ゼノスE10ロードスター

公開 : 2016.05.27 23:50  更新 : 2017.05.29 20:01

では、ブリティッシュ・ライトウェイトの命、ワインディングでのハンドリングはどうかというと、それも期待に違わぬ出来だったといっていい。ノンパワーのステアリングは軽すぎず重すぎず路面フィールを不足なく伝え、ブリティッシュとしてはクイック過ぎないレスポンスも好ましい。フォーミュラの前脚のようなフロント・サスペンションがいい仕事をしているのが、ステアリングに直に伝わってくる感じなのだ。

極く初期のモデルだという試乗車は、トラックパックの硬い脚とレーシング・ブレーキ、それにLSDを装備したスパルタンな仕様だというのでちょっと身構えたが、サスペンションは箱根の空いたワインディング・ロードをエンジョイする限り特に硬すぎる印象はなく、乗り心地は充分許容の範囲にある。

試乗車のタイヤはAVONのZZRで、フロントが195/50ZR16、リアが225/45ZR17という組み合わせをOZホイールに履いていた。ただしこれはタイヤが9万2820円、ホイールが12万2400円のオプションで、標準は同サイズの同じAVONながらZZSになり、ホイールも同サイズだが別デザインのMSWになるという。

それはともかくとして、ハンドリングは踏んでいる限り軽いアンダーステアに終始するナチュラルなもので、基本的にはオン・ザ・レール感覚でコーナリングしていき、LSDを備えることによる過激な挙動も感じられなかった。比較的タイトなコーナーを抜けているときにスロットルを閉じると軽いテールアウトの挙動を見せるが、それも充分予測できる範囲で、危なげはない。

剛性充分なシャシー/ボディの下で、よく動くサスペンションが余裕を持って仕事をしているという印象で、それなりに攻め込んでもピリピリした印象がない。ブリティッシュ・ライトウェイトのイメージからすると大きいボディが効いているのか、懐の深い走りを感じさせるのだ。

とはいえ、問題が皆無だったわけではない。そのひとつは、トラック・パックに含まれるフロントに4ポット・キャリパーを配したレーシング・ブレーキが、公道では効かないことだ。特に走り始めて最初のコーナーに進入したときなど、ノンサーボの岩を踏んでいるような感触のペダルを渾身に力を込めて、やっとスピードが落ちたという印象だった。走り込むにつれてパッドが熱を持ち、徐々に効くようになったものの、このセットは公道には向かない。

輸入元もそのことは解っていて、標準モデルのブレーキはフロントが2ポット・キャリパーの別物になり、もっと低温から効果を発揮するパッドを日本で開発し、それに替える予定だという。

もうひとつの問題は、ウインドスクリーンがないことによる風の暴力だった。とはいえこれはある程度慣れるもので、箱根で走り始めたときは「こいつはマイッタ!」と思ったものだが、走り込むにつれて顔面に抵抗力がついてくる。で、最終的には、帰路の高速道路で100km/hでも耐えられるようにはなった。モダン・デザインのゼノスのボディがスムーズなエアフローを持っているのも耐えられた一因かもしれない。

とはいえ、よほどのM男(もしくはM女)でない限り、ウインドスクリーン付きを注文した方がいいだろうと僕は思う。その場合は、サイドウインドーこそないものの、簡単な幌をコクピットの上に掛けられるというから、走ってさえいれば多少の雨は凌げるのではないか。

さらにいえばこのゼノスE10、外観から想像するよりずっと落ち着いたドライビング感覚を持っているから、クローズド・ボディのモデルがあれば、GTにも充分なり得る素材に思えた。メーカー自身もそこには気づいているようで、3年後とやらのプログラムに、クーペ・バージョンが予定されているという。だがその場合、ドアはどうするのか気になるところだ。ドアなしのクーペは乗り降りがちょっと・・・。

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