「速度の2乗」で増える空気抵抗 アリエル・アトム 4 効果絶大のスクリーン トンネルでテスト

公開 : 2024.02.26 19:05

完全に真っすぐなストレートが2.7km続く

ケイツビー・トンネルの特長といえるのが、空力テストのニーズへ、実環境へ近いカタチで対応できること。完全に真っすぐなストレートが、2.7km続いている。

一般的な風洞実験施設は、実際の走行環境とは異なるため、タイヤの変形や冷却システムの状態などが異なる。サーキットでは、その日の気温や気圧、路面温度などが影響し、再現性という点で安定しない。

ケイツビー・トンネルのターンテーブルに載るアリエル・アトム 4
ケイツビー・トンネルのターンテーブルに載るアリエル・アトム 4

数値流体力学(CFD)の技術を駆使すれば、クルマの周囲で生じる気流を高精度に予想できる。しかし解析技術が進化しても、物理的にテストするという需要は高い。

トンネルの中は基本的に無風で、温度条件も安定している。路面は一定で、騒音の規制もない。これほど理想的なロングストレートは、他にないといっていい。

本来ここは、1897年に開通したグレート・セントラル鉄道の一部だった。1966年に廃線となり、2000年代初頭まで放置されていた。そんな折、部外者も利用できるトンネルを探していた、空気力学の開発支援を専門とするトータルシム社が目を付けたのだ。

「テストで生じる変数を取り除くことで、必然的にベターな結果が得られます。技術的には、常識といえる考え方です」。同社のマネージング・ディレクター、ロブ・ルイス氏が説明する。

シルバーストンと同品質のアスファルト

路面には、シルバーストン・サーキットと同品質のアスファルトが敷かれている。監視カメラが要所に設置され、消火設備と照明が整えられた。完成には4年間と、政府補助金の620万ポンド(約11億5320万円)を含む、多額の予算が投じられた。

ケイツビー・トンネルは常にスタンバイ状態といえ、スタッフは到着後、すぐに実験を始められる。アリエルの技術者は、データロガーのセットアップが終わった状態で車両を持ち込み、筆者たちが到着するやいなや試走が始まった。

アリエル・アトム 4(英国仕様)
アリエル・アトム 4(英国仕様)

わたしのようにアマチュアで、ヘルメットを被っただけの服装の場合、トンネル内では96km/hの速度規制が適用される。プロのドライバーがレーシングスーツを着ていれば、さらに高速まで許されるが、条件次第で規制は変更されるという。

トンネルのアーチに照明が反射し、アトム 4の発するノイズが反響する。かなり特殊な環境といえ、道幅は充分広いが、最初は低い速度でもかなり速く感じられた。

アトム 4の安定性は高い。ロケットのように加速する。正直なところ、96km/hを超えて加速してしまったが、北に向かって疾走。終点にはターンテーブルが設置され、クルマの向きを変えて南へ戻る。

細かなアップデートを重ね、体感できる改善へ

3回の往復は、簡単に終了。ターンテーブルの奥には、コウモリが集団で暮らしているそうだ。施設開発の許可も、その手前までに制限されたらしい。ル・マン・プロトタイプのLMP1マシンが全開で走っても、コウモリはサウンドに反応しないという。

肝心の保護スクリーンのテスト結果は、興味深いものだった。「スクリーンが100ニュートン(約10kg)のダウンフォースを生成し、空力バランスを車両中央へシフトすることに役立つと判明しました」

アリエル・アトム 4から見たケイツビー・トンネルの様子
アリエル・アトム 4から見たケイツビー・トンネルの様子

「空気が生む共振を抑え、空気をエンジンのエアインテークへ導き、ドラッグも減らしていました。つまり、ウイン・ウイン・ウインの結果を達成したといえます」。アリエルのサイモンは満足気だ。

「このような細かいレベルでのテストは、トンネル以外では難しいでしょう。細かなアップデートを重ねることで、ドライバーが体感できる改善へ繋がります。非常に価値のあるテストだったといえます」

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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