BMW i3 レンジ・エクステンダー

公開 : 2014.02.11 23:00  更新 : 2017.05.29 17:59

イントロダクション

なかなか盛り上がりを見せない電気自動車というものの行く末に一時は不安を覚えたものだ。しかし、ここに来てそのマーケットがかつてない急成長を迎えている。

EVの存在はもはや無視することができないものとなった。専門家も以前からEVの登録台数が世界で100万台に達する日が来ると予想している。

それには10年を要すると言う人もいるし、すぐにでも達成すると言う人もいる。中にはクルマが10台売れれば、その内1台はプラグイン・モデルになると言う人さえいるほどだ。

2013には期待のモデル3台が続けて発表されたが、そこには躍進を後押しするものが示されていた。ルノー・ゾエはEVが手ごろな価格になることを示したし、テスラモデルSはEVがサルーンになることを、ポルシェ918スパイダーはスーパーカーにさえなることを証明してみせた。新しいモデルが1台発表されるごとに、まるでEVの世界が大きく前進していくようなのだ。

そしてここにまた1台新たなEVが登場する。その名はi3、BMWが送り出すバッテリーを駆動力に使うラインナップの第1弾である。この電気自動車は、自由と創造性が盛り込まれたBMW渾身のモデルで、その上にヨーロッパのプレミアム・ブランドとしての味付けがなされている。

i3とハイブリッド・モデルi8が誕生する前は、BMWは電気自動車の大量生産に手を出さなかった。しかしこうしたモデルを生み出すことになった活動、プロジェクトiによって後のiシリーズにつながるモデルがもたらせれたのだ。

第1段階がミニEである。これはi3にかなり近いパフォーマンスと航続距離を実現したもので、2009年には試験運用が開始された。そして続く第2段階では1シリーズ・アクティブEがその役割を受け継いでいる。アクティブEの目的はi3に搭載するモーターを事前調査するというもので、2012年に1100台ものテスト車両が2年間に渡るテストを始めたのだ。

BMW i3にはこうした長期にわたる研究で培った技術が投入され、2種類のバージョンが用意されている。一つ目は電気駆動のエレクトリック・ビークルで、およそ130kmから160kmの航続が可能だ。

二つ目はBMW i3 レンジ・エクステンダーで、同じ電気駆動のパワートレインに発電機としてガソリン・エンジンが一緒に搭載される。これによりバッテリー残量が少なくなると、発電用エンジンに火が入りドライバーは走行を続けられるというのだ。

ゼロ・エミッション生活を始めるならBMW i3以外にもモデルがあると言う人もいるだろう。そういう考えがよぎった人は、是非続きを詳しく見ていただきたい。

デザイン

このクルマの発表までには、ミニEと1シリーズ・アクティブEといったプロトタイプを作る必要があった。強度、耐用年数、費用対効果の新たな基準となるカーボンファイバー・コンポジットを開発するには長期間の研究と努力が不可欠だったのだ。その間にライバルたちが高速充電可能なEVを投入していくのを、BMWはただ眺めることしかできなかったのである。しかしそれも報われるときが来た。

BMWよりも早くからEV市場に参入したメーカーはあるが、これまでに販売されたどんなものよりもi3は革新的なEVとして誕生したのだ。i3はテスラ・モデルSと同様に、全面的に新しく設計された電気自動車であり、既存のプラットフォームに手を加えただけの焼き直しとは異なるのだ。

しかしテスラとさえ異なる点がある。i3は主に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使用して作られるのだ。CFRPはコストを考慮しながらも、強度と重量の面で先進的なものになるよう精密な設計がなされた。それにより間違いなく販売価格は高くなるが、おかげでi3の動力源である22kWhリチウムイオン・バッテリーの重量分230kgを相殺することができたのだ。

軽量化の一環として、このクルマは中空ドライブシャフト、アルミ製の鍛造ホイールとサスペンション、キャビン周りには軽量素材を利用し、さらにはハニカム構造のワイパーまで採用している。

