容姿と中身の好バランス ヒョンデ・アイオニック6へ試乗 韓国製BEVの実力を探る  前編

公開 : 2023.09.23 20:05

空力特性を磨き、少しでも長い航続距離を求めたアイオニック6。印象的な容姿に見合う中身を備えるのか、英国編集部が確かめました。

近年で最も特徴的なバッテリーEVサルーン

係員が近寄ってきて、毅然とした表情でサイドガラスを叩く。恐る恐る窓を開く。「クルマをここに停めている理由は?」。と、厳し目に問いただされる。

イタリア北部、コモ湖を望む高級ホテルの敷地にいた筆者は、イベントへ招かれたクルマの入場を妨げていたらしい。「ごめんなさい。間違えました。違う会場だったようです」。と慌てて答える。

ヒョンデ・アイオニック6 AWDロングレンジ(欧州仕様)
ヒョンデ・アイオニック6 AWDロングレンジ(欧州仕様)

続いて、フェラーリ365 GT4 BBと一緒の撮影へ挑む、離れた場所に立つフォトグラファーについても聞かれる。「それでは、彼は?」。どう答えようか考えた一瞬の間に、後ろでクラクションが鳴る。

「すぐに移動してください」。屋根を軽く叩かれ、立ち去るよう要求された。筆者の本当の目的は、ヒョンデ・アイオニック6の斬新なデザインが、誰もが知っているような高級車と並んだ時、どう見られるのかを確かめることだった。

急いでアイオニック6を敷地の出口まで走らせる。公道へ戻ろうとすると、メルセデス・ベンツ300SLRを撮影しようと集まった、一眼レフを手にした群衆へ阻まれる。ベストアングルの邪魔をしてしまったらしい。

しかし、彼らはアイオニック6を好意的に受け止めたのか、カメラのