グループBを戦うはずだった幻のフェラーリ、288GTO

公開 : 2017.04.23 00:00  更新 : 2017.05.29 18:52

たかが308の改良版?

コクピットに入ると、まるで前輪の上に座っているように感じる。ドアを閉める前に、DKエンジニアリングのジェレミー・コッティンガムがひと言忠告してくれた。このクルマでは、何人もの自動車マニアがスピンしたり、酷い時はクラッシュしたりしている。「F40よりずっと気むずかしい。良いタイヤを履かせるのがとっても大切だ。そうしないと酷い走りをする。」

脅すのは止めて欲しい。たかが308を改良したモデルじゃないのか? 308ならばもう試乗したことがあり、どんなクルマかよく分かっている。ブラックにオレンジの文字を配したヴェリアの文字盤、3本スポークのモモのステアリング、オープンのギアレバー・ゲート、不思議なことに魅力を感じないV8のエキゾーストノート、ギアボックスがウォームアップするまではセカンドをキープ、シャシーの実力はフルに試せないものの素晴らしいバランス。ここまでは80年代の標準的なフェラーリだ。ただ、この時代には珍しい絶対に欠かせないプッシュスターターだけが違っている。素晴らしいが、特別なものはない。

1960年代の250GTO以来、GTOのネーミングが復活した。


それに、最初はほんとに穏やかだ。ステアリングにはほとんどキック・バックが感じられず、道の起伏も吸収されてしまう。通常のラバー・ブッシングが使われている証拠だ。また低速回転だとV8はとても滑らかで、大人しいといって良いほどだ。インテリアは快適だし、ギアボックスも直ぐに覚えられる。前方の見通しも良い。今日のような天候ならファンでも充分だが、s/n57491には珍しくエアコンが出荷時に装備されている。

5000rpmを越えるとリア・ホイールがもがき出す

しかし、ありきたりのクルマだと誤解してはならない。288GTOをマスターしたなんて自惚れてはいけない。クロームのレバーを左に傾け、後ろに倒し、くの字型になった1速に入れ、急峻だがシャープすぎないクラッチを切り、素早く2速にシフトし、最初のストレート・コースに出てスロットルを踏み込んだ。すべての288と同じようにこのクルマも左ハンドルだ。ペダルはクルマの中央線近くに配置されている。クラッチはえらく遠く、ステアリングのほぼ下にある。2000rpm、3000rpmを超えると、笛を吹くような音が聞こえてくる。なんだこの音は? そして4000rpmを超えると、絶叫したくなる。どうなってるんだ。しかし、慌ててはならない。アクセルを戻して、落ち着いてからもう1度やり直そう。4000rpmになると、タコメーター(7750rpmからレッドゾーン)と320khまで記されたスピードメーターのあいだにある小さなブースト・ゲージが動きだし、0.8バールを指し示す。5000rpmを超えると後輪がもがきだし、ステアリングが俊敏になって、このクルマは途方もない性能を発揮する。

5本スポークのスピードライン・リムを履いている。


これまで自分が乗ったどのクルマよりも、コーナー手前のブレーキングとギア・チェンジを入念に行った。スロットルもステアリングを戻し切ってから、踏み込むようにした。慎重になるのは、クルマの価格のせいなのか、それともトリッキーだという評判のせいなのか分からない。多分、両方のせいだろう。

350psのエンジンを搭載したハッチバックの量産車が手に入る現代では、わずか406psのスーパーカーというのは奇妙に聞こえるかもしれない。しかし、1984年当時では、フェラーリで最もパワフルなロードカー用エンジンであり、レース仕様では最大660psを発揮した。しかも、軽量級の288GTOは現代のパワフルなハッチバックより320kgも軽い。また288は後輪駆動のため、パワーを伝える路面との接触面もとても小さいということを忘れないで欲しい。センター・ロックのスピードライン社製スプリット・リムは、フロントに225/50、リヤに255/50のZR16を履いているが、最近のラバーバンドのタイヤに較べるとまるでドーナッツだ。

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