車輪が3本付いたフレームに原始的なエンジン 3輪自動車レースに参戦 後編

公開 : 2019.09.15 16:50  更新 : 2020.12.08 10:56

120年以上前に製造された、博物館に収まっていそうな3輪自動車によるレースを復活させた人物がいます。彼から招待状をもらった英国編集部は、怪我のリスクをおして、果敢にも参戦し完走を果たしました。その様子を覗いてみましょう。

8kmの距離のレースでも耐久戦

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

初開催となるド・ディオン・ブートン・グランプリだが、出場するライダーの目は最終ラウンドということで真剣さも増している。だがトライクの数はこれまでの2戦を経て、5台に減っている。スタートは調子よく、思いっきりペダルを漕いでエンジンはすぐ目覚めた。1周目はあっという間に過ぎたが、2周目でペレットの調整が完璧ではないことがわかる。コーナー途中でエンストするが、ペダルを必死で回してエンジンの息を吹き返す。

身体を傾けてコーナーを抜けるが、小さなトライクはインフィールドで追い越され、順位が落ちていく。取材と出場経験を作る目的という考えは消え、ストレートでは空気抵抗を減らすために身体を倒し、フレームに押し付ける。先頭を走るトライクが滑るように過ぎるのを二度見する。ポンポンという排気音が止まっているように聞こえた。

総長でもわずか8kmという距離を走るレースだが、ド・ディオン・ブートン・グランプリはスプリントレースではなく、耐久戦。完走するということは、優勝したくらいの大きな達成感がある。20周ほど過ぎたところで、機械的な故障がマシンを襲った。ファイナルラップのベルが鳴り、最後のアタックをかける。バンクコーナーの頂上から前回で降り、インフィールドのヘアピン目がけて突っ走る。チェッカーフラッグが目に入り、猛烈にペダリングしてスピードを稼ぐ。

われわれ英国編集部のチームは、見事に不可能だと思っていた完走を果たせたのだ。フラッグを受けると安堵を感じるも、すぐに高揚感に入れ替わった。しかもビリではなかった。砂埃が落ち着いた頃には、ビリから2番めの順位だと知り、さらに嬉しくなった。

それでは、出場したトライクたちを、オーナーのコメントとともに見てみよう。

1898年式「ロシェ」 オーナー:ロバート・ラスク

アメリカ・マサチューセッツ州出身のラスクは、モーターサイクル・レーサーのジョン・ロードスとペアを組み、1989年式ロシェでこのトライサイクル・レースへ出場。8kmのレースで見事優勝している。「ここ15年から20年くらい、ビンテージカーに関わっています。当時の設計や技術、マシンに対する姿勢や、走らせた時の興奮がとても好きなんです。多くのひとはフォードのことを話しますが、ド・ディオン製のエンジンも特別です」

このペアは年代物のトライクで、競争心溢れるレース展開をグリッドへと持ち込んだ。「根っからのレーサーなので、スタートしたら、全力で走るのみです。 マチレスG50やAJS 350、TD1C、初期のヤマハ製2ストロークなどでレースに参戦しています。ロシェに乗って、ロンドンから英国南岸のブライトンまで、ベテラン・カー・ランのイベントも走りました。クラッチがないので、交通の流れに乗って走るのは一苦労。コースの路面はフラットとはいい難い状態で、悲惨でした。」 ラスクは笑って話す。

1898年式「ロシェ」 オーナー:ロバート・ラスク
1898年式「ロシェ」 オーナー:ロバート・ラスク

「ロシェはド・ディオンとはだいぶ違います。フロントタイヤ側に前傾させることでハンドリングは大きく改善しました。トライクはひとくくりに見えるかもしれませんが、それぞれ微妙な違いがあるんです」 と続けるラスク。

彼の傾倒的な趣味はクラシックカーにも及んでいる。1912年式のビュイックや、1931年のモーリス・イシスなど貴重なクルマも所有しているそうだ。「1939年製シボレーもオーバーヘッド・カムの大排気量エンジンを積んだ素晴らしいクルマです。またクライブ・シンクレア製の小型電動自転車も購入したのですが、こちらにも夢中です」

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