社会人1年目、ポルシェを買う。

2019.11.28

第100話:ナローポルシェにのった。 ― 社会人1年目、ポルシェを買う。

危うくて、生々しい

キーをひねる。コクコクコク。燃料ポンプの音が聞こえる。音が落ちつく。アクセルをほんの少し踏み続ける。グギャーーーんと1991ccのフラット6が目覚める。

なかなかどうして生々しい。僕の911 SCは、そこまでの「儀式」は必要ない。(といっても、いくらかの注意点はあるけれど)

しばらくアイドリングが落ちつく。アクセルをそっと煽ってみる。「ジャアアアアアアアン!」。レーシーという言葉をあまり見ないことがふしぎなくらい、レーシーだと思った。

左下にある1速のゲートにインサートしてクラッチペダルをじわりと離すと、クルマは静かに進み始める。そこからアクセルを踏む。アクセルを踏み込むタイミングは、3.0Lの空冷フラット6を載せるSCよりやや早いくらい。

そのまま高速道路に飛び込んだ。シートが低い。ステアリングが細くて大きい。変速をするためにアクセルペダルから足を離すと、回転落ちが速いことに気がつく。

僕のSCの回転落ちもずいぶん速いように最初は感じたものだけれど、それよりさらに速い。回転が「下がる」というよりも、ストンと針が落ちるかんじ。ストンと。

そっと右上の2速に挿れて、ソロリとクラッチをつなぐ。あとはアクセルを踏むのみ。踏めば車内に、濃密なフラット6の雄叫びが充満する。

あぁこんなに違うのだなと思う。生々しくて、繊細で、騒々しい。

乗り心地がやわらかいいっぽうで、高速巡航ははっきりと心もとない。車体のうしろが沈んでいて、前は浮いている。物理的にそうだし、体感的にはもっとそう。

事実、修正舵をつねに与えている。わずかに右に、わずかに左に。これを細かく繰り返して、結果的にまっすぐ進む。11年の差。SCは着実に進化しているとも思った。

いっぽうで、そんな細かな儀式が、喜びであることも実感する。ちょっとのヌケが、クルマと積極的に関われるチャンスになるのだ。

AUTOCAR JAPAN 編集部 上野太朗

1991年生まれ。親が買ってくれた玩具はミニカー、ゲームはレース系、書籍は自動車関連、週末は父のサーキット走行のタイム計測という、いわばエリート・コース(?)を歩む。学生時代はフィアット・バルケッタ→ボルボ940エステート→アルファ・ロメオ・スパイダー(916)→トヨタ86→アルファ・ロメオ156(V6)→マツダ・ロードスター(NC)→VWゴルフGTIにありったけのお金を溶かした。ある日突然、編集長から「遊びにこない?」の電話。現職に至る。