カーレビュー

2013.11.26

マクラーレンMP4-12C

テスト日 : 2013年10月08日

価格 : £95,500(2,480万円)

イントロダクション

フェラーリ・キラーとして生を受けたマクラーレンMP4-12Cに課せられた使命は明らかである。今をときめくフェラーリ458イタリアを向こうに回し、パフォーマンス、プライス、メカニカル・レイアウトを切り札に勝負を掛けるのだ。しかし、跳ね馬を一撃でしとめるのは、そう簡単なことではない。

スーパースポーツを扱う数あるメーカーの中で、マクラーレンは後発である。マクラーレンF1は1992年の登場から20年を経ているし、SLRマクラーレンは、マーケットにおける立ち位置とスペックをメルセデスによって厳しく統制され、正真正銘のマクラーレンと呼べるものではなかった。マクラーレンの創始者でチェアマンを勤めるロン・デニスが言うには、今後彼らは3つのモデル・レンジを展開するという。価格17万ポンド(2,790万円)のこのMP4-12C、超高級モデルのP1、それに加え価格12万ポンド(約2,000万円)という”ささやかな”値段のモデルも揃えるということだ。

ミドシップ・レイアウトは、この種のスーパーカーではもはや特別ではない。MP4-12Cが他と異なるのは、そこにマクラーレンのテクノロジーが満載されていることだ。そう、これはわれわれが望んだピュア・マクラーレンなのだ。

エンジン・フードを引き上げると、無類のパワーと性能を誇るV8ツイン・ターボが割りあい小さな姿をのぞかせる。カーボンファイバー製のバスタブ型モノコックは、マクラーレン考案の革命的工法で作られるという。足まわりの四輪独立ダブルウィッシュボーンは調整範囲が広く、MP4-12Cをゆったりしたサルーンから純血のレーシングカーまで自在に変貌させる優れものだ。

マクラーレンは、最高水準の生産技術を将来にわたって確かなものとすべく、湖に接する(建築学のアイコンにもなった)テクノロジー・センターの目と鼻の先に、新たに荘厳なファクトリーを建設した。製造とメンテナンスにおいては、ロン・デニス自身が品質管理から工作精度まで鋭い目を光らせて、高いクオリティを保っているという。

その成果ともいえる様々なアップグレード(パワーの引き上げを含む)を経て、このクルマは良くなった。しかし、まだ完璧ではない。

デザイン

マクラーレンは開発の最終段階で、やぼったくも見えたスタイリングの改善として、グリルとヘッドライトに手を入れた。その後発表されたMP4-12Cのスタイリングは意見の分かれるところで、フェラーリ458イタリアほど人目を引かない、と考える人が多い。そういった声にもかかわらず、458イタリアが4つあるモデルレンジの1つに過ぎないのに対し、MP4-12Cは現在のマクラーレンの象徴であると考えるオーナーが多い。こうした押し上げもあって、このクルマは上手に年を重ねているように見える。

フェラーリ458イタリアとは異なり、MP4-12Cは “カーボン・モノセル” と呼ばれる一体成型モノコックを採用している。これはマクラーレンが開発した先鋭的な製造方法の賜物である。メリットは2つあり、優れた剛性と極めて軽量なことだ。それだけでなく、MP4-12Cクーペとスパイダーがフロアを共用できることも忘れてはならない。また、このモノセルは(さらに主要コンポーネントも)P1のものと密接な関係を持つという。

エンジン、リアサスペンションや付加物はモノセルの前後に連結されたアルミニウム・サブフレームにマウントされる。このサブフレームはクラッシュ構造を採用し、衝突時のエネルギーを吸収する。ボディパネルにはアルミ、または複合樹脂を用い、交換時の費用を抑えるために外版には一切のカーボンファイバーを使用していない。

フェラーリの次期V8やAMGの最新エンジンはターボ付きとなり、スーパーカーにとって今や過給機は必要不可欠なものとなりつつある。マクラーレンは今回初めて、英リカルド社に独特な仕様のエンジン開発と製造を委託した。このツインターボのフラットクランク型V8エンジンは、排気量3.8ℓながら、目を見張る最高出力、625ps/7500rpm、最大トルク、61.2kg-m/3000-7000rpmを発生する。排気量1ℓあたりに換算すると、165ps/ℓ、16kg-m/ℓにまで達し、ライバルをはるかに凌ぐ。発売当初、”わずか”600psだった最高出力は、その後のアップグレードによりスロットルの反応を高めた結果、現在の625psに達している。

トランスミッションはグラツィアーノ社が設計したもので、SLS AMGやフェラーリ458イタリアと同じく7速DCTとなりパドル・シフト式のマニュアル操作にも対応している。それを制御するのがマクラーレン製の電子制御システムで、感動的なほど素早くスムーズなシフトチェンジに貢献している。

MP4-12Cが他のライバルとまったく違う点は、サスペンションである。この種のクルマの多くは前後コイル・スプリング/ダブルウィッシュボーン式を採用するが、MP4-12Cはそこに相互接続した油圧式スタビライザーを装着している。油圧を(したがってダンパーを)車輪ごとに個別に制御することで、ロールとピッチングを抑制している。このシステムにより、ドライバーは任意に3種類のドライブ・モードを選択できる。また、アンチ・ロールバーが不要というメリットもある。

