SSで鍛えたホットハッチ プジョー106/205/306 ラリー プライベーターの獅子 前編

公開 : 2023.05.14 07:05

他に例がないフィードバックの濃さ

ただし、これはフランスやイタリアなどでの場合。ドイツやスイスでは事情が異なった。排気ガス規制が厳しく、1.9Lエンジンの205 GTiへ手を加え、205 ラリーを名乗らせ1990年から提供されている。本来の205 ラリーよりパワフルながら、重かった。

英国でも状況は似ており、魅力を生んでいたオーバーフェンダーはドーバー海峡を越えられなかった。エンジンは1360ccのシングル・キャブレター仕様で、最高出力は76ps。ありきたりな205 XSと、大きな違いまでは得ていない。

プジョー205 ラリー(1988〜1992年/欧州仕様)
プジョー205 ラリー(1988〜1992年/欧州仕様)

もちろん、今回ご紹介する1990年式の205 ラリーは本物。スペインで販売されたクルマだといい、ラリー参戦を前提にグループN規定に準じたエグゾースト・マニフォールドが組まれている。

「モータースポーツの香りがするクルマが大好きなんですよ」。と、オーナーが笑顔で説明する。本人のご希望で名前は伏せるが、ガレージにはポルシェ911 カレラ3.2CSとマクラーレン600 LTが並ぶ、生粋のカーマニアだ。

当時の205のなかでは、ターボ16やGTiなどより格下に位置したとはいえ、走りのスリリングさでは負けていないという。小さなプジョーは、個性豊かに走る。

「フィードバックの濃さは、他に例がありません。路上でのライン取りは容易で、常に別のラインも選択肢にある、懐の深さも備わっています」。と、オーナーが続ける。

ラリーステージで鍛えられた敏捷な回頭

205 ラリーは、路肩に停まっているだけでエネルギッシュさが伝わってくる。丁寧にレストアされ、状態は極めて良い。エンジンは賑やかに回転し、サウンドが車内へ充満するものの、内装が粗野に振動することはない。

アクセルペダルを傾ければ、弾けるように突進を始める。ドライバーの背中を、背もたれに押し付けながら。ツイン・ウェーバーの1.3Lエンジンは、フルスロットルを求めるように咆哮を放つ。

プジョー205 ラリー(1988〜1992年/欧州仕様)
プジョー205 ラリー(1988〜1992年/欧州仕様)

低回転域では、やや線が細く丁寧な扱いが求められる。4000rpmを超え、ハイリフトカムが乗ってくると、レッドラインめがけて狂ったように吹け上がる。クロスしたギア比で、シフトアップしても勢いは失われにくい。

路面の起伏を高速で通過すると、サスペンションは落ち着きを保ちきれない。コーナリング時のバランスがトリッキーではないかと心配したが、杞憂だった。

ブレーキは鋭く速度を落とし、アシスト・レスのステアリングはタイトに反応。ラリーステージで鍛えられたマシンだと主張するように敏捷に回頭し、出口での全開加速へ滑らかに結び付けられる。

親密になるほど、205 ラリーは速くなっていく。峠道を走り終えた後も、しばらく笑顔が止まらなかった。

プジョーは、特別な205がどれだけ多くのドライバーを喜ばせているのか、完全には把握していなかったのかもしれない。英国でも大きな支持を集め、並行輸入で本場モノに乗る人も少なからずいた。最終的に、3万台以上が生産されている。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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