目指せ1600km/h ひとりの男の夢 「ブラッドハウンド」物語り

2017.11.26

終わりなきモンダイの山

タイフーン・ジェット戦闘機はエンジンを2基搭載している。ブラッドハウンドは1基だ。それがどうした。2基のエンジンはよくあるように協調動作をしており、常にデータ交換を行って完全に同期している。

ブラッドハウンド以前には、誰もこれを1基単独で動作させようとはしなかった。そこでわがエンジニアは「箱の中のタイフーン」と呼ぶ装置を開発した。

これは文字通りの小さな箱で、その名の通りEJ200エンジンを戦闘機に搭載されていると勘違いさせる装置である。もしスクラッチからエンジン制御装置を開発するとなると、数百万、いや数千万円かかるだろう。この「箱の中のタイフーン」の開発費は4万5千円くらいだとチャップマンは言う。

経緯は以下のとおりだ。

制御データ処理のため、最初、エンジンにそれ自身の情報を食わせることで別エンジンとの接続を偽装したが、十分ではなかった。

なぜなら、エンジンが受信するデータはそれ自身が送信したデータそのままなので、現実には起こりえない。エンジンは賢いのでこれを疑いだしたのだ。そして、ついには止まってしまった。

そこでデータ送信にわずかの遅延を挿入したところ、ようやくうまくいった。この4万5千円の解決方法を見せたところ、オリジナルのEJ200を設計したロールス・ロイスの制御エンジニアは絶句したそうだ。

しかしもうひとつ問題があった。

このエンジンは、空を飛ぶ乗り物用に設計されたのだ。一方、ブラッドハウンドは常に地面に接地していなくてはならない。このためエンジンは多量の砂を吸い込んでしまう。

大まかに言ってEJ200エンジンは毎秒6万4千ℓのエアを必要とする。これは普通の家の空気を3秒で吸いつくしてしまう量だ。

したがって、ハクスキーンの砂っぽい環境でも正常動作するような対策が必要だった。

特に、超高温でガラス状に溶けた砂がEJ200エンジンのインナーケースの冷却孔を絶対に塞がないようにすることが不可欠である。これは重要だ。

もし冷却孔が塞がれると、エンジン中心部の温度は構造材の金属の融点をはるかに超えてしまうからだ。スペアのエンジンもあるにはあるが、両方とも防衛省のもので、チームは両方のエンジンを借りた時と同じ状態で返したいと思っていた。幸い、実験は成功した。

しかし、南アフリカで実際にクルマを超高速で走らせない限り、わからないことは山ほどある。

 
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