MP4-12Cの標準ブレーキ・ディスクはスティール製で、カーボンセラミック製はオプション扱いとなる。マクラーレンが言うには、スティール製は制動距離をより短縮できるということだ。サーキットで周回を重ねる場合はカーボン・セラミック製が耐フェード性に優れるので、すべてのテスト車両はこのオプションが装着されていた。顧客のうちカーボン・セラミック・ディスクを選ぶのは全体の30%ほどだという。

インテリア

特大のサイドシルを前に、足から入れるかお尻が先かと頭をひねってしまう……。ロータス・エリーゼ、SLS AMG、フォードGTといった同様のモノコック構造(その素材がなんであれ)を持つクルマのオーナーにとって、MP4-12Cの乗降性は例によって例のごとしである。

それにドアとサイドシルは、ダンパーで連結され開けづらく(電動リリースのため)、勢いをつけないことには閉まりも悪い。初期のクルマはドア・ロック解除がタッチセンサー式で、センサー部をなぞることにより開錠するものだったが、動作が不確実であったためにボタン式へ変更となった。

2座のシートに体を放り込むと、目の前には気取りのない雰囲気のキャビンが広がる。ドライビング・ポジションはオフセットのないペダル配置でまっすぐ足を伸ばせる。座り心地は快適だ。ステアリングホイールは小径で、握りが割りあい細く”マクラーレンのF1マシーン同然”とのお墨付きを頂いた。指先を金属製のシフトパドルに掛けると、他のどんなロードカーよりもパドルの引きが堅く、これもやはりF1ドライバーが使う実物を思わせるものだ。

幸いステアリング・ホイールは、ハンドルとしての役割に徹した設計である。手に馴染むレバーが(操作感はポルシェに近い)コラムを飾るだけだ。左レバーはウィンカー操作を行うと、誤って押し込まれハイビームが点灯してしまう。基本的な問題だが、これは不便である。シートはホールド性が足りないようだし、電動アジャスターはオプション扱いだ。静かで迫力に欠けるという声もあったが、これらのこと以外にキャビンの環境に欠点はない。

スイッチ類はどうだろうか。ダイヤル式のドライブ・モード・スイッチが、金属製にもかかわらずプラスチックに見えてしまう仕上がりで気に障るが、インテリアの質感は総じて高品質だ。悪いことにスイッチ類のラベルは情報が乏しく、手を伸ばしても直感での操作が難しい。

MP4-12Cとフェラーリ458イタリアのコクピット・デザインはどちらが洗練されているかというと、それは個人の好みの問題だ。しかし、MP4-12Cのステアリングを握ったほとんどの人は、458イタリアほどスペシャリティ感がないと感じるだろう。

パフォーマンス

タイミングモニターに記録が並びはじめると、俄然MP4-12Cの優位性が際立つ。我々が記録した0-96km/h加速、3.3秒というタイムは素晴らしいものだ。このタイムはにわか雨が降ってトラクションを得がたい状況のものだが、フェラーリ458イタリアがドライ路面で記録したものと同タイムである。

べた踏みして625psを与えられたMP4-12Cは、無鉄砲に加速し、0-160km/h加速、6.7秒を記録する。0-400mは11.1秒、通過時スピードは211.6km/hに達する。さらに0-1000mは20秒フラットという記録だ。闘争本能をむき出しにしたMP4-12Cは、この世のものとは思えぬ速さで突き進む。細かいことは分析マニアに任せるとして、いずれにしろ、ナンバー・プレート付きのクルマで全開のMP4-12Cについていけるものは、まずないだろう。それほどMP4-12Cのエグゾーストサウンドは感動的だ。

アイドリングでは、意味深なこもり音をたてる。ツイン・ターボは低回転から力強いパフォーマンスを発揮するが、最もスピードが乗るのはカットオフのかかる8500rpmに向かう高回転域だ。出足が鈍いと言うと大げさになるが、SLS AMGの6.2ℓV8のような大排気量NAエンジンは、もう少し踏み始めの反応が優れている。しかし、一度4000rpmを超えてしまえば、レブ・カウンターの針は弾かれたように上がっていく。

サーキットでは高めのギアにとらわれた走りをすると、ターボラグが現れる。公道走行ではよほど激しい運転をしない限り感じないだろう。7速のトランスミッションは切れ味のいいスムーズな変速だが、シフトダウン時にはフェラーリ458イタリアの鞭をおもわす味わいには及ばない。

オートモード選択時は、1000rpmほどで7速に入ってしまう。これではレスポンスは望めないだろうが、エンジンがぎこちない動きを示すことはない。これは、と思って確認すると、CO2排出量279g/kmという記録は、このオートモードによるものだった。

