マクラーレンF1 vs マクラーレン720S 比較試乗 伝説はいまも

公開 : 2019.06.08 11:50

蘇る記憶 驚異の加速

センター配置のドライバーズシートから見える景色は素晴らしく、実際、その視界の良さは驚異的で、マクラーレンの現行モデルが優れた視界を確保しているのも、このクルマの存在があったからこそだと言えるだろう。この視界の良さによって、自信をもってF1のステアリングを握ることができるのであり、ボディの各コーナーが掴みやすいというのも、決して誇張ではない。

目覚めたばかりのV12エンジンは、静かで、洗練された様子を見せ、アイドリングも驚くほどスムースで、確かに鼓動感はあるものの、少なくともいまのところは、それもまるでピアノの囁きのようだ。そして、ギアを1速に入れ、重いが動きの滑らかなクラッチを操作すれば、マクラーレンF1をようやく動かす準備が整ったことになる。

突然すべてを思い出した。細かな記憶の数々が甦ったことで、このクルマを上手くドライビングするには、ふたたび丸一日が必要だと思われたが、ナルディ製ステアリングの滑らかな操舵感は、すっかり手に馴染んでおり、各操作の重みや、サウンドといったものも同様だった。

3速ギアで加速を続けていると、回転の上昇とともに、BMWが誇るいまは亡き偉大なるポール・ロッシュが手掛けたエンジンが発する見事なサウンドも高まっていく。さらにチタニウム製ペダルを踏む右足に力を込め、エンジン回転数が3000rpmを越えると、F1はいよいよそのスピードを増していく。


顔をのけぞらせるような加速ではないことに、ややガッカリしたものの、われわれは、思いのままの加速が可能なツインターボの時代に生きていることを忘れてはいけない。このクルマが誕生した25年前とは、何もかもが違っているのだ。

そして、F1は、これまでどんなクルマからも聞いたことのない咆哮を上げながら、さらに加速を続ける。ピークトルクが発生するのは4000rpmだが、それ以上はドライバーの勇気次第であり、そこにはつねに狂気がつきまとう。

約5年前、ポルシェ918やラ・フェラーリ、マクラーレンP1といった「ハイパーカー」と呼ばれるモデルが登場するまで、これほどのパフォーマンスを見せるロードゴーイングカーは、F1が最後であり、つまり、このクルマは、20年近くもこうしたパフォーマンスカーブを先取りしていたのだ。

なぜ、このクルマがこれほどまでにドライバーを夢中にさせるのかを思い出した。それは、単にその加速力だけでなく、その加速に伴うサウンドにあり、思わず息を飲むほど素晴らしい。

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