ボルボ144 E 「スウェーデン製」と端々から伝わる 当時は最も堅牢な4気筒 人気小説家の愛車(1)

公開 : 2024.05.26 17:45

英国ボルボによってレストアされた、小説家がオーナーだった144 積極的に取り組まれた安全性の向上 生産国のアイデンティティが伝わる 一生モノといえる1台の魅力を、英編集部が振り返る

生産国のアイデンティティが伝わる

近年の量産モデルから感じ取れる、生産国のアイデンティティは多くない。しかし、半世紀前は違っていた。ボルボ144は真面目なサルーンだが、デザインの端々からはスウェーデン製だという事実が伝わってきた。

輸出を前提とした、国際的な量産車ではあった。とはいえ、設計・デザインされたお国柄がしっかり反映されていた。それが、大きな魅力を生んでいた。

ボルボ144 E(1974年式/英国仕様)
ボルボ144 E(1974年式/英国仕様)

ボルボの140シリーズを振り返ると、各部の素材は平均水準以上といえた。デザインは、シンプルでチャーミング。技術的な目新しさはなくても、厳しい環境で暮らす自国民へ使われることを前提に、信頼性や安全性は高かった。

凍結した路面でも、挙動は穏やかで予想しやすかった。手の込んだサスペンション以上に、重視されたのは落ち着いた操縦性。ボルボはあえて、リジットアクスルと後輪駆動というパッケージングを選んでいた。ボディは、サビにもある程度は強かった。

スウェーデンは税金が高く、社会保障制度が充実しているかわりに、裕福な人が多いわけではなかった。クルマを定期的に買い替えられる層は限られた。それまでのアマゾンのように、140シリーズのスタイリングには、最後まで目立った変更はなかった。

他社のモデルが数年前後で傷む時代に、平均で11年は耐えられることをボルボは自負した。強固な構造と高度な製造品質の裏付けといえた。

積極的に取り組まれた安全性の向上

これらの特徴は、スウェーデン以外でも強みとして認められ、140シリーズは成功。賢明さに美徳を感じた、欧州や北米の人々へ受け入れられた。フォルクスワーゲンビートルから、乗り換えを考えるユーザーも多かった。

アメリカでは、フルサイズ・モデルの魅力へ陰りが出ていたことも、追い風になった。毎年のように表面的なアップデートが繰り返され、買い替えを推奨するという、クルマの作り方は飽きられていた。燃費は悪く、必ずしも製造品質が高いともいえなかった。

ボルボ144 E(1974年式/英国仕様)
ボルボ144 E(1974年式/英国仕様)

社会運動家のラルフ・ネーダー氏が自動車の安全性に疑問を呈する以前から、ボルボは積極的にそれへ取り組んでいた。衝突時に衝撃を吸収するステアリングコラムや、身体を保持するシートベルトは、既に140シリーズへ標準装備されていた。

大きく広いトランクは、キャビンを守ることにも貢献。リンカーンより、フロントシートの足もと空間にはゆとりがあり、ボディ自体の安全性も高かった。

印象的な広告で、話題も集めた。140シリーズ・サルーンの上に、6台が重ねられた写真をご記憶の読者もいらっしゃるだろう。それだけの重量を、ピラーが支えられることを主張したものだった。

そんな140シリーズとして当初提供されたのが、1966年の144。4ドアサルーンのシルエットは典型的な凸型で、大きな4枚ドアに5名分のシートが設えられていた。直線基調のデザインはモダンで、新しい潮流のきっかけにもなった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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