ポルシェ911ターボS vs フォーミュラ4

公開 : 2014.08.05 23:50  更新 : 2017.05.29 19:33

まずはポルシェ911ターボSについて書くことにしよう。最新のターボSはお金で買える車の中で最も速いロード・カーであること冒頭にて宣言する。

最高出力は560ps、最大トルクは71.4kg-m。両者は複雑な四輪駆動システムを介して、この世のどのクルマよりも効率的に路面に伝達される。ちなみに車両価格は£140,852(2,086万円)だ。

この価格の3分の1以下で購入できるのが、今回の対戦相手であるフォーミュラー4レースカーである。

ただし、ターボSより速く走らせようと思えば、それなりの技量が必要となるのも事実だ。言い方を変えれば、技量さえあれば、このクルマはどこまでも従順で、その気になればルイス・ハミルトンの気分だって味わえる。

もう少し現実的な話をすれば、あなたの息子あるいは娘さんを、未来のスターに育て上げることだって、この1台さえあれば可能だ。

仮にあなた自身がサーキット走行に適したセッティングを受けた状態のフォーミュラー4マシンを、たまに運転したいだけならば、£45,000(666万円)で工具一式とともに購入することができる。

560psを発揮する1605kgのターボS、かたや188psを発揮する470kgのフォーミュラー4マシンは、サーキットでどのような攻防を繰り広げるのだろうか。フォーミュラー・カーが911を周回遅れにするのか、あるいは911がどのように食らいついていくのか。いや、もしかすると911の方がフォーミュラー・カーを置き去りにする可能性だってあり得る。

その結果を知るべくベッドフォード・オートドローム・サーキットの西コースへ2台を連れだした。西コースを選んだのは、911が得意とするストレートが多く、またフォーミュラー・カーが得意なコーナーも十分に用意されているからである。

西コースにおける最高ラップは、461psのラディカルSR8 LMの1分13秒8を皮切りに、591psのカパロT1が1秒遅い1分14秒8というのがfastestlaps.comが公表するタイムだ。しかしこれでは、いささかラインナップが非現実的すぎるため、もう少し馴染みのあるクルマを挙げてみよう。例えばマクラーレン12C、こちらの場合はリストによると1分19秒6、2012年式の日産GT-Rは1分20秒1、ノーブルM600は1分20秒8だそうだ。

ちなみに911ターボSの場合は、この日最初のフライング・ラップで1分19秒2を記録した。この結果から、ターボSはいかに力量があるかが伺えるだろう。日常にも不足なく使用できることを考えれば、並外れた実力であることがわかる。

ただし驚くのはまだ早い。本当の意味で呆気に取られるのは2台同時にコースを走ってからだ。私がF4カーに乗り込み、911のドライバーには、プロ・ドライバーのマウロ・カロ氏をお呼びした。

最初のうちは、デジタル化されたステアリング・ホイールの延長線上にある冷えきったままのタイヤは、グリップのグの字も発揮させぬまま、ところかまわずツルツルと滑りまわる。911が手際よく抜けだすコーナーでも、過度なアンダーステアが災いして手に負えないのである。

かろうじて911がブレーキングしたポイントで距離を縮めたとしても、もうその数秒後には911はロケットの如く、豊富なトラクションと強大な加速力をもって飛び出すのだ。

たしかにフォーミュラー・カーのギア・チェンジは精密だし、エンジンも弾けるようによく回る。コックピットだってF1マシン顔負けのタイト感があるのだけれど、最初の数ラップは911が素晴らしいだけにあまり印象が良いものではなかった。

しかし、それはそれで仕方がないというのが私の意見だ。このマシンは、エンジンというよりもむしろ、スリック・タイヤや空力性能に特化したエアロ、羽のように軽い車重で動いているのだ。現代の自動車のようにイグニッション・オンですぐに本領発揮と言うわけにはいかないのは致し方ない。

でき得る限り早くタイヤをあたため、可能な限り速いスピードでエアロからエアロへと空気くぐらせる。そうしない限り、ラップ・タイムは短縮されず、最後の最後までマシンと呼吸を合わせられないのだ。

一方の911ターボSは、そんな時間さえも元から無かったことにするかのように、怒涛の勢いで、首尾一貫してコースを走り続ける。

しかし、F4マシンの方も、秘めたところに隠れた扉の鍵をひらけば―つまりは、タイヤが熱を帯びれば― 先ほどまでとは打って変わった一面を見せ始めることになる。アクセルを踏み込めば、それに比例して、いやそれ以上に、加速に勢いがつき始め、グリップ・レベルも格段に上がるのだ。自信満々にガス・ペダルを開けることのできるゴールデン・タイムの始まりだ。

縁石が視界にはいれば、そっと左足(右足ではない。カートのように。)でブレーキを踏むだけで、力強い制動が始まり、ここぞと思ったタイミングでわずかにステアリングを動かせば、想像よりはるか大きく鼻先が向きを変える。コーナーの出口で目一杯アクセルを踏み込めば、コーナリングの終了だ。全てが一瞬のうちの出来事である。

一度ウォームアップが終わってしまえば、文字通り ’驚異的な’ 走りに直面することになる。いくらかの周回の後に、あなたはこう思うのだ。”これなれば、小一時間前に走らせたターボSのタイムも目じゃないな” と。

ここまでくれば、占めたもの。コーナーに突入し、脱出する。そしてふたたびそれを繰り返す。何度も、何度もだ。そうするたびに、着実にタイムが縮んでゆき、しまいにはストレートでのハンデなど、微塵も感じなくなるのである。

最終的に私が達成したタイムは1分13秒ジャスト。911で出した最高タイムよりも6秒も短いものとなった。同時に、わずかではあるが、188psのマシンが、461psのラディカルSR8 LMのタイムをも上回った、ということにもなる。

素の状態のF4マシンが、いかに優れた運動能力を持っているのかがお分かり頂けたのではないだろうか。マウロ・カロ氏はその後、トップ・タイムから更に1秒を縮めたこともここに記しておく。

どおりでF4用のグリッドは終日大忙しだったわけだ。そしてまた、どおりで911は一日に何度もタイヤを履き替える羽目になったわけだ。

(スティーブ・サトクリフ)

ポルシェ911ターボS

価格 £140.852(2,165万円)
最高速度 319km/h
0-100km/h加速 3.1秒
燃費 10.3km/ℓ
CO2排出量 227g/km
乾燥重量 1605kg
エンジン 水平対向6気筒3800ccツインターボ
最高出力 552bhp/6500rpm
最大トルク 71.3kg-m/2100rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

フォーミュラ4

価格 £45,000(780万円)
最高速度 230km/h
0-100km/h加速 2.94秒
燃費 3.9km/ℓ
CO2排出量 NA
乾燥重量 470kg
エンジン 直列4気筒1998cc
最高出力 185ps/6750rpm
最大トルク 20.5kg-m/5250rpm
ギアボックス 6速シーケンシャル

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