マニュアルで操る駿馬 フォード・マスタング GTへ試乗 お買い得な本物のマッスルカー

公開 : 2025.01.26 19:05

エンターテインメント性は非常に高い

とはいえ、回転数を問わずサウンドは素晴らしい。そもそも、公道の流れでトルク不足を感じることなどない。低域ではドロドロと低音を響かせ、回転上昇とともに迫力が増す。MTなら、V8エンジンをダイレクトに堪能できる。

筆者の印象の限り、パワーで勝るダークホースではなく、GTで充分。MTには拘りたい。そうすれば、素晴らしい時間が待っている。

フォード・マスタング GT(英国仕様)
フォードマスタング GT(英国仕様)

標準のダンパーは、減衰力が若干弱めといえる。今回の試乗車に組まれていた磁性流体を用いたアダプティブダンパーは、GTでは1750ポンド(約34万円)のオプション。コンフォート・モードでも硬く、板ゴムを敷いたような乗り心地といえた。

アダプティブダンパーを引き締めると、公道では明らかにハード。ただし、鋭い隆起部分などを通過すると、ボディの動きに若干のゆるさも感じられる。

高速道路での安定性は優秀。滑らかな路面での長距離クルージングは、得意といっていい。7.0km/Lちょっとの燃費に、お財布が耐えることができれば、だが。

洗練性は不足気味でも、エンターテインメント性は出色。見事なサウンドとパワー感、フロントエンジン・リアドライブのバランスで、最高に面白い運転体験を謳歌できる。

試乗日は、路面が軽く濡れていた。446psのFRと聞くと、神経質な挙動を想像しそうだが、シャシーの能力は高い。テールスライドの角度は、右足の角度次第。6速MTを操りつつ、必要なだけのドリフトを誘えた。

お買い得な本物のマッスルカー

インテリアは、ダークホースと大差はない様子。着座位置は低く、運転姿勢は快適。タッチモニターが備わり、実際に押せるハードスイッチは少ないかもしれないが、装備は充実していて居心地が良い。デザインは、先代の方が優れているとしても。

試乗車のシートは標準のままだったが、座り心地はイマイチ。クッションが薄く柔らかく、硬いフレーム部分を感じてしまう。背もたれの形状も、筆者にはしっくり来なかった。2000ポンド(約39万円)の、レカロシートをオプションで選びたい。

フォード・マスタング GT(英国仕様)
フォード・マスタング GT(英国仕様)

最新のマスタングでも、弱点はある。10万ポンド(約1950万円)以下の予算で買える、最も洗練されたスポーツカーだとはいえないだろう。しかし、アイデンティティは明確。本物のアメリカン・マッスルカーだ。

ステアリングの感触や、乗り心地ばかり気にしていると、魅力を見逃してしまう。V8エンジンと6速マニュアル、筋肉質なスタイリングを思い切り楽しみたい。真面目なスポーツカーも悪くないが、今だからこそ、面白いスポーツカーにも強く惹かれる。

英国価格は、オプション抜きで5万5725ポンド(約1087万円)から。4気筒の718ケイマンや、6気筒のBMW M240iとほぼ変わらない。お買い得だと感じてしまうのは、筆者だけではないだろう。

フォード・マスタング GT(英国仕様)のスペック

英国価格:5万5725ポンド(約1087万円)
全長:4810mm
全幅:1916mm
全高:1394mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:5.3秒
燃費:8.3km/L
CO2排出量:274g/km
車両重量:1733kg
パワートレイン:V型8気筒5038cc 自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:446ps/7250rpm
最大トルク:54.9kg-m/5100rpm
ギアボックス:6速マニュアル(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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