[ABARTH 70周年]嶋田智之が、いま見つめるABARTH 595

プロジェクトXな2台 フィアットX 1/9 ランチア・ベータ・モンテカルロ

2019.04.21

長距離のランチアか、楽しさのフィアットか

4000rpmを超えると、ランチアのツインカムエンジンは本領を発揮。するはずだったが、残念なことに高回転域で点火コイルの調子があまり良くないことがわかり、上まで引っ張るのは諦めた。エンジンの素性はきっと素晴らしいものだろうから、とても惜しい。ランチアの方がシフトノブが短くゲートも狭いから、シフトチェンジがクイックにできる。ノブを握った拳でジャブをするように、段数を変えられる。

モンテカルロの場合、ブレーキの倍力装置、サーボが備わらないということは、コーナーへの侵入時などの減速スピードは、ほぼ身体能力に依存するということになる。加えてブレーキペダルのトラベル量が長いのに、実際に効く動作範囲は狭い。乗り心地が硬い分、最小限のアクションでコーナリングしていくし、運動性能の限界もつかみやすい。だがブレーキだけでなく、モンテカルロは乗りやすい車だとはいい難い。極初期の珍しいミドシップモデルであり、鋭いヘッドライトの眼光のうような、鋭い走りをすることは簡単なことではないと感じた。


フィアットX1/9はコンパクトなボディなりに、より軽快な走りを披露する。特にステアリグフィールの部分でランチアと共通する部分が感じられるが、レシオはよりクイックな設定となっていることも要因だろう。ツインチョーク・シングルキャブは軽やかなハミングとともにスムーズに回転数を上げる。しかし、クルマとの対話という点では、X1/9よりも回転モーメントの低いランチアの方が優れていることに気づく。反面、フィアットは乗り心地とブレーキの操作性でランチアより勝っている。避けることができない不意な凹凸も構えず通過できるし、ブレーキで止まれる距離も心配する必要がないことは、大きい。


どちらが勝者ということは決められない。そもそも今回はモンテカルロのコイルだけでなく、天候や路面状況も芳しくなく、しっかり走りこむことはできなかった。アピアランスは繊細なX1/9と比較すると、モンテカルロの方が存在感は大きいけれど、車内がわずかに狭いことを除いて、私が選ぶとするなら小柄なフィアットになるだろう。

それでも、この2台のイタリアンの個性を比較するのは、赤ワインと白ワインのどちらが優れているか、という比較をするようなもの。色は違えど、どちらもイタリアの豊かな風土の中で生み出されたことに違いはない。ランチア・ベータ・モンテカルロの方が走りは速く、洗練され、ゆとりのあるグランドツアラー的な性格だから、長距離もいとわない。しかし、より活発で濃縮されたフィーリングのフィアットの方が、走る楽しさは強い。どちらも美味しいイタリアンだ。

 
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