フェラーリ296 詳細データテスト 魅力的なサウンド 比類なきハンドリング 驚異のパフォーマンス

公開 : 2022.12.31 20:25  更新 : 2023.01.05 01:51

意匠と技術 ★★★★★★★★★☆

ディーノ156のキャブレター式V6は179psだったが、少なくともそれより、F163型こと296GTBの新開発された超低重心ユニットはパワフルだ。2992ccで663psを発生し、8500rpmまで回る。バンク角の広い左右シリンダーの間に設置されたターボは、720psのF8トリブートより小型化され、最高回転数を18万rpmまで高めた。

着火タイミングは1−6-3-4-2-5とシンメトリカルで、不等長エキゾーストマニフォールドはV12エンジンのような高周波音を生むために設計された。実際、極限のパワーを犠牲にして、可能な限りサウンドのチューニングが施されている。

エンジンは量産V6最強を謳う2992ccユニット。電気モーターと合わせ830psを発生し、8速DCTを介して後輪を駆動する。
エンジンは量産V6最強を謳う2992ccユニット。電気モーターと合わせ830psを発生し、8速DCTを介して後輪を駆動する。    LUC LACEY

さらに、このモデルにもフェラーリ独自のホットチューブが採用された。これは、排気処理される前の箇所からエンジン音を抽出し、コクピットへと送り込む機構だ。

このコンパクトな新型V6は、フェラーリによれば市販車最強だという。それに続いて設置されるのは、8速DCTと電子制御LSDだが、エンジンとギアボックスの間には、スリムなアキシャルフラックスモーターが配置される。出力は165psで、クオリファイングモードでは後輪を合計830psで駆動する。

フェラーリはF1の用語を引用して、このモーターをMGU−Kと呼ぶ。パワーとトルクをかなり増強するばかりでなく、スロットルレスポンス向上にも寄与し、またフロア下に積んだ7.5kWhのバッテリーに蓄えた電力を用いて、単体で最大24km走行することも可能だ。

ただし、ハイブリッドシステムは重量増の原因にもなっている。1470kgという公称の乾燥重量は、V8を積むF8トリブートを35kg上回る。ボディサイズが小さくなり、気筒数がふたつ減ったうえでだ。さらに、テスト車の実測重量は、カーボンタブを用いるマクラーレンアルトゥーラに対し100kgほど重い。

また、1990年代以来のミドシップ・フェラーリの中で、296GTBのホイールベースはもっとも短い。F8トリブートと比べれば、ドライバーは14mm前輪に近く座らされる。

ヴィジュアル的には、先代ほどアグレッシブではない。キャブフォワードのシルエットには、250LMを彷彿させるフェンダーのラインが組み合わされるが、停まっているときの存在感は、驚くほどおとなしいものだ。

内側には、シャシーの電子制御デバイスが満載だ。e−デフは左右後輪へのトルク配分量や、ブレーキング時にその制御をどれくらい緩めるかを正確にコントロールする。新世代のABSも、ブレーキ性能を高めるとされていて、しかもどのようなシチュエーションでもペダルフィールは一定していて適切だ。

サーキット走行を検討しているなら、アセット・フィオラノパッケージの装着も考えるのではないだろうか。3万ポンド(約483万円)近いオプションだが、レキサン製の超軽量リアウインドウで15kg削減できる上に、ダウンフォースが増加し、GTレース由来のマルチマチックダンパーも装備される。

アセット・フィオラノパッケージのタイヤは、ミシュランのパイロットスポーツ・カップ2R。テスト車が履いていたのは、それよりバーサタイルに使える標準装着のパイロットスポーツ4Sだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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