アスファルトへ吸い付く低さ EJS-クライマックス(2) 1950年代のロータスへ劣らぬ仕上がり

公開 : 2025.04.19 20:45

チャップマンを師として仰いだスナッシャー チューブラー・シャシーは僅か22kg 路面へ吸い付くように低いボディにコベントリー・クライマックス・エンジン 英国編集部がレアな1台をご紹介

アスファルトへ吸い付くように低いボディ

エドウィン・ジョセフ・スナッシャー氏が作ったワンオフのスポーツレーサー、EJS-クライマックスが目前にある。歩み寄ると、そのコンパクトさへ驚かずにいられない。

サイズ的には、1950年代のロータスMk VIIIへ近い。しかしテールフィンがないぶん、一層小さく見える。

EJS-クライマックス(1956年/ワンオフ・モデル)
EJS-クライマックス(1956年/ワンオフ・モデル)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

アスファルトへ吸い付くように低いミストラル・ボディへ、スナッシャーは独自のディティールを与えた。ヘッドライトは、フロントフェンダー上へ据えられるのが一般的だったが、彼はそもそも装備しなかった。両サイドに、小さなマーカーランプが灯る。

サイドのエアアウトレットは、ミストラル本来のデザインだが、穴は開けられなかった。ウエストラインのストライプは、彼がペイントしたもの。ノーズのエアインテーク内に備わるヘッドライトと、ロールオーバーバーは、最近になって追加されたものだ。

長年放置された結果、エンジンは過熱しやすい状態とのこと。フロントのエアインテークは小さく、エンジンルームはほぼ密閉状態。冷却系が完璧な状態にない場合は、水温は簡単に上昇してしまう。

筆者が全力を発揮させられた時間は、あいにく限られた。操縦系は、レーシングカーらしくダイレクトで容赦ない。だが同時に、攻め込んでも不安を感じさせる要素はほぼない。

レーシングカー的な気まぐれさはない

バケットシートはタイトで、クラッチペダルは極めて重い。エンジンは即座に反応し、優しい発進を試みてもリアタイヤは軽く空転する。車重は405kgしかないが、ピットレーンの速度域ではステアリングホイールも重い。

クライマックス・エンジンは、しっかり回さないと充分なトルクを生まない。とはいえ一度走り出せば、レーシングカー的な気まぐれさはない。コーナリングはニュートラル。ボディロールは殆ど伴わない。

EJS-クライマックス(1956年/ワンオフ・モデル)
EJS-クライマックス(1956年/ワンオフ・モデル)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

充分には開発が煮詰められていない、独自設計のサスペンションだから、高負荷時の特性にはある種の癖が現れる。しかし、スナッシャーのアプローチが正しかったことは、間違いないだろう。

EJS-クライマックスの走行距離は、800km程度だと推定されている。もっと走り込まれ、開発へ時間が割かれていれば、更なる修正は可能だったように筆者は感じる。

ブランズハッチ・サーキットのイベントで、どの程度のクラッシュに至ったのかは明らかではない。怪我は軽微なものだったとしても、恐怖は相当に大きかったのだろう。

彼は、優れたスポーツレーサーの創出に挑んだが、抜きん出たドライバーを目指したわけではない。ル・マン24時間レースの優勝経験を持つルイ・ロジエ氏が、1956年11月にスポーツカー・イベントで命を落としたことも、判断へ関係したように想像できる。

記事に関わった人々

  • チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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