100万ドルの輝き アストン マーティンDB5 メルセデス・ベンツ300SL フェラーリ275GTB 3台を乗り比べ 中編

公開 : 2023.02.12 07:06

驚くような変化を味わえるツインカム直6

発進させると、1468kgの車重から想像する以上に軽快。アクセルペダルを、少ない気使いで倒していける。

クラッチペダルは重いものの、ZF社製の5速MTは滑らかに動き、正確に次のギアを選べる。それ以前に採用されていた、デイビット・ブラウン社のユニットから大きな進化といえた。

アストン マーティンDB5(1963〜1965年/英国仕様)
アストン マーティンDB5(1963〜1965年/英国仕様)

DB5のシャシーは、今の状況をドライバーへ鮮明に伝える。サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン式、リアがリジットアクスル式で、従来的な組み合わせといえるが、すぐに打ち解けあえる。

技術者のタデック・マレック氏が設計を手掛けた、ツインカム・ストレート6も喜び。滑らかで洗練された低回転域から、3000rpmを超えた豪快な力強さまで、驚くような変化を味わえる。フェラーリのV型12気筒ユニットにも負けていない。

ステアリングの正確な反応で、充足感に浸れる。急な入力に対しても過剰には反応しないから、安心感も伴う。サーボアシストされるディスクブレーキが、300SLでは得られない、即時的な制動力を生み出してくれる。

アストン マーティンらしく、DB5は理想的なグランドツアラーといえる。それでいて、300SL以上にサーキットでは快活。より高度な技術を搭載した10年前のドイツ製スポーツカーより、機敏で繊細に感じられた。

少々均整の取れていないスタイリング

一方のフェラーリ275GTBは、筆者の印象としては、今回の3台では視覚的な魅力度が最も低い。イタリアン・カロッツェリアのピニンファリーナ社による傑作の1台と称されるが、250GTOや250GTルッソといったモデルの影響を断ち切れていない。

ボディサイドのラインは、シルエットに対して高すぎるように見える。その影響でルーフは低く、タイヤが小さく感じられてしまう。ラインは美しいのだけれど。

フェラーリ275GTB(1964〜1968年/欧州仕様)
フェラーリ275GTB(1964〜1968年/欧州仕様)

実際、エンツォ・フェラーリ氏も、275GTBはそこまで気に入っていなかったのかもしれない。比較的短命といえた4年で生産を終了している。

後継モデルに当たる365GTB/4は、スタイリングが仕上がると直ぐに量産化へ移されたという。描き出したのは、ピニンファリーナ社に在籍していたレオナルド・フィオラヴァンティ氏。275GTBへ不満を抱いた彼による回答だった。

もっとも、均整が取り切れていないボディだとしても、ザントフォールト・サーキットで佇む姿は印象的。眺めているうちに、しっかり心は奪われていた。

長いドアをそっと開くと、インテリアの雰囲気には300SLやDB5ほどの高揚感がない。全体的に造形はシンプルで、機能性が重視されているのだろう。豪華絢爛な高性能グランドツアラーというより、量産車の豪華版といった様相だ。

ダッシュボードに並ぶ、べグリア社の計器類が実力を静かに物語る。スピードメーターは300km/hまで振られ、レブカウンターのレッドラインは7600rpmに設定されている。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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