【ディフェンダーとレンジの2役】ランドローバーを救ったディスカバリー 前編

公開 : 2020.03.14 07:50  更新 : 2021.02.02 12:38

誕生から30年。最高位へ上り詰めたレンジローバーに対し、走破性重視の初代ディスカバリーは、クラシックなランドローバーを味わえる1台です。窮地のランドローバー社を救った、いまのSUV人気にも通じる1台を見ていきましょう。

ランクルやパジェロに押されたランドローバー

text:Jack Phillips(ジャック・フィリップス)
photo:Land Rover UK(英国ランドローバー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
1980年代までの英国の田舎で暮らす人にとって、ガレージに納める2台を選ぶのに悩む必要はなかった。1台目はランドローバー・シリーズ、いわゆるディフェンダー

ショートホイールベースの90か、ロングホイールベースの110のどちらか。きつい仕事もしっかりこなしてくれる、心強いクルマだ。

ランドローバー・ディスカバリー(シリーズ1)
ランドローバー・ディスカバリー(シリーズ1)

もう1台は、ランドローバー・レンジローバー。こちらは市街地に繰り出す時に乗るクルマ。高速道路にたどり着く前に、田舎道で出くわす厄介な路面でも、難なく走破できる機動力を備えているという点が重要だった。

高速道路に乗れば、エアコンを効かせ、レザーに覆われた車内で快適に移動するだけ。もちろん、ランドローバーのかわりとして、快適な実用的な道具として扱うこともできる。

世界が大きく変化していた1980年代末。ランドローバー社は2車種だけで自社を維持し、成長させることが難しくなっていた。親会社のブリティッシュ・レイランド社はローバー・グループへと変わり、経営難を乗り切ろうと画策していた。

1990年代が始まる直前には、ランドローバーの年間5万台あった生産台数は4万台へと減少。ランドローバー創業時から生産拠点となっていたソリハル工場の活気は薄れ、日本からはトヨタランドクルーザー三菱ショウグン(日本名:パジェロ)といったライバルモデルの輸入が盛んになった。

過酷な労働と上品なお仕事をこなす

英国人が日本の美味しさに目覚める中、ディフェンダーの人気は下降。一方でレンジローバーの生産台数は、量としては多くなかったものの倍増。SUV市場は変化しつつあった。

そこで2台を掛け合わされて誕生するのが、ランドローバー・ディスカバリー。ディフェンダーとレンジローバーの得意分野を、同時にこなすことが目指された。過酷な労働と、上品なお仕事。

ランドローバー・ディスカバリー(シリーズ1)
ランドローバー・ディスカバリー(シリーズ1)

一方で、傾いていた親会社のブリティッシュ・レイランド社の首を、絞める可能性もあった。それぞれ個性の違う2台の特徴を兼ね備えるということは、これまでのクルマの価値を低めてしまうことも考えられた。

いままで2台が必要だった別々の目的を1台でこなせるのなら、2台を持つ理由すらなくなる。ところが実際は、ディスカバリーはランドローバー社にこれまでにないほどの生産台数を求めた。

ディスカバリーは、夢の年間10万台を突破。ディフェンダーが40年を掛けて達成した生産台数を、わずかな期間で塗り替えたのだった。

豪華なランドローバーという考えは、新しいものではなかった。1971年、ランドローバー・シリーズ3からユーザーはエアヒーターを追加できたし、初代のシリーズ1でも、ティックフォード・ステーション・ワゴンには巻き上げ式の窓がオプションで選べた。

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