パン屋の悪夢が現実に? 「ウォレスとグルミット」のオースチンA35(2) ミニカーが参考のレプリカ

公開 : 2025.06.07 17:50

オースチンA35が名脇役で登場する「ウォレスとグルミット」 格好良くないからカッコイイ 最新作はワイルド・スピードが参考? クリエイターの逸話とともにUK編集部がレプリカのバンをご紹介

1週間で1分間の映像にしかならない

発明家とその愛犬が登場するコマ撮りアニメ、「ウォレスとグルミット」。2024年には最新作、「ヴェンジェンス・モスト・ファウル」が発表されている。そのクリエイターが、ニック・パーク氏だ。

コマ撮りアニメの制作には、悪夢と思えるほど時間がかかる。1秒のシーンは25コマで構成され、クレイ(粘土)モデルなどを僅かに動かしながら1コマづつ撮影し、アニメーションにしていく。主人公のウォレスとグルミットも、もちろん粘土でできている。

オースチンA35 「ウォレスとグルミット」レプリカ(1963年式)
オースチンA35 「ウォレスとグルミット」レプリカ(1963年式)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

ウォレスの愛車、オースチンA35は粘土で型が作られ、プラスチックで仕上げられた。屋外のシーンでは、全長約300mmのモデルを、屋内のシーンではひと回り大きいモデルを使うという。たとえ好調でも、1週間で1分間の映像にしかならないとか。

「フロントガラスは取り外せて、アニメーターが(中に乗る)ウォレスとグルミットの姿勢を変えられるんです」。と話すパーク。走行中の臨場感を出すため、ボディの傾きは重要。車高は、前後左右4本のネジで別々に調整できるらしい。

本物からサンプリングされたサウンド

走行時のサウンドは、本物からサンプリングされている。「サウンドデザイナーのエイドリアン・ローズさんが、エンジン音を録音しています。クルマ好きが見ることも知っていますから。細かいところへ敏感ですよね」

「ウォレスとグルミット」のおかげで、世界最大のA35のサウンド・コレクションを有するとローズは自負する。「複数のクラシックカーを持つ友人の協力で、A30の録音から始めました。サスペンションのきしみ音を拾うため、ボディを揺すったりしてね」

コマ撮りアニメ 「ウォレスとグルミット:ベーカリー街の悪夢」のワンシーン
コマ撮りアニメ 「ウォレスとグルミット:ベーカリー街の悪夢」のワンシーン    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

しかし、A30に載る803cc 4気筒エンジンの音は、あまり印象的なものではなかった。そこで友人に頼み、後の作品では948ccのA35でも録音させてもらったという。2005年の「野菜畑で大ピンチ!」以降、サウンドのライブラリは増え続けていると笑う。

「正直にお話すると、最新作では1966年式オースチン・ヒーレー3000のエンジン音を重ねています。迫力を増すために」。1995年の「危機一髪!」に登場するトラックでは、第二次大戦に作られたベッドフォード社製のトラックの音が用いられたらしい。

サビだらけだったA35をレプリカに

2008年の「ア・マター・オブ・ローフ・アンド・デス(ベーカリー街の悪夢)」に登場するA35は、ブレッドバン仕様。トップ・バンという名のパン屋で、配送に用いられている役回りだ。市街地を高速で駆け巡る様子は、なんとも小気味いい。

今回ご登場願ったのは、ウィルトシャー州のアトウェル・ウィルソン自動車博物館が有する、1963年式オースチンA35。「ベーカリー街の悪夢」に登場する車両のレプリカで、運用する小児病院の慈善団体、ザ・グランド・アピールを通じてお借りした。

オースチンA35 「ウォレスとグルミット」レプリカ(1963年式)
オースチンA35 「ウォレスとグルミット」レプリカ(1963年式)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

木工の教師だったマイク・プランカード氏が約1年をかけて製作し、2014年5月に完成している。映画のミニチュア・モデルと息子の協力だけで、サビだらけだったA35を見事に仕上げたという。

犬でも扱いやすそうなシフトレバーの前には、ラジオとトースターが一体になった、謎のデッキ。ダッシュボードには、タッチモニターなんて不要だといわんばかりに。リアには、小麦粉の袋やパンを載せる棚が組まれている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ライアン・スタンデン

    Ryan Standen

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

「ウォレスとグルミット」のオースチンA35の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事