モータースポーツ黎明期 HWM社の一部始終 ストリームラインとクーペ 後編

公開 : 2019.09.08 16:50  更新 : 2020.12.08 10:56

写真以上にカッコいいクーペボディ

キャブレターはオリジナルのアマル社製のものではなくウェーバー製が付いており、始動時にクラッチを繋ぐには少し回転数を上げる必要があるものの、3000rpmを超えると力強く滑らかにクルマを進める。ウィレムスが選んだカーブと起伏に富んだ試乗ルートを、速めのスピードでHWMを走らせる喜びは本物だ。

フロントサスペンションは独立懸架式だが、トライアンフの横置きリーフスプリングとウイッシュボーンが由来。ステアリングラックは前輪駆動のシトロエンのもので、当時最も確かな接地感が得られるものだった。現代の水準で見ても軽快かつ正確で、情報量も濃い。ブレーキも一般道レベルなら効きも充分あり、ペダルのタッチも硬く良好。バランスに優れ、レスポンシブなアルファ・ロメオのエンジンも相まって、ウィレムスは仕上がりに喜んでいる。

HWMクーペ
HWMクーペ

アルファ・ロメオのエンジンはジャガー製のものより軽量なため、前後の重量配分も改善し、サーキットでの走りもずっと良くなった。最高出力は100ps近くも下がったそうだが、新しいニュルブルクリンク・サーキットのラップタイムは4秒も縮んだという。素晴らしい結果だ。

一方で「ジョージズ・フォリー」クーペは、写真で見ていたよりも実物は格段にカッコよく、全体のまとまりも遥かに優れていることがわかった。突き出したフロントグリルに、少しえぐられた部分に配されるテールライト。プロポーションは低く長く、今にも駆け出しそうな躍動感がある。ちなみにテールライトはヒルマン・ミンクス・シリーズIIIと同じ部品なことは、内緒。

シュネドラー博士はボディをジョージ・アベカシスの選んだ落ち着いたブルーへと塗り替え、ボラーニ社製のワイヤーホイールを合わせて、アルフィン・ドラムブレーキには冷却穴を開けている。インテリアの内張りはブルーとホワイトのレザー張りだが、ほとんどがオリジナルだという。シートは柔らかく快適だ。

状態の良いジャガーEタイプ並みに速い

身長が180cm以上あったアベカシスに窮屈だといわせた車内だが、わたしにとってはヘッドルームも充分。ステアリングホイールの位置も丁度いい。ずらりと並んだメーター類が壮観で、巨大なレブカウンターは8000rpmまで刻まれ、スピードメーターは180マイル(289km/h)までの目盛りが付く。カーペットとパワーウインドウも当時のままだそうだ。

美しいクーペボディをスタートさせると、非常に状態の良いジャガーEタイプ並に速く、ドライビングフィールも近い。スポーツ・レーシングカーがベースだけにうるさいかと考えていたが、ロードノイズもエグゾーストも、グランドツアラーらしく程よく遮音されている。

HWMクーペ
HWMクーペ

撮影のために発信と停止を繰り返していたところ、水温が上昇してしまい、熱気がコクピットに流れてきた。ブレーキも頻繁に踏んでいると、少し緩くなった感覚があった。しかし、ステアリングフィールやハンドリングは期待通り。もし大きな自動車メーカーによって、少量でも量産されたのなら、間違いなく大きな話題を呼んだに違いない。

いま乗っても非常に速く、実用的なロードカーだ。ほかのクルマでは味わえないような、素晴らしい魅力に溢れている。それはストリームラインにも当てはまる。HWモータースは10年の活動期間に19台のクルマを生み出し、そのうち17台が残っているが、そのすべてが個性的で、同じものはない。

いま、このHWMというブランドを知っている人はほとんどいないはずだが、戦後の混迷した難しい時代に、モータースポーツへと果敢に挑戦したという歴史はしっかり残っている。彼らの成果は、それから半世紀近くも自動車産業大国として英国が繁栄をする、大切な大きな一歩となったことは明白だろう。

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