こうしたボディに装着されるホイールを詳しく見ていくと、リム幅がたった5インチ(12.7cm)で、それにリム径が19インチという5J×19サイズを採用している。これにより優れたエアロダイナミクスの実現と転がり抵抗の低減を図っているのだ。では、その結果として生じるメカニカル・グリップの不足を運転して感じるかと問われれば、恐らく感じるという程度だ。一方で取り回しは容易な設計となっており、旋回円はまったく不満のない直径9.86mに収まっている。

レンジ・エクステンダー仕様は、バッテリー切れの不安を解消するために2気筒エンジンが発電機として搭載される。このために車両重量は標準のi3よりも重い1315kgとなる。それでも昨年テストしたルノー・ゾエ・ダイナミック・インテンスより150kg軽い車重に抑えられているのだ。

インテリア

BMWと言えばキャビンの設計に定評があるが、このクルマでは大胆にインテリアの様子が変わっている。シートポジションは高く、直立気味で、座面は平たく固いものになっている。ダッシュボードは黒みを帯びた印象的なものだが、広いフロントガラスからの自然光で全体的には明るく無駄のないデザインにまとまっている。プレミアムBセグメントの他のモデルに比べても軽快で開放感があり、さわやかな印象と言える。

他のクルマとi3が異なる点として、センタートンネルがないことによる広いフットスペース以外にも、価格設定と環境性能を高次元で両立したことが挙げられる。BMWはメーターパネルを完全に排除し、その代わりにドライバーの正面に鮮明なディスプレイを配置した。メーター以外の機能も、実に6.5インチに及ぶワイド・ディスプレイに集約し、センターコンソール部に備わるお馴染みのiDriveによって操作することができる。

2台の液晶ディスプレイの後方に広がるのは、ポリウレタンのSensatec材を用いたパネルである。これは全面的にリサイクル素材を利用したもので樹脂成形したものと区別がつかないほどだ。スイッチ類のレイアウトは申し分なく、シフトセレクターも兼ねるレバーはステアリング・コラムに取り付けられている。これは操作するのが楽しみになる最新式インターフェースである。

フロント・シートより後方の出来は、おそらくそれほどでもない。i3の強固なモノコック構造により、Bピラーを取り除き、観音開きドアを採用することができた。しかしわずかに開いた隙間から脚を差し入れてもフロアまでが遠く、特別に乗降性が優れているとは言えない。同様に後部座席のスペースも特に広いわけではない。さらに悪いことに、観音開き構造は2枚のドアが閉じ合わさる仕組みなので、後席へ出入りするには先にフロント・ドアを開かなければならないのだ。

それにもかかわらずi3は、£30000(499万円)で購入できるものの中では最上級に数えられる魅力的な車内環境を提供している。

パフォーマンス

BMW i3のモーターは駆動輪であるリア・タイヤにのみ接続されるため、バッテリーだけが動力のシティ・カーにしては我々を大いに喜ばせるパワー・デリバリーを体感できるのだ。トルクはゼロ回転から最大値を発し、どんな速度域でもタイムラグを感じさせないもので、スロットルペダルを踏み込むなりi3を即座に加速していく。そしてその反応がまた非常に力強いのものなのだ。

EV仕様の0-100km加速は7.2秒と言われている。その加速はトルクの継ぎ目がなく、リア・タイヤが車体をぐんぐん前へ押し進めるのを体験できる。たとえ最高速度が”ホット”とは言えない150km/hだとしても、そこにいたるまでのパフォーマンスは”ウォーム”ハッチバックの名に恥じないものである。レンジ・エクステンダー仕様は車両重量が120kg増しになり同加速7.9秒を要してしまうが、最高速度が150km/hというのは変わりはない。

本来ならドライバーはEVのパワーを全て引き出す走りには身の縮む思いをするものだ。なぜなら右足を踏み続けるとあっという間に航続可能距離が短くなるからだ。そのうえわれわれの計測結果ではバッテリー単体での標準的な航続距離は120kmというのものだった。

しかし、i3 レンジ・エクステンダーの場合はトランクルームのフロア下にバイク用2気筒エンジンがしまい込まれている。たとえその燃料タンクがバイク用サイズであっても、それがあるという事実だけで随分気が楽になるものだ。

