パン屋の悪夢が現実に? 「ウォレスとグルミット」のオースチンA35(2) ミニカーが参考のレプリカ
公開 : 2025.06.07 17:50
オースチンA35が名脇役で登場する「ウォレスとグルミット」 格好良くないからカッコイイ 最新作はワイルド・スピードが参考? クリエイターの逸話とともにUK編集部がレプリカのバンをご紹介
1週間で1分間の映像にしかならない
発明家とその愛犬が登場するコマ撮りアニメ、「ウォレスとグルミット」。2024年には最新作、「ヴェンジェンス・モスト・ファウル」が発表されている。そのクリエイターが、ニック・パーク氏だ。
コマ撮りアニメの制作には、悪夢と思えるほど時間がかかる。1秒のシーンは25コマで構成され、クレイ(粘土)モデルなどを僅かに動かしながら1コマづつ撮影し、アニメーションにしていく。主人公のウォレスとグルミットも、もちろん粘土でできている。

ウォレスの愛車、オースチンA35は粘土で型が作られ、プラスチックで仕上げられた。屋外のシーンでは、全長約300mmのモデルを、屋内のシーンではひと回り大きいモデルを使うという。たとえ好調でも、1週間で1分間の映像にしかならないとか。
「フロントガラスは取り外せて、アニメーターが(中に乗る)ウォレスとグルミットの姿勢を変えられるんです」。と話すパーク。走行中の臨場感を出すため、ボディの傾きは重要。車高は、前後左右4本のネジで別々に調整できるらしい。
本物からサンプリングされたサウンド
走行時のサウンドは、本物からサンプリングされている。「サウンドデザイナーのエイドリアン・ローズさんが、エンジン音を録音しています。クルマ好きが見ることも知っていますから。細かいところへ敏感ですよね」
「ウォレスとグルミット」のおかげで、世界最大のA35のサウンド・コレクションを有するとローズは自負する。「複数のクラシックカーを持つ友人の協力で、A30の録音から始めました。サスペンションのきしみ音を拾うため、ボディを揺すったりしてね」

しかし、A30に載る803cc 4気筒エンジンの音は、あまり印象的なものではなかった。そこで友人に頼み、後の作品では948ccのA35でも録音させてもらったという。2005年の「野菜畑で大ピンチ!」以降、サウンドのライブラリは増え続けていると笑う。
「正直にお話すると、最新作では1966年式オースチン・ヒーレー3000のエンジン音を重ねています。迫力を増すために」。1995年の「危機一髪!」に登場するトラックでは、第二次大戦に作られたベッドフォード社製のトラックの音が用いられたらしい。
サビだらけだったA35をレプリカに
2008年の「ア・マター・オブ・ローフ・アンド・デス(ベーカリー街の悪夢)」に登場するA35は、ブレッドバン仕様。トップ・バンという名のパン屋で、配送に用いられている役回りだ。市街地を高速で駆け巡る様子は、なんとも小気味いい。
今回ご登場願ったのは、ウィルトシャー州のアトウェル・ウィルソン自動車博物館が有する、1963年式オースチンA35。「ベーカリー街の悪夢」に登場する車両のレプリカで、運用する小児病院の慈善団体、ザ・グランド・アピールを通じてお借りした。

木工の教師だったマイク・プランカード氏が約1年をかけて製作し、2014年5月に完成している。映画のミニチュア・モデルと息子の協力だけで、サビだらけだったA35を見事に仕上げたという。
犬でも扱いやすそうなシフトレバーの前には、ラジオとトースターが一体になった、謎のデッキ。ダッシュボードには、タッチモニターなんて不要だといわんばかりに。リアには、小麦粉の袋やパンを載せる棚が組まれている。