意図したエンジニアの「広告塔化」なぜ? 自動車メーカーの狙いとは

公開 : 2018.03.21 18:10  更新 : 2021.03.05 21:36

1930年に一例も いわば「大使」

彼らのようなギークが認知されるようになったのは、われわれが発掘して讃えたからではない。メーカーの代表として脚光を浴びるべく、メーカー自身によってまつり上げられたのだ。もはや単なる技術者ではなく、いわばメーカーの大使だ。

ネット記事、ソーシャルメディアやYouTubeなどを介した自動車メディアでの露出が増えるにつれ、彼らの顔や声はかつてなく知れわたることになる。自動車技師の絶対数は限られるので、ふつうとちがった意味で「セレブ化」したのだ。

こういった現象はとくに新しいものではない。メーカー勤務の自動車技師としてはじめて卓越した名声を得たのはおそらく、1930年代から50年代にわたってメルセデスのレースカーや高性能ロードカーを監督したルドルフ・ウーレンハウトだろう。余談だが、彼はGPカーの開発テスト走行でファン・マヌエル・ファンジオのタイムを上回ったことすらあったという。

ウーレンハウト以降も、ランボルギーニにヴァレンティーノ・バルボーニ、フェラーリにはダリオ・ベヌッツィが現れたが、彼らが有名になったのはむしろテストドライバーとしてだといえよう。

なぜメーカーは第一線の技術者を会社の顔にすえようとするのだろうか?

技術者を会社の顔にすえるワケ

「いま注目を集めているからですよ」と語ってくれたのはサイモン・スプロール氏。アストン マーティンの広報責任者だ。「すでに信用と定評のそなわったひともいますし、それはメーカーにとってとても価値があります。まして、アストン マーティンのようなハイパフォーマンスカーを造る会社にとっては、きわめて重要なことです」

ベッカー自身と彼の鉄壁の信頼をメディアや自身の広報資料でPRすれば、アストンのクルマが見た目とおなじく中身もすばらしいことを知らしめることができるというわけだ。

スプロールは続ける。「たとえば、ヴァルキリー計画はどうでしょう? いまお話ししたアイデアをとことん突きつめた一例です。エイドリアン・ニューウェイが設計し、マット・ベイカーと新しく招いたクリス・グッドウィンがテストドライブします。その上さらに、レッドブル・レーシングのダニエル・リチャルドとマックス・フェルスタッペンもテストに加わります。彼らはみな、とても評判の高いひとびとです」

そういうことなら、自動車技師に与えられた名声は、単に広告合戦に加わった新しい武器にすぎないではないか。

世間の名声なんてどうでもいい。彼らはただ誰よりもオタクで一途なエンスージァストなのだ。それ以上のほめ言葉がどこにあるのか。

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