お手頃ドライバーズカー選手権2019(1) フォーカスSTとアバルト595、ミニJCW

公開 : 2019.09.21 07:50  更新 : 2021.03.05 21:37

高評価ながら勝ち残れないフォーカスST

お手頃ベスト・ドライバーズカー選手権「BBADC」は、パズルのように複雑だ。英国南部の美しいウェールズ・ロンザの広大な丘陵地帯を走るオレンジ色のフォード・フォーカスRSは、広大な景色を描いたパズルの1ピースに見える。工場から出荷されたばかりの出来たてホヤホヤだから、まずは欠くことのできない1台となる。

わたし、リチャード・レーンがテスト場所となるウェールズまで、ロンドン南西部からフォーカスRSを運転してきたのだが、他のクルマをお勧めする必要はないと感じるほどに良かった。先代のフォーカスRSから排気量が増え、2.3Lの4気筒エンジンからは280psを発生し、ターボラグが少なくなっているだけでなく、現代的な足の速いフォードに乗っている、という感覚が明確に濃い。

フォード・フォーカスSTパフォーマンス・パックとマツダMX−5ロードスター 2.0 SE-Lナビ
フォード・フォーカスSTパフォーマンス・パックとマツダMX−5ロードスター 2.0 SE-Lナビ

サイドサポートの立ったレカロシートに、髪の毛が逆立つほどのステアリング・レスポンス、大音量のエグゾーストノート。新しいフォーカスSTには電子制御されるリミテッド・スリップデフが搭載され、最大で50%のトルクを前輪のどちらからのミシュラン・パイロットスポーツ4Sへ伝えることも可能。

ワインディングへ向かう途中のランナバウト(ロータリー交差点)でも、明確に電子制御による支援を感じ取ることができる。まるでル・マン24時間レースを制するために生まれたフォードGTのように。ワインディングを実際に走らせると、審査員からは「フィードバック」「運転の楽しさ」「やんちゃ」といいた、高評価のコメントが上がった。フォーカスはわれわれも好きなクルマだが、過去にこのBBADCでグランプリを取ったことがないだけでなく、最終選考の3台にも選ばれたことがないことが不思議だ。

ドライビングは最高でも厳しいアバルト595

続いてイタズラ心をくすぐってくれたのは、リフレッシュしたアバルト595コンペティツィオーネ。ナス色のボディカラーに取り付けられた専用のエグゾーストシステムが生むサウンドは、179psの1.4L 4気筒エンジンではなく、まるでマセラティのV8エンジンのように勇ましい。嫌いにはなれないが、愛すべきほどでもない。

アルカンターラ仕上げのサベルト製バケットシートに、コニ製のFSDダンパー、ブレンボ製のブレーキが組み込まれていても、評価は高まらない。「クルマ全体がまとまっておらず、真剣に購入を検討するのは難しい」 と話すのはマット・ソーンダース。

アバルト595コンペティツィオーネとマツダMX−5ロードスター 2.0 SE-Lナビ
アバルト595コンペティツィオーネとマツダMX−5ロードスター 2.0 SE-Lナビ

翌日スランドウ・サーキットに持ち込んでも、「元気いっぱいですが、不思議なほどに奥行きが感じられません。でも、望んだ通りに速くは走ります」 とコメントしたが、これは共通の見解。乗り心地はせわしなく、ドライビングポジションはスポーツカーというよりも、観光バス。トドメが、今回のラインナップの中で最も安価なのは良いが、昨年のBBADC優勝モデル、フォード・フィエスタSTほど実用的ではないのだ。

わたしはアバルト595に対してそれほど批判的ではないが、ダイレクト感に欠けるステアリングや、良いとはいえないペダルレイアウトはいかんともし難い。スタビリティコントロールをオフにできないのだが、ピレリPゼロタイヤのグリップ力が高く、トレッド幅が狭く、ホイールベースが短いため、スピンモードに入りやすいためだろう。だが、それでも走る楽しさは残っている。

気づかないような起伏でもダンパーは大きな衝撃を伝えるから、揺れに構えることも難しい。だがサーキットのタイトコーナーでは、ブレーキを引きずりながらもノーズの向きを調整しやすく、リミテッドスリップデフのおかげで加速時のトラクションも強力。とても速いものの気になる点も大きく、サイモン・デイビスは「小さいながらドライビングの体験は最高」 とまとめている。

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