バッテリー残量が75%以下になるとバッテリーを維持する設定が可能になり、その時点でi3はガソリンで発電機を動かし始め、走行に必要な電力を供給するのである。

その際にバッテリーが休止中でも残量が多少減っていくのが分かる。それでもわれわれはレンジ・エクステンダーを大いに価値のある装備と見なしている。なぜならこれによりi3は単なる短距離用のシティ・カーから実用に耐えるクルマとなるからである。

知らぬ間に充電を数日間忘れていたとしよう。そうするとi3の物静かで好ましいサウンドの発電機は14.2km/ℓという燃料消費率で走行を続けさせてくれるのだ。

バッテリー駆動のみの航続距離は、われわれの計測では最長で151km、最短で109kmというものだった。バッテリーがフル充電で燃料タンクが満タンという条件では、なんらかのチャージを必要とするまでに優に240km以上を走ることになる。

乗り心地とハンドリング

i3で他のBMWと同じパフォーマンスを味わえる箇所は少なく、ハンドリングの一貫性や操舵の重さといったことくらいだ。それ以外のあらゆる点は他のBMWとはまったく異なっている。

最も異なる点は、その形状が走りに影響する部分で感じられる。高い車高、短い全長と全幅、それに小回りを重視した設計のために、本来BMWに備わっているはずの優れた安定感と剛性感が欠如しているのがかえって目立つのだ。

足まわりのセッティングは街乗りでふらつくことのないように固められている。重心はリア寄りになっていて、後輪が重量配分の57%を受け持っている。このためi3が、7シリーズというよりもミツビシiに近い走りの特性を持つのは当然なことと言える。

高速道路でスピードを上げていくとi3は少々神経質な動きをする。回頭性が高いセッティングのために、ステアリングのささいな動きに反応してしまうのだ。大げさに騒いだり批判するほどではないが、それがBMWとなると受け入れがたいものに感じられるのだ。

i3のスタビリティ・コントロール・システムは、ドライバーに解除されてしまわないよう実用的なセッティングになっている。とはいえトラクション・コントロールは、悪路で後輪をスピンさせてでもトラクションを得るつもりなら解除が可能だ。

通常の路面コンディションにおいては、ドライバーはダイナミック・スタビリティ・コントロールシステムにものを言わせて走りに専念することもできよう。なぜならi3は路面との接触面積が最小限であるにもかかわらず0.74gという賞賛すべきグリップを生み出すからだ。おかげで舗装状態の悪い路面でさえなんとかやり過ごせるほどなのだ。

高速道路では明らかに不安定になるステアリングだが、その分i3に機敏な印象を与えている。このクルマの短い車体は旋回性が極めて高いために、2.5回転というロック・トゥ・ロックの数値以上にステアリングの反応が速く感じられるのだ。

コーナーに入るとまず始めにアンダーステアが顔を出し、スタビリティ・コントロールが素早くそれを抑えこむ。路面が荒れているときはさらにパワーオーバーステア気味になるが、こちらも電子制御により速やかに食い止められる。われわれの見解では、素晴らしいシャシー性能がこうした介入になんらかの役割を果たしていると考えている。

しかしここでもBMWのトレードマークとも言える特性を思い知らされる。ステアリングは一般的なシティ・カーよりもずっしりと重く、同様にペダルとレバーの操作感も固めである。こうした特性はある種の剛性感をこのi3に与えており、さらにキャビンに備わる優れた遮音性と完成度も相まって、もはやこのクルマがやけに小さいクルマであることを強調するばかりなのだ。

舞台が市街地に変わると、十分な視界が確保されているi3は交通の間を縫うようにを走らせることができ、このクルマの持ち味が最も活かせる環境だというのが理解できる。ただ、オートマティック車のようなクリープ機能はこのクルマには備わらない。また、多くのEVと同様に、走行中にスロットル・ペダルから足を離すと、モーターが回生エネルギーを利用し発電を開始する。このためスピードの落ち方にスムーズさがなく、i3は減速の調整がしづらいとも言えるだろう。

