社会人1年目、ポルシェを買う。

2020.03.07

【社会人1年目、ポルシェを買う。】第106話:氷のうえで「運転のきほん」を学んだ日のこと。

ここまでハンドルが意味をなさないものか

ミニサーキットのような八千穂レイクのコースは、最初にストレートがあり、その後、右側に大きく回りこむ。

速度は20km/hくらい。そろりとコーナーに侵入。腫れ物に触るかのようにアクセルをじわりと踏んでみると、あるところからスーッとリアが滑りはじめる。すべてはスローモーションのようだ。

慌ててアクセルを緩める。ブレーキを踏む。するとそのままハンドルなんて言うことをきかずに、ただただ静止するまで待つしかない。

ちなみに静止するといったって、たいていコーナー外側の雪壁にガサっとぶつかるまで待っているだけ。無力だ。

ここまでハンドルが意味をなさないものかと、いきなり挫けそうになる。

拓生さんの指示どおり、次はリアが滑り始めた瞬間にアクセルを踏んでみる。おっ! 安定しはじめた! っと思った瞬間に今度はグルリとスピン。

クルマはスピンして、進行方向と逆を向きながら、リアが外側の壁にぶつかったり、あるいはエイペックスに乗り上げたり。

こんなふうに。

前後の重量配分が均等に近いFRのクルマでこれなんだから、リアヘビーのRRのクルマなら練習どころじゃないな。本当に。

「この前、一緒にテストをしたときに、ノーズがコーナーの内側に向き始めてアクセルを踏むとテールが流れ始めたでしょう」

「逆にノーズが入り始めていないときにアクセルを踏むと、そのまま外を向いたまま、クルマも外に飛んでいくよね。あれがアンダーステアね」

「これは侵入速度がオーバーしているときに、コーナーに無理やり入ろうとしていることと同じなんだ」と拓生さん。

何十回、いや何百回やっただろうか。

リアがスーッと滑り始めた瞬間に(回を重ねれば、どれくらいのタイミングで滑り始めるかがわかる)アクセルをそっと踏む。

2mmとか3mmとか、それくらいそっと。ほんの少しだけ(5°くらい)カウンターをあてている。そのまま姿勢を維持しつづけて、コーナーを出る。おー!

横滑りさせられている=トラクションが効いているときが、いちばん安心できる。出口の微細なアクセル操作を横滑り防止装置が「勝手に」やってくれることで、操作しづらく、途中からはカットしたほうが思い通りに走らせられるようになった。

この一連の流れが(それでも10回に3回くらいのレベルかなぁ)できるようになってきたのだった。

記事に関わった人々

  • 上野太朗

    Taro Ueno

    1991年生まれ。親が買ってくれた玩具はミニカー、ゲームはレース系、書籍は自動車関連、週末は父のサーキット走行のタイム計測というエリート・コース(?)を歩む。学生時代はボルボ940→アルファ・スパイダー(916)→トヨタ86→アルファ156→マツダ・ロードスター(NC)→VWゴルフGTIにありったけのお金を溶かす。ある日突然、編集長から「遊びにこない?」の電話。現職に至る。
 
 

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