【グッドウッド雪上版?】GPアイスレース あまりにも見事な非現実世界

2020.03.22

サマリー

オーストリアはツェル・アム・ゼーの飛行場を舞台に行われているGPアイスレースというイベントをご存知でしょうか? グッドウッドの雪上版とも言えるこのイベントには、スキージョリングという一風変わったスポーツとともに、古今東西の名車が集まっています。

もくじ

狂気の世界
スキージョリング?
復活の立役者 ポルシェ博士のひ孫
現実とは思えない世界
番外編1:氷の上の変わり種
番外編2:ラリーとスキーの出会い

狂気の世界

ほとんど無音のまま走行するフォーミュラEマシンもすでに見慣れた存在だが、ダニエル・アプトがステアリングを握るアウディeトロンFE06が疾走する姿はとても現実のものとは思えなかった。

このシングルシーターが走行しているのはサーキットではなく、凍結した飛行場にある雪で覆われたコースであり、このマシンが履いているのはスタッドが打ち込まれたアイスタイヤなのだ。

フォーミュラEのレースが普通に思えて来る…。
フォーミュラEのレースが普通に思えて来る…。

さらに、リアのディフューザーからは牽引ロープが延び、その先にはスキーヤーが必死でしがみついている。

だが、これがこの氷のサーキットで目にすることの出来る、もっとも非現実的な光景というわけではない。

視線を転じれば、2012年のダカールラリーを制したミニ・オール4レーシングが氷の上を滑るように走行している。

ポルシェ・タイカンとともにコースを周回するのは歴史的価値を誇るポルシェ911であり、なぜかそのルーフにはサーフボードが積まれている。

さらには、軽くモディファイされたベントレー・コンチネンタルGTが練習走行を行っている。

そして、ハンス=ヨアヒム・スタックが、かつて自らがF1デビューを果たしたマシンを復活させ、6つ(そう6輪だ)のスタッド付きタイヤを組み合わせている。

そう、これが狂気のGPアイスレースの世界だ。

スキージョリング?

GPアイスレースの名を耳にするのは初めてかも知れないが、開始からわずか2年でモータースポーツのカレンダーにその名を刻もうとしているこのイベントこそ、まさに雪山で行うスピードの祭典とでも呼ぶべきものだ。

グッドウッドと同じく、実はこのイベントも長きに渡るモータースポーツの歴史を誇っている。

GPアイスレースはオーストリアのツェル・アム・ゼーにある飛行場を舞台に開催される。
GPアイスレースはオーストリアのツェル・アム・ゼーにある飛行場を舞台に開催される。

レースの中心となるのが、スキーヤーをクルマで牽引するスキージョリングと呼ばれる一風変わったスポーツだ。

最初のスキージョリングのイベントは、1937年、オーストリアのツェル・アム・ゼーにある氷結湖を舞台に行われており、この時はバイクがスキーヤーを牽引していた。

最初に「ポルシェ博士記念スキージョリングレース」が開催されたのは1952年のことであり、翌年には通常の自動車レースもイベントに加えられている。

その後、このイベントは毎年恒例となったが、天候不順によるキャンセルが相次いだことから、1963年からは、舞台をツェル・アム・ゼーの飛行場へと変更している。

だが、1974年を最後にレースはキャンセルされ、以降毎年恒例だったこのイベントが開催されることはなかった。

復活したGPアイスレースでは、タイムアタックとレース、そしてスキージョリングが行われるが、その大きな目的は、この雪上のモータースポーツに古今東西の名車を集めることにある。

復活の立役者 ポルシェ博士のひ孫

GPアイスレースにもグッドウッドにおけるリッチモンド公爵のような人物がいる。

フェルディナント・ポルシェ博士のひ孫、フェルディナンド・オリバー・ポルシェがその人だ。

雪や氷のうえでそれなりのトラクション性能を得るには金属製スタッドが必要だ。
雪や氷のうえでそれなりのトラクション性能を得るには金属製スタッドが必要だ。

彼がこのイベントを「歴史の闇」から復活させたのは、ますます高まるヒストリックカーイベントに対する需要と、「ツェル・アム・ゼーが誇るモータースポーツの歴史」があったからだと言う。

いまやグッドウッドが大規模で誰もが楽しめるイベントとなっている一方、はるかに小規模なGPアイスレースは、無秩序な楽しみと混乱の瀬戸際で、なんとかバランスを保っているように見える(ほんの一例だが、メディアセンターはバスルームの展示室に置かれている)。

比較的気温が高く、主催者たちは氷のコース(距離が短く三角形をしたややつまらないコースだ)が溶けて台無しになることを防ごうと必死だが、その結果、一部のスケジュールが変更され、もともとスムーズとは言えない運営がさらなる混乱に見舞われている。

