再確認される価値 ベントレー・コーニッシュ 職人の徹底的なお仕事 前編

公開 : 2019.10.26 07:50  更新 : 2020.12.08 10:56

1971年〜1976年の間に作られた、極めて貴重な2ドアクーペのベントレー・コーニッシュ。現代のクルマにはない個性が再び注目を集めています。その1台のオーナーの知識とレストア専門家の技が融合し、卓越した再生につながりました。

1976年製のベントレー・コーニッシュ

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:Will Williams (ウィル・ウイリアムズ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
派生グレードに秘められた価値を明らかになると、クルマの評価がぐっと上がることがある。僅かな手がかりから、個体の希少性が明らかになることもある。

例えば、クロームメッキ・バンパーが付いたロールス・ロイス・コーニッシュの初期モデルに、Mk1Aと呼ばれるベントレーの派生バージョンが存在することを筆者は知らなかった。1971年型と見かけは同じだが、1975年と76年に少数が作られた右ハンドル車。シャドーIIを元にした、ゴム製バンパーなどいくつかの改善点が加えられている。

ベントレー・コーニッシュFHC
ベントレー・コーニッシュFHC

ロールス・ロイスでは新しい技術を量産する前に、高価なコーチビルド・モデルに搭載してテストすることが1960年代後半からの通例だった。1979年のコーニッシュには、1980年型シルバー・スピリットに用いられるリアサスペンションが一足先に採用された。

今回ご紹介するのは、1976年製のベントレー・コーニッシュ。ロールス・ロイスとベントレーの専門ショップ、ヒラー・ヒル社のレストアが、見事なことに唸らされる。シャドウIIスタイルのダッシュボード・フェイシアに、スピリット風のエアコンが付いている。北米市場に向けた左ハンドル車。

このクルマは、世界大戦後に生み出された最も美しいロールス・ロイスとベントレーの象徴ともいえるだろう。前身モデルの2ドアのコンチネンタルのようなふくよかな美しさはないものの、控えめで上品な魅力がある。細かいことでも、エンスージャストなら、知っている知識は多い方が良い。

見直されつつある古いベントレーの価値

英国のコーチビルダー、ミュリナー・パークウォードが生み出した優雅な2ドアクーペのボディの内側には、マスターシリンダーがないフルアシストのブレーキが付く。マフラーも1976年だけの特別な部品だ。

この年代のクルマへの評価は近年高まっており、オーナーが費やす金額も増加傾向にある。レストアを手掛けたヒラー・ヒル社のレイ・ヒラーが説明する。「新しいコンチネンタルGTが発表された時、市場の流れが変わりました。ベントレーの独自性が弱まったことで、古いクルマを見直すようになったのです。その存在に愛着が湧いたのでしょう」

ベントレー・コーニッシュFHC
ベントレー・コーニッシュFHC

「現代のベントレーに乗って、古いクルマへ乗り換えたオーナーも知っています。新しいベントレーは、昔とは別の生き物です。標準モデルの4ドアのシャドウやスピリットでも、運転したいという気持ちからお金をつぎ込むケースが多いようです。問題は、評価の低かった時代に、良くない扱いを受けていたクルマも含まれていることです」

2ドアのコーニッシュがどれだけ珍しいのか、オーナーも認識し始めているようだ。職人によるコーチビルドで、1台の新車を生み出すのに6カ月も要した。価格は、4ドアのロールス・ロイス・シルバーシャドウやベントレーT1の倍はした。

シャドウとの共有部分が極めて少ないボディはロンドンのハイスロードで製造。その後ドライブトレインを組み付けるためにクルーへと送られ、最終仕上げは再びロンドンで行われた。

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