今あらためて試乗 シトロエン・エグザンティアSX(1995年) ひたすら平滑に、フトコロ深く

公開 : 2019.11.24 05:50  更新 : 2021.10.09 22:43

今、90年代のシトロエンに乗ると、何を感じるのでしょうか。1995年式のエグザンティアSXに試乗。一見「ふつう」のクルマに見えますが、ハイドロ・シトロエンによる、あのころの「らしさ」がありました。

日本一マニアック(?)なエグザンティア

photo:Koichi Shinohara(篠原晃一)

ここを訪ねる人は勇気や好奇心が旺盛な人に違いない。

茨城県下妻市にあるモダンサプライガレージの筑波ファクトリーは、一見廃車になってしまったシトロエン車のジャンクヤードのように見える。

前期型よりいくぶん立体的になったフロントマスク。車高は室内のレバーで4段階に変化させることができる。これは標準の車高で、上から2番目の高さ。
前期型よりいくぶん立体的になったフロントマスク。車高は室内のレバーで4段階に変化させることができる。これは標準の車高で、上から2番目の高さ。    篠原晃一

だがひとたびエンジンに火が入ると、地面に這いつくばっていた車体がムクムクと起き上がり(車高が高まり)はじめ、生気をみなぎらせるのだ。

モダンサプライがストックしているエグザンティアは実走可能なものから、部品取りまでけっこうな数が存在する。中でも今回のお目当てである1995年式、シルバーのSXは最も魅力的な1台といえる。

日本に正規輸入されたエグザンティアは全てATモデルだが、この個体は過去のマニアックなオーナーの希望により5速マニュアル・トランスミッションに換装されているのである。

オドメーターに刻まれた23万kmという走行距離も、この個体がシトロエン・マニアを惹きつける強い魅力の持ち主であることを裏付けている。

さっそくキーを捻り、エンジンを掛けると、すぐさまベタベタだった車高が変化しはじめる。

「血圧」が上がるまでの間、少しだけ待つのはハイドロ・シトロエンのたしなみである。メーター脇のチェックランプが消えたことを確認して、走り出してみる。

シートとサスが極上の走り演出

シトロエンのクルマは例えスポーティモデルであっても上質な乗り心地が特徴となっている。

その要はハイドロだが、それ以外にフカフカとしていて良く沈み込むシートもシトロエンの味作りに貢献している。

エアバッグ付きのステアリングが90年代を感じさせるインテリア。この個体は5速マニュアル・ギアボックスに換装されている。
エアバッグ付きのステアリングが90年代を感じさせるインテリア。この個体は5速マニュアル・ギアボックスに換装されている。    篠原晃一

ダッシュパネルの造形は平凡だし、メーターも普通の文字盤タイプ。エアバッグ付きのステアリングも、もはやシトロエン伝統の1本スポークではない。

そういった逐一の個性は希薄なのだが、布張りのシートは他のネオヒストリックと比べても突出して柔らかい。

クラッチをミートすると、柔らかいシートに腰かけたまま平滑なスケートリンクに滑り出したような不思議な感覚に包まれる。路面は軽くうねっているが、その上を走るエグザンティアはまっ平らな氷の上を滑走しているようにフラットな姿勢を崩さない。

ちょっとの段差はなかったことにしてくれるし、大きな段差は長いサスペンションストロークをめいっぱい使って滑らかに収束させる。

電子制御のエアサスがゴロゴロしている昨今だが、シートの感触を含めたタッチの柔らかさにおいては今なお20世紀のハイドロ・シトロエンに軍配が上がるような気がする。

このうえなく柔らかいのだが、車体の軽いので、少しもダルではないのである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。BMW 318iコンパクト(E46)/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。

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