【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#9 飛んで火に入る夏の虫!

公開 : 2025.05.23 12:05

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、毎週金曜日掲載の連載です。第9回は『飛んで火に入る夏の虫』を語ります。

うわー、燃えちゃってる!

大貴族号の希望ナンバーを『男の死に(42)場所』に決めて約1週間後。私は愛車フェラーリ328GTSで首都高に出撃した。クルマの調子を保つための、2ヵ月に1回くらいの定期運行だった。

ところが、途中でクルマが燃えてしまったのである。

筆者の愛車、フェラーリ328GTS。定期運航の途中でクルマが燃えてしまった。
筆者の愛車、フェラーリ328GTS。定期運航の途中でクルマが燃えてしまった。    清水草一

11号台場線下りから湾岸線東行きに入ったところでアクセル全開。フェラーリV8をレッド寸前までブチ回すという定期点検的な走行を行い、アクセルを抜いて自然減速中、焦げ臭い匂いが漂ってきた。

我が328はヨーロッパ仕様につき、もともと多少匂うが、それにしても今日はだいぶ臭いなと思ってルームミラーを見たら、エンジンフードからだいぶ激しく煙が出ていた。

こりゃ大変だ、かなり深刻な故障だと思って油温計、油圧計、水温計を見たが異常なし。どうしようかと思ったが、数百メートル先に辰巳PAがあったので、路肩に止めるよりそこまで行っちゃうことにして滑り込み、人様にメーワクにならない場所に止めてエンジン停止。エンジンフードを開けたら火がついていた。

(うわー、燃えちゃってる!)

でも、火を消す道具がない……

32年前、初めてフェラーリを買った時、私はありとあらゆるトラブルに怯えていた。いわゆる『エンコ』(エンジン故障)をはじめとして、イタズラとか盗難とか走行中にタイヤが取れちゃうとかクルマが燃えちゃうとか、さまざまなことを心配した。

しかし実際は、最初の348tbで走行中の片バンク停止(V8→直4)が数回と、オイルポンプ駆動チェーンテンショナー崩落、あとは給油口から謎のガソリン逆噴射で漏れたガソリンが左リアタイヤにかかってスピン(於:つくばサーキット)があった程度で、いいことばかりの32年間だった。

古めのポルシェにお乗りのおふたりが、愛車に携帯していた小型消火器で火を消してくださった!
古めのポルシェにお乗りのおふたりが、愛車に携帯していた小型消火器で火を消してくださった!    清水草一

長年平穏無事な生活が続くと、人は危機感を失う。いつしか私は、「フェラーリは絶対壊れない」とナメてかかるようになり、トラブルに対する準備がほとんど何もない状態になっていた。車両火災に対する備えなんてゼロ。まぁ燃えないだろうし、フェラーリに火がついちゃったら消火器くらいじゃ消せないだろうってことで。

しかし実際には、まだ手が付けられないほどの火ではなく、毛布を被せるとかでもなんとかなりそうだった。

(でも、火を消す道具がない……)

因果応報とはこのことか。仕方なく小さいクッションや上着で火をはたくという無駄な抵抗を続けたが、そんなんじゃ火勢は弱まらなかった。

いよいよダメかと思い始めた頃、たまたま辰巳PAに居合わせた、古めのポルシェにお乗りのおふたりが、愛車に携帯していた小型消火器(消棒レスキュー)を使い、火を消してくださったのである! カーマニアの助け合いの輪に涙。火元がガソリンじゃなく、漏れたオイルで本当に良かった!

記事に関わった人々

  • 執筆

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 撮影 / 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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