乗り心地とハンドリング

0-96km/h加速3.5秒を切るスプリント能力を備え、最高速度320km/hに達するクルマを作ることは偉業である。それもBTCCのレーシングカー並みのラップをたたき出すのだからなおさらである。だがMP4-12Cが我々を最も驚かせたのは、メルセデスSクラスに匹敵する平穏な乗り心地をあわせ持つことだ。このクルマのサスペンションは、高速道路でも山道でも、浮遊しているかのようにバンプを吸収して、ロールもピッチングも起こさない。行き届いてないことと言えば、ハイスピードでキャッツアイやマンホールの蓋に触れ、鋭い急な突き上げを受けた時、ノイズがフロアに共振してしまうことくらいだ。また、ブレーキングによりサスペンションがストロークした状態でギャップを拾うと、ステアリングやシートを通してそれが伝わってくる。とはいえ全体を通して、このクルマの驚異的な乗り心地は他のものに比べ突出している。

ステアリングはスムーズで癖のない操作感である。必要なフィーリングだけは、ステアリングを染み通ってドライバーの手に伝わる。これもまた一級品だ。ただ1つ付け加えるなら、直進位置付近ではギア比を小さくとった方が効果的だったのではないか。

素晴らしい走りとハンドリングのMP4-12Cに乗り込めば、英国中どこへでもためらいなく走っていける。手ごわいコーナーが続こうが、荒れた道が続こうが、自信たっぷりに踏み込めるのだ。MP4-12Cの限界を極める、そんなやる気を奮い立たせるなら、舞台はもうサーキットでなければならない。

突き詰めていくと、MP4-12Cは動きがつかみやすくコントロール性の高いクルマだ。しかし、さらに扱いやすいフェラーリ458イタリアとは異なり、ある秘訣を理解するまでは、特別なドライビングスタイルが求められる。それは限界でアンダーステアがやってきた時の処理だ。

LSDを持たないMP4-12Cは、アンダーステアが発生すると電子制御によってこれを対処する。アンダーステアが出てもスロットルを踏み続けることができるのだ。つまり、ドライバーに求められるのは重量級の右足である。そうすればターボを活かすこともできるのだ。一度コツをつかめばMP4-12Cは信じられないほど扱いやすい。そのためには、あなたのやり方で運転するのではなく、クルマのやり方に合わせるのだ。

ランニング・コスト

プライスタグを見比べるとフェラーリ458イタリアよりMP4-12Cは少しだけ安い値がついている。しかし、458イタリアには標準装備のカーボン・セラミック製ブレーキが、MP4-12Cにはない。とはいえどちらのクルマもオプションのつけ方次第で支払いは天井知らずだ。車両本体価格だけで比較はできないのである。我々の見通しでは、この2台はほとんど同じように資産評価が下がっていくと考えている。いくらオプションを”着飾った”ところでこの見通しに変わりはない。

燃料消費率は、テスト全体の平均値で6.7km/ℓに達した。この種のハイ・パフォーマンス・カーだからといって、この値を鼻であしらうべきではない。メーカー公表値の8.6km/ℓに比べて、いくぶん現実味のあるテスト結果といえる。ツーリング時の値は8.0km/ℓに達し、なおさら目を引くものだ。なぜならこれは、給油せずに480km以上走破できることを意味するからだ。

スーパーカーという言葉が出ると、「そんなクルマを買う人は維持費なんて気にしない」という人もいるが、それは正しくない。ハイ・パフォーマンス・カーのオーナーでも燃料効率というパフォーマンスの真価を認めているのだ。実のところ、MP4-12Cは購入と維持にかかる費用が、どんなライバルにも対抗できる見込みがあるのだ。

結論

2011年に600psのオリジナル・バージョンをはじめてテストして、「依然としてフェラーリ458イタリアはこのクラスのトップの座にある」と結論付けた。その時からマクラーレンは、我々の指摘した欠点に向き合ってきた。

今やこのクルマは魅力的なエグゾーストサウンド(依然としてフェラーリほどではないようだが)を発し、スロットルレスポンスは高まり、エンジンはとりわけ低回転での実用性を高めた。テスターの中には、「他を圧倒するスタイリングは必須条件だ」と言う人間もいる。だからといって、このクラスのリーダーとして不足しているものが、そういう客観的に判断できない部分のことだと言っているのではない。それは、スイッチ類のレイアウト、ドアの構造といった話なのである。それに限界時のハンドリングはもう少し違和感をなくしたい。それでもマクラーレンMP4-12Cは見事なマシンだ。しかし我々の多くは、マクラーレンの素質を物語る、エンジニアリングの世界観と可能性が解き放たれたマシンを期待していた。

依然としてフェラーリはわずかなリードを保っている。しかし我々は、今日も汗して働くエンジニアたちが、明日に向けてまた一歩踏み出すのを後押ししたい。舞台裏であっても、彼らは努力を惜しまないプロフェッショナルなのだから。

マクラーレンMP4-12C

価格 195,500ポンド(2,480万円)
最高速度 328km/h
0-100km/h加速 3.1秒
燃費 8.6km/ℓ
CO2排出量 279g/km
乾燥重量 1474kg
エンジン V型8気筒3799ccツインターボ
最高出力 616bhp/7000rpm
最大トルク 61.1kg-m/3000rpm-7000rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ・オートマティック
 
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