして、“古くて安いが、本当に魅力的” という理由で、このメトロは真価がわかる人達を大勢引き寄せていた。メトロは以前はよく見るクルマだったが、最近では珍しくなってきた。それに、多くのミニよりもいいクルマだった。とは言え、当時の私はメトロがミニよりいいとは、絶対に認めなかっただろう。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)


AUTOCAR 英国版 編集長 スティーブ・クロプリー

オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。新しく独特なものなら何でも好きだが、特に最近はとてつもなくエコノミカルなクルマが好き。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。