再確認される価値 ベントレー・コーニッシュ 職人の徹底的なお仕事 前編

公開 : 2019.10.26 07:50  更新 : 2020.12.08 10:56

ロールス・ロイスに水を開けられた人気

1970年代は経済や社会情勢が悪かったのにも関わらず、クーペではなく、コンバーチブルのコーニッシュ人気は高かった。そこで1975年、シルバーシャドウに似たスチール製のルーフが付いた、ロールス・ロイス・カマルグが発表される。固定ルーフのクーペのコーニッシュだ。

シルバーシャドウが当時3万3000ポンド(438万円)だったが、さらに7000ポンド(93万円)を追加すると、カマルグが手に入った。一方でベントレー・コーニッシュの人気は振るわなかった。ハンサムなクーペ人気の低下に加えて、ベントレー・ブランドへの訴求力が1960年代以降、衰えていたことも理由だろう。

ベントレー・コーニッシュFHC
ベントレー・コーニッシュFHC

ロールス・ロイス・シルバークラウドとベントレーSタイプの頃は、両ブランドの売上は拮抗していたが、シルバーシャドウとT1の時代にはいると、ロールス・ロイスの6%ほどしかベントレーは売れていない。

1965年から1980年にかけて、ロールス・ロイスはシルバーシャドウをベースにしたクルマを4万台以上生産していたのに対し、ベントレーはわずかに2585台。その殆どは標準モデルの4ドアのT1かT2だった。1971年から1976年にかけて作られたベントレー・ブランドのコーニッシュは、27台しかない。

今回のコーニッシュのシャシーナンバーはCBH24209。1975年10月から1976年7月にかけて作られた、一般的にMk1Aと呼ばれる6台限りの右ハンドルモデル。3台は英国に売られ、残りの3台は日本とアイルランド、オーストラリアへ輸出されている。

悪くない状態をさらに完璧に仕上げる

このクルマは1976年7月7日に完成。英国中西部のシュロップシャーで金属加工を受け、シルバーミンク色のボディにエバーフレックスと呼ばれるビニールレザー張りのルーフを備えていた。ヒラーが2016年にレストアを受けるが、状態はかなり良かったそうだ。

「塗装にはひび割れや退色がありましたが、オーナーのクリス・チェンバーズは再塗装したくないと話していました。しかし部分的に塗装すると、全体で見ると色むらが出る可能性があります。インテリアやエンジンルームも同様です。そのままにしておくか、すべて塗り直すかのどちらかです」 と振り返るヒラー。

ベントレー・コーニッシュFHC
ベントレー・コーニッシュFHC

ボディだけでなくメカニズムも悪くなかった。だが完全に一度ばらし、内部までしっかり手を加えて「改善」する良い機会だとクリスへと伝えた。

「クリスが手間を掛けていることもわかりましたが、ミュージアム・コンディションではありませんでした。彼は普通に運転したいとも話していたので、可能な限り運転しやすく仕上げる必要がありました」 ヒラーはいわゆるレストアという呼び方での提案しなかった。

しかしサブフレームを外してエンジンを下ろし、内装材を剥がし、ボディの地金まで剥き出しにする作業に、レストア意外の呼び方はない。 「クリスは理解してくれて、仕事を進めることができました。クルマを正しく仕上げられるとわかっていたので、クリスからの返事を楽しみに待っていましたよ」

レストアの続きは後編にて。

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