【アフリカを縦断したランチア・ベータ】酒場の与太話が生んだ大冒険 前編

2020.06.27

学費のために売却された赤いクーペ

そもそもランチア・ベータは、彼の父がほぼ新車の状態で購入したクルマだった。一度、フェリックスの学費を作るために売却されてしまうが、フェリックスは学生ながらにそのベータを買い戻した。サハラ砂漠へ挑む10年ほど前のことだ。

「母を喜ばせたいと思い、父はベータを買って帰ったそうです」 ドイツ南西部、シュテーゲンの街にスタイリッシュなクーペがやって来た時、フェリックスは12歳だった。

1975年式ランチア・ベータでのアフリカ縦断の様子
1975年式ランチア・ベータでのアフリカ縦断の様子

「1年落ちのベータで、真っ赤に輝くボディでした。見た誰もが、感銘したと思います」 だが母は、さほどクルマには乗らなかった。

「母がクルマを運転するのは、日用品の買い物程度。とても実用性に欠けるクルマだと、気づいていました。買い物先から家は500mほどしか離れていなかったので、すぐに乗らなくなりました」

数年後、ベータはフェリックスのエンジニアとしての夢を叶えるため、売られてしまった。だがフェリックスは喜んではいなかった。「ランチアに乗りたいと思っていましたが、父は学生が乗るクルマではないと、話していました」

「わたしは学生をドロップ・アウトし、当時の若者らしく自由に暮らしました。仕事を見つけ、貯金をして、ベータを買い戻したんです」 フェリックスの気持ちは強かった。もちろん、こんな決断は家族の誰をも喜ばせなかった。

「父は、エンジニアを目指すべきで、イタリア製のスポーツカーを買うべきではなかった、と話していましたね」 フェリックスの父は、ベータを維持するお金は工面できないと考えていた。だが彼は、独創的な方法で資金を調達するアイデアをひらめく。

 

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