だが、こうした点も、レースやデモ走行を行ったり、展示されている見事な車両を目すれば気にならなくだろう。

三菱ランサーやスコダ・ファビアR5、スバル・インプレッサといった比較的新しいマシンが登場する一方、素晴らしく魅力的な歴史的名車のなかには911とフォルクスワーゲン・ビートルの一群、少数のサーブ96、ボルボのクラシックモデルや、台数は少ないがグループBを戦ったアウディ・クワトロなどが含まれている。

現実とは思えない世界

スティグ・ブロンクビストがフォーミュラEのマシンをドライブしているが、アウディは彼にクワトロS1のステアリングも委ねている。

さらに、3度のル・マン・チャンピオン、ブノワ・トレルイエには、1987年のスキー・スラローム王者であるフランク・ヴェルンドを、1955年製のDKW F91で牽引するという役割が与えられていた。

オリンピックのスラローム銀メダリストでもあるヴェルンドがDKWを追いかける
オリンピックのスラローム銀メダリストでもあるヴェルンドがDKWを追いかける

フォルクスワーゲンはヒルクライムレーサーからEVのショーケースへとその目的を変えたID Rの開発実験用車両、ゴルフeR1を公開しているが、同時にクラシックモデルの1302 Sと、タナー・ファウストがドライブする強力なラリークロス用マシンという、驚くべきビートルのペアを走行させている。

ファウストは「氷のサーキットでのドライビングも楽しめました」と話しているが、彼にとってこのイベントのハイライトははハンス=ヨアヒム・スタックとの出会いだったに違いない。

GPアイスレースではこうしたシーンを目にすることが出来るのだ。

確かに完ぺきには程遠い。

距離が短く幅の狭いコースはスペースが足りず、2万人ほど集まった観客もあまりレースを楽しめなかったに違いない。

現場にいてもいま何が起こっているのかを知るのが難しかったほどだ。

だが、同時にここでしか味わえないものもあった。

6つのスタッド付きタイヤを履いたF1マシンをハンス=ヨアヒム・スタックがドライブしたり、Nascarのストックレーサーが氷の上を走ったり、古いシボレー・コルベットが凍結した滑走路をスライドするシーンなど、ここ以外では決して目にすることは出来ないだろう。

現実とは思えない?

確かに。あまりにも見事な非現実世界だ。

番外編1:氷の上の変わり種

マーチ・コスワース761/5

1974年、ハンス=ヨアヒム・スタックはこのマーチ製シャシーでF1デビューを果たしている。

6輪の2-4-0コンセプトなど、さまざまなスペックで何度か復活したものの、今回は1976年の761/5仕様でレストアされることとなった。

マーチ・コスワース761/5
マーチ・コスワース761/5

さらなるグリップを確保するため、リアアクスルには4本のスタッド付きタイヤが装着されている。

オクラサ・スペシャル

英国でポルシェとフォルクスワーゲンのディーラーを営んでいたデビッド・スモールが、スペアパーツとアルミニウム製の飛行機用ボディパネルを使ってこのクルマの制作に着手したのは1958年のことだった。

半世紀もの間ガレージでの眠りについた後、現オーナーのスティーブ・ライトが10年以上を掛けて仕上げている。

走行距離はまだ800kmにも満たない。

ポルシェ・タイプ64

フォルクスワーゲンのタイプ60ビートルをベースに開発されたこのタイプ64は、1939年に開催されたベルリン=ローマ・レース用にフェルディナント・ポルシェが初めて設計したクルマだった。

10年前にオリジナルモデルが復活した時、同時にレストアを担当したマイケル・バーバックはこのレプリカを製作している。

番外編2:ラリーとスキーの出会い

驚愕と非現実性の双方において、スキージョリングとはこれまで見たなかで最高のモータースポーツかも知れない。

スキーヤーがコース中をクルマで牽引され(時には馬や犬、スノーモービルのこともある)、もっとも速く周回したものが勝者となるが、そのためにはさまざまな技術が求められる。

GPアイスレース
GPアイスレース

プロスキーヤーのドミニク・ハートマンを牽引するのは、友人のドミニク・リッカーが運転するイエーガーマイスターカラーに塗られた911だ。

「体力的にも大きな負荷が掛かります」と、ハートマンは言う。

「牽引ロープに掴まっているだけでも大変な腕の筋力が必要とされるのです」

彼によれば、コツはそれぞれのコーナーでスキーヤーとドライバーの双方が意思疎通を図ることだと言う。

ドライバーがペースを設定し、スキーヤーが牽引ロープの長さを調節することでクルマとの距離をコントロールするのだ。

「お互いが何をしようとしているのかを理解する必要があります」と、ハートマンは話している。

「コーナーでスピードを維持するにはラリーカーにはドリフト走行が求められます。そして、スキーヤーは滑らかなライン取りを行うため、コーナーのイン側を滑る必要があるのです」

 
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