【高齢タクシードライバー事故で現実味】運転中に意識失う「デッドマン」事故、防げる? 企業の取り組み

公開 : 2021.01.08 05:45

年始に都内で発生した、痛ましい交通事故。高齢タクシードライバーが走行中に意識を失い……。いわゆるデッドマン状態の事故を減らす技術はあるか?

他人事では済まされぬ「デッドマン」

text:Kenji Momota(桃田健史)
editor:Taro Ueno(上野太朗)

「デッドマン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

直訳すると「死人」。自動車業界で使うデッドマンとは、車内で走行中に運転者が死亡、または意識不明になるなど、運転を継続できない状態を指す言葉として使われる。

スバルでは「ドライバー異常時対応システム」と呼ぶデッドマン装置がある。ナビゲーション画面上の専用カメラがドライバーを監視する。
スバルでは「ドライバー異常時対応システム」と呼ぶデッドマン装置がある。ナビゲーション画面上の専用カメラがドライバーを監視する。    スバル

つまり「デッドマンに近い状態」という解釈であり、仮にそうなってしまった場合に対応するため、さまざまな仕組みについて研究開発が進み、一部はすでに量産化されている。

個人的には、デッドマンという呼称は倫理的に好ましいかどうか疑問が残るが、本稿では自動車産業界での一般的な表現として使用する。

直近では2021年1月4日夜、渋谷区で

技術面について紹介する前に、残念ながら発生してしまったデッドマン状態による交通事故の実例を見る。

直近では、2021年1月4日夜、東京都渋谷区笹塚の甲州街道で起きた、タクシーによる死傷事故が記憶に新しいと思う。

タクシーは車道側が赤信号の状態で、横断歩道を渡っていた歩行者数人をはね、49歳の女性が死亡。そのほか5人が重軽傷を負った事故だ。

事故後の警察の調べを基にした報道によると、73歳のタクシー運転手が事故発生時に、くも膜下出血を起こしていた疑いがあった。ドライブレコーダーではうつむいた状態だったという。

まさに、デッドマン状態での事故である。

こうした事故を防ぐことはできるのだろうか?

議論が盛んになったのは2010年代〜

デッドマンの議論が自動車業界で盛んになったのは2010年代に入ってからだ。

米運輸省や米自動車技術会が中心となり、自動運転の量産化に関し産官学での協議が本格化した。

そうした議論の場を筆者は定常的に取材してきたが、自動運転の意義として、デッドマン対策を挙げる有識者や自動車メーカー関係者は、当初から多かった。

2010年代以前からも、デッドマン対策の研究開発がおこなわれてきたが、2010年代に入り、実用化の目途が立つようになった。

背景にあるのは、車載センサーとして車外の状況を把握する、車載カメラ・ミリ波レーダーなどのハードウエアの技術革新が進み、搭載車両が増えることでの量産効果により、コスト削減が進んだことが挙げられる。

また、車載カメラから得た情報による画像認識技術が半導体技術の発達と同調した。

企業としては、イスラエルのベンチャー企業「モービルアイ」、ドイツ大手部品メーカー「ボッシュ」や「コンチネンタル」、さらに日本ではスバルにアイサイトを提供していた「日立オートモーティブシステムズ(当時)」やトヨタ系の「デンソー」などがある。

画像認識技術では、いわゆるAI(人工知能)の分野も深く関係する。

こうした技術は、車外にくわえて車内モニタリングにも活用されるようになり、車外と車内の装置が連携することが可能になってきた。

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