それでもオーナーならすぐに習得できる操作感であるし、ブレーキディスクに制動力が加わるポイントは多くのライバルより上手く制御されている。

ランニング・コスト

このクルマは決して安価なものではない。補助金なしの場合、EV仕様の価格は£30000(499万円)からとなり、レンジ・エクステンダーは£34000(約546万円)という価格である。

政府の環境保護プログラムを考慮しても、一番安い仕様のi3がBMW 120d SEと同価格帯になってしまう。i3よりボディが大きい日産リーフと比べてもおよそ£5000(約80万円)も高価で、クリオと同等サイズのゾエのエントリー・グレードと比べると£10000(約160万円)以上も高いことになる。

しかしBMWはi3のことを世界初のプレミアム・エレクトリック・ビークルと呼んでいるし、その表現は十分納得のいくものである。細かなディテールや走行性能の質の高さを留意すれば、たしかにi3は他のEVとは別の領域にまで踏み込んでいるのだ。

それにもかかわらずBMWはわれわれがEVの購入において連想する欠点を排除しきれていない。リースではなく車体とともに購入するi3のバッテリーは、8年間または10万マイル(約16万キロ)という手厚い保証を用意しているが、その充電時間は英国内の一般的な電源で7、8時間を要するというのだ。

BMWの高速充電システム、BMW i ウォールボックスを自宅に取り付ければ、英国の環境では充電時間がおよそ3時間短縮できるという。一方で公共の高速充電ステーションまでわざわざ出向いても、依然として充電に30分はかかってしまうのだ。

2気筒ガソリンエンジンを搭載しないモデルでは、航続距離は160km未満というところだ。レンジ・エクステンダー仕様は、われわれの経験では航続距離が伸びるが、長距離の旅行ともなれば小さな燃料タンクを満たすためにガソリン・スタンドを次々はしごすることになるだろう。

レンジ・エクステンダー仕様の公式CO2排出量は13g/kmとなり、英国では現物給与税が5%負担のクラスに分類される。EV仕様は現在のところ免税対象だ。

結論

4つ星評価をここで獲得するのは、BMW i3 レンジ・エクステンダーの方である。

純粋なEV仕様の方はというと、多くのEVと同様に高価なのに使い道が限られるという印象を受ける。しかし給油キャップがあれば、ほとんどのEVに匹敵するバッテリー単体の航続距離を維持しながらも、どこへでも行ける最適なクルマになりえるのだ。これこそ誰もが望んでいたEVの姿であろう。

われわれは燃料タンクがスクーターのものより大きくなればと望むのだが、ただタンクが存在しているだけでもi3を信頼して出掛ける気になるのだ。

レンジ・エクステンダーの存在は、i3が持つ他のセールスポイントまでも引き立てることになる。それは魅力的なデザインであり、ほれぼれするインテリアや快活なパフォーマンスであり、とりわけクルマの運転が好きな人間を夢中にさせる走りなのである。

こうしたクルマはEVの世界では稀な存在である。テスラにはその力があった。そして今、BMWもそれを成し遂げたのである。とうとうEVが、クルマが好きで運転を楽しみたいというわれわれのためのものになったのだ。

ヴォグゾール・アンペラのような選択肢はずっと大きな可能性を与えてくれるかもしれない。しかしきっと魅力で劣るしBMWに相応しいプレミアム感は得られないだろう。

BMW i3はどんなEVにも負けない価値がある。しかしこれは楽しむためのEVであって、痩せ我慢して乗るEVとは本質的に異なるものなのだ。

BMW i3 レンジ・エクステンダー

価格 £33,830(534万円:政府補助前)
最高速度 150km/h
0-100km/h加速 7.9秒
燃費 167km/ℓ
CO2排出量 13g/km
乾燥重量 1315kg
エンジン 2サイクル647cc + モーター
最高出力 36bhp/4500rpm + 167bhp
最大トルク 5.5kg-m/4800rpm + 25.4kg-m
ギアボックス シングル・スピード

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