【試乗 M・ベンツGLCクーペ改良新型】新グレード、GLC 300 人気SUVの内装/走りを評価

公開 : 2019.12.28 20:50  更新 : 2021.12.28 00:11

肌触りの良い乗り心地

もちろん、走りの軸脚はオンロードにある。高速操安を重視するのは良識だろう。

横Gに対するロール角は少なく、ストローク速度は低く抑えられている。操舵回頭反応の遅れはないが、回頭そのものは穏やか。踏み締めるような操縦感覚であり、素早い転舵や切り返しでも最小の挙動で収まる。

メルセデス・ベンツGLC 300 4マティック・クーペの後席
メルセデス・ベンツGLC 300 4マティック・クーペの後席

ハンドリングの切れ味という点では他のベンツ車同様に多少“鈍”なほうだが、ハイアベレージでのワインディング走行におけるストレス軽減に大きく役立ち、それが身を委ねるような安心感を生み出している。

サスチューニングは高い重心と重い車重を抑え込むために相応の硬さだが、粗さを感じさせるような振動や突き上げはない。目地や修復跡の通過では角を包み込むような穏やかさを示す。硬めでも肌触りのいい乗り心地である。

注目は、加減速コントロール

パワーに関しては申し分なし。

車重等のスペックからしても不足などあるはずないが、感心させられるのは速さではない。加減速コントロールのフィールである。

メルセデス・ベンツGLC 300 4マティック・クーペ
メルセデス・ベンツGLC 300 4マティック・クーペ

多くのダウンサイジング・ターボ車がそうであるように低中回転で豊かなトルクを発生し、ふだん使用する領域では巡航ギアや1段ダウンシフトで済ませ、3000回転を超えることは滅多にない。だからといって巡航ギアを強引に維持している印象はない。

山岳路などのアクセルの開閉頻度が高い状況では早いタイミングでダウンシフト。アップシフトを遅らせて巡航ギアより1段低いギアを用いる時間が長くなる。

アクセル操作に対する細かな加減速反応がよくなり、エンジン回転数等で走行状況も直感的に伝わってくる。

いいクルマの走りとは

平坦で速度も落ち着いた状況になると、山岳路を同じように踏み込んでもダウンシフトを堪える。巡航ギア維持でトルクに任せて引っ張っていく。

必要とする駆動力が同じでも運転パターンや走行状況に応じて変速制御を変えているのだろう。その按配がとてもいい。

メルセデス・ベンツGLC 300 4マティック・クーペ
メルセデス・ベンツGLC 300 4マティック・クーペ

スポーティなルックスで迫力の走りを期待しているドライバーには手応え薄いタイプかもしれない。パワーフィールもフットワークもドライバーや同乗者に与えるストレスの低減を主とするタイプで、高性能を主張するような演出はない。

いいクルマの走りは実速度に比べて体感速度が低く感じられるものだが、そのとおりの走りである。

ルックスの割に、意外と堅実

試乗車の身上書を見てみると、オプションを含む車両本体価格は924万8000円。そのうちの117万8000円が内外装関連のOP。最も高価なのはレザーエクスクルーシブパッケージで、HUDや高機能空調、シートベンチレーターなどの快適性向上装備を含むものの55万2000円。

ベンツ車では定番のAMGラインが39万9000円である。SUVとして選ぶならこの2つのパッケージOPは不要とも思えるが「クーペ」のキャラを考えると装着したくなる。やはり1000万円の予算建ては必須か。

ステアリングの左右には、インフォテインメントのすべてが、ステアリングから手を離すことなく操作できるタッチコントロールボタンが装備される。
ステアリングの左右には、インフォテインメントのすべてが、ステアリングから手を離すことなく操作できるタッチコントロールボタンが装備される。

アウトドアレジャーのための道具として選ぶなら到底投資回収は不可能である。「けっこう実用的」も「スタイリッシュ!」も副次的な魅力。投資回収は「贅」で賄うのが基本だ。

輸入プレミアム車では常套だが、その「贅」の捉え方、あるいは価値感をどこに置くかがGLCクーペの評価では最も重要だろう。

クーペルックは外に向かって誇示する魅力だが、乗ってみれば多くの魅力はドライバーや同乗者に向かっている。それは特別な趣味の自己満足という類ではなく、ふつうの感覚での心地よさ。安心とか馴染みとか寛ぎというような感覚であり、それが乗り味や運転感覚、座り心地とどこからも感じられるのが見所。

それらの魅力は使うほどに過ごした時間ほどに価値を増していく。ちょっと「遊び人」風のイメージもあるが意外と堅実なモデルなのだ。また、スポーティ&スペシャリティ嗜好がなければGLCと合わせて考えてみるのもいいだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。
  • 撮影

    前田惠介

    Keisuke Maeda

    1962年生まれ。はじめて買ったクルマは、ジムニーSJ30F。自動車メーカーのカタログを撮影する会社に5年間勤務。スタジオ撮影のノウハウを会得後独立。自動車関連の撮影のほか、現在、湘南で地元密着型の写真館を営業中。今の愛車はスズキ・ジムニー(JB23)
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

関連テーマ

おすすめ記事

 
最新試乗記

メルセデス・ベンツ GLCの人気画像