至宝のレーシング・ディーノ、196S

公開 : 2017.05.14 16:00  更新 : 2017.05.29 18:52

ヨーロッパに戻ってタルガ・フローリオに参戦

5月までに0776はヨーロッパに戻り、タルガ・フローリオに向けて準備する。高速サーキットではやや分が悪いディーノだが、シシリーの山岳コースには最適と思われ、フェラーリは3台すべてのディーノをそこに送り込んだ。シャシーNo:0784はヒルとフォン・トリプスがコンビを組み、0778はスカルフィオッティ、メレス、カビアンカの3人。一方、0776をエントリーしたNARTはロドリゲス兄弟に固執した。ディーノのドライバーのなかでリカルドが最速だったからだ。ただし、序盤からのコース・アウトでメカニックたちは大忙しになるのだが……。

朝の雨と風で路肩の土が流れ出し、コース状況は予断を許さないものになっていた。ロドリゲス兄弟はトップ・グループを僅差で追走したが、4周目にノーズを損傷。遅れを取り戻そうとしていたとき、今度はリカルドが路肩を越えて坂を転がり落ち、フェンダーとウインド・シールドを壊してしまった。しかし奇跡的に観客にコースまで押し上げてもらってレースに復帰できた。完走したなかで最もみすぼらしい姿になってはいたものの、0776は総合7位、クラス2位を獲得。ウィナーはジョー・ボニエのポルシェRS60だった。ポルシェは2年連続の栄冠だが、3ℓを積む2台のディーノが2位と4位に入ったおかげで、フェラーリはなんとか面目を保つことができた。

シフトゲートの1速とリバースには、誤操作防止の金属製クリップを備える。

 

マシンを買い取り修理、そしてニュル1000kmに参戦

タルガの後、ボロボロになった0776をロドリゲス兄弟の父親が1万ドルで買い取り、さらに修復費用として6000ドルを払う契約を結ぶ。おそらくはこの金額がNARTを勇気づけたのだろう。修復作業を急がせ、5月22日のニュルブルクリンク1000kmレースに間に合わせた。深い霧に包まれるなか、リカルドが67台中の7位でレース序盤を進めたが、31周目にエンジン・トラブルでリタイア。優勝はモスとガーニーのバードケージだった。

60年のル・マンでテスタロッサを駆るリカルド。

 

リカルドの死

父ロドリゲスはディーノの成績が不本意だったのだろう。上位と戦えるもっとパワフルなマシンを求め、NARTのキネッティが所有する3ℓV12のテスタロッサ(シャシーNo:0746TR)と0776を交換した。NARTはその後もアメリカで0776を走らせ、61年のセブリング12時間に参戦するが、18位が精一杯だった。このレース後、フィールプが0776を買い取り、6月のカナダのモービル1スポーツカー・グランプリでハドソンとコンビを組んで6位の成績を残している。翌62年3月、キネッティの仲介により、0776は1万ドルでNARTのプライベート・ドライバーのトム・オブライエンに売却された。

ロブ・ウォーカーがチームドライバーのシフェールの強い勧めを受け、0776を手に入れたのは66年のことだ。これには因縁がある。プライベーターとしてF1を戦っていたウォーカーはロドリゲス兄弟に興味を持ち、フェラーリのワークス・ドライバーになった弟のリカルドと62年のメキシコGP(ノンタイトル戦)で1レースだけ契約。ところがその予選でリカルドは帰らぬ人となってしまったのだ。ウォーカーは0776を公道用に登録して「RRW1」のライセンスプレートを付け、12年間にわたって愛用した。

そして、今、完璧なレストレーション

以後、0776はコレクターの間を転々とするのだが、ケリー・マノラスの熱意のおかげで92年からヒストリックカー・レースで新たな歩みを始めることになる。マノラスはオーストラリアでは著名なコレクターで、地元のスターレーサーのスペンサー・マーチンを起用してレースに参加した。マノラスが手放した後のオーナーには、ヴィスカウント・コードレイやアンソニー・バムフォード卿などがいる。08年グッドウッドのサセックス・トロフィー・レースでは、ジャン・マルク・グーノンが熱いバトルを演じて4位入賞を果たした。完璧なレストアを終えた0776は今、アメリカに戻ろうとしている。この価値あるマシンが彼の地で再びヒストリックカー・レースに登場することがあれば、われわれはまたその勇姿を目にすることができるだろう。

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フェラーリ・ディーノ196S

生産期間 1959年
生産台数 3台
車体構造 チューブラー・スティール・フレーム
エンジン形式 V6 DOHC 1983cc + トリプル・ウェーバー42DCNキャブレター
エンジン配置 フロント縦置き
駆動方式 後輪駆動
最高出力 195ps/7200rpm
ギアボックス 4段M/T
ホイールベース 2220mm
サスペンション (前)ダブル・ウィッシュボーン + コイル(後)ライブアクスル + コイル
ステアリング ウォーム&セクター
ブレーキ ドラム
最高速度 250m/h
現在中古車価格 10億円

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