【モダン2+2フェラーリの幕開け】フェラーリ612スカリエッティ V型12気筒のFR 後編

公開 : 2021.01.24 18:25  更新 : 2021.08.05 08:06

新たな4シーター・フェラーリの幕開けを飾った、612スカリエッティ。新しいV型12気筒と新設計のアーキテクチャを採用。スタイリングは日本人デザイナーの奥山清行で、現代的なグランドツアラーとして高い完成度を得ていました。

優雅で熟成されたデザインに極上のV12

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
フェラーリ612スカリエッティは、リアとフロントのオーバーハングが短いものの、先代に当たる456Mより全長は139mmも長い。最高出力は100psほど強力だが、スタイリングは不必要に注目を集めることはないはず。警察の目も。

これ見よがしな筋肉質ではなく、シンプルでクリーンな面構成のボディ。現代のフェラーリより、はるかに優雅で熟成されたデザインだ。

フェラーリ612スカリエッティ(2004〜2011年)
フェラーリ612スカリエッティ(2004〜2011年)

すべてのガラスには小さくフェラーリのロゴが入り、丁寧に仕立てられたレザー製のフォルダーにハンドブックが収められている。ブランドイメージを、積極的にコントロールしていることを物語っている。

極上のV12エンジンの存在感も素晴らしい。ミドシップのフェラーリより、整備作業は簡単だと話すカニンガム。エンジンルームを覆う、プラスティック製のカバーもない。

長いドアは、特別な設計が施されたヒンジを備え、大きく開く。豪奢な車内への乗り降りは、思いのほか簡単。職人の手で縫製されたレザーシートは、6ウェイの電動。巨大なグラスルーフで、広々と感じられる。

クリーム色のレザーに、サテン仕上げのアルミニウムが華を添え、中に居るだけで気持ちが高揚する。プラスティック製パーツの表面は、この時期特有のネバネバが一部で発生しているのが残念。

リムの太いステアリングホイールのデザインは、少しプレイステーション的。赤の丸いボタンがエンジンスタートで、反対側にスポーツ、コンフォート、トラック・モードを切り替える赤いマネッティーノ・スイッチが付いている。

余裕あるリアシートに素早い6速セミAT

荷室は広々。ピニンファリーナがデザインした専用のラゲッジセットは、2500ポンドのオプションだった。リアシートは、+2以上に余裕がある。でも体格のいい大人は、長時間快適には過ごせないだろう。

デュアルゾーンのエアコンもよく効く。ボーズ製のサウンドシステムは、今でも音質に優れているようだ。この612スカリエッティにはバックカメラとパーキングセンサーも備わっている。後ろ側にも、自信を持って進める。

フェラーリ612スカリエッティ(2004〜2011年)
フェラーリ612スカリエッティ(2004〜2011年)

今回はせっかくだから、前に走りたい。冬の寒さで、5748ccのV型12気筒は始動後20秒ほど、アイドリングが高かった。ファンの動作を確認するように、しばらくして穏やかな回転数に落ち着く。

センターコンソールの「オート」ボタンを押すか、ステアリングコラムに固定されたシフトパドルを弾けば、612スカリエッティは進み始める。筆者は、滑らかな振る舞いと操作性から、シフトパドルでの変速を好む。

セミATの動作は迅速で、6速MTを人が操るより短時間でシフトアップもシフトダウンもこなす。クラッチペダルを踏む力を調節したり、ミスシフトをする心配もない。でも、古風に回転数を調整しながらシフトダウンする喜びは、忘れられないものだ。

612スカリエッティの登場以降、セミATの水準は一気に高くなった。もうMTが載ることはないのでは、と思わせるのに充分なほど。このロボタイズド・マニュアルは、当時実現できた最高の妥協点だったといえる。

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