レーサー山野哲也選手が唸った! なぜABARTH 595は刺激的? プロ目線で解説

公開 : 2021.11.19 13:05

ABARTH 595にしかない操作感

「シフトレバーの操作感も凄くいいですね。まずインパネに備わるレイアウトで、ドライバーが操作しやすい位置。そしてレバーの動く量は多めで、いわゆるショートストロークではないのです」

「でもこれってとても大切。ショートストロークだと動きが渋くなりがちで、それによって生じる引っ掛かりがシフトワークの邪魔をすることも」

「いっぽうこのシフトは、ストロークがあるから安心してシフトチェンジできます。これはいいですね」

ABARTH 595といえば、エネルギッシュなエンジンや奥深い味付けのハンドリングに話題が集中しがちだ。

しかし、まずはドライバーが実際に操作するパートに注目するのが山野選手らしい。

「このクルマにはマニュアル車を運転して欲しいという意志が漲っています。それをとても強く感じます」

「運転が好きで、運転をわかっている人が開発しているんでしょうね」

いっぽうで、MTAのABARTH 595 Competizioneはどうだろうか?

「パドルシフトで変速するときも、あえてタイムラグを作っている気がします」

「今の2ペダルってシームレスな感覚を重視して、シフトアップはできるだけ短い時間で済ませるのが主流ですよね」

「でもCompetizioneはシフトアップのときにギアとギアのつながりに一瞬の『間』があって、マニュアル車を運転しているような気になれるのです」

「MTのようにギアを自分で変えている感覚をもてますね。それがいい」

細部に宿るABARTHのこだわり

「さすがだなと思ったのは、2速から1速とか、普通の2ペダル車だったら受け付けないようなシフトダウンもしっかり受け入れてくれる点です」

「1速に入った瞬間にエンジン回転が高まって唸るようなエンジン音がするのですが、そういうのは普通のクルマは受け付けてくれません」

「エンジンが急に高回転になってドライバーをびっくりさせちゃったり、制御がよほど上手じゃないとクルマにダメージを与えることも考えられます。ですから、やりたがらないのです」

「だけどABARTHはそこまでしっかりとドライバーの操作を受けいれてくれるのだから、さすがです」

「エンジンの許容範囲まではしっかりシフトダウン受け入れてくれる。これってまさにMTの感覚ですね」

2ペダルでもMT感覚を忘れない。これがABARTH 595の走りの楽しさの1つであることは間違いないだろう。

「標準のABARTH 595とABARTH 595 Competizione、どちらもそうですけど、シートに座ってペダルを見た瞬間に驚きました。金属製でこだわりが伝わってきたのです」

「加速も減速もペダルを通じておこなうわけです。そこにゆがみとか、ゆるみがあったら正確な操作ができなくなってしまいます」

「ですからレーシングシューズは底が薄くミリ以下のコントロールができるようになっているのです」

「剛性の高いこのペダルがドライバーの意思に対し時差なく、忠実に反応する。つまりクルマとドライバーの一体感をつくれるのです」

「このABARTH 595は金属製だからとてもソリッド。レーシングカーと同じです。これはドライビングをしっかりわかっているからこそですよね」

「金属のペダルから、そんなことを感じるんです」

ペダルのつくりからして、ABARTHはこだわりが詰まっているのだ。

クルマが語りかけるメッセージ

山野選手はABARTH 124 spiderを駆ってJAF全日本ジムカーナ選手権で5年連続シリーズチャンピオンを達成するなど、ABARTHとの結びつきも強い。

いっぽうでレースにも参戦しスーパーGTのGT300クラスで3回もチャンピオンを獲得。

そんな彼のドライビングの特徴は「魔術師」との異名を持ち、路面とタイヤのコンタクトをきわめて敏感に感じるなどタイヤの使い方が抜群に上手なことだ。

それはタイヤメーカーも認めるところで、長きにわたりテストドライバーとしてタイヤ開発にも携わっているほどである。

それだけに、クルマの動きや特徴を感じるセンスと素性を見抜く力は抜群だ。

「標準のABARTH 595とABARTH 595 Competizioneの2台はエンジンの仕上がりからハンドリングまでぜんぜん違いますね」

「エンジンは、基本は一緒でもパワー感がまるで違う。Competizioneは高いブーストが掛かって、標準車のABARTH 595の145psに対して180psとよりパワーを引き出します。しかし単にパワフルなだけじゃなくて、音の演出など刺激の作り込みがとてもいいですね」

「ABARTHってもともと排気音が特徴的で気持ちいいけれど、Competizioneだとシフトアップのときにパン! と破裂音が出て楽しいです。レーシングカーみたいじゃないですか」

「その音を聞きたいがために、ついついエンジン回転を上げてからシフトアップしてしまうほどです」

ハンドリングやサスペンションの違いはどうだろうか?

「ぜんぜん印象が違います」

「標準のABARTH 595はしなやかに路面を捉えています。乗り心地の悪さもなく、公道でとても気持ちよく走れる。軽やかに曲がる。路面の凹凸をしなやかに受け止め、きれいに旋回軸を保ったまま、素直に曲がります」

「いっぽうCompetizioneは乗り心地にゴツゴツ感があるけれど、ロールとかピッチングをさせません。サーキットでの走りまで視野に入れていることが伝わってきます」

「4つの足が踏ん張っている感じといいましょうか。挙動変化をなるべく起こさない。しっかりとタイヤが路面を捉えるから『安心してコーナーへ飛び込んでください』とクルマが語りかけてくるようです」

そんな味付けの違いがある2台は、それぞれどんな人に向いているだろうか。

記事に関わった人々

  • 語り手

    山野哲也

    Tetsuya Yamano

    1965年生まれ。帰国子女、上智大学卒。自称「車庫入れマニア」。60km/hを体験する前にバックスピンターンをマスターしていたらしい。スーパーGTでは唯一無二の3年連続チャンピオン、JAF全日本ジムカーナ選手権ではなんと100勝を超えており、自宅では金メダルでコイン落としゲームをしている。茨城県表彰特別功労賞受賞。守谷市もりや広報大使、東京オリンピック聖火ランナー。
  • 執筆

    工藤貴宏

    Takahiro Kudo

    1976年生まれ。保育園に入る頃にはクルマが好きで、小学生で自動車雑誌を読み始める。大学の時のアルバイトをきっかけに自動車雑誌編集者となり、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。はじめて買ったクルマはS13型のシルビア、もちろんターボでMT。妻に内緒でスポーツカーを購入する前科2犯。やっぱりバレてそのたびに反省するものの、反省が長く続かないのが悩み。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。
  • 協力

    アネスト岩田ターンパイク箱根

    Anest Iwata Turnpike Hakone

    アネスト岩田ターンパイク箱根は、小田原から箱根や伊豆を結ぶドライブウェイ。道幅が広くカーブも比較的緩やかで、快適なツーリングを楽しめる。箱根小田原本線の終点にあるアネスト岩田スカイラウンジ(箱根大観山)では、富士山や芦ノ湖、相模湾や伊豆諸島など、360°の絶景を見渡せる。沿線には桜/紫陽花/紅葉などの植栽があり、四季折々の景色も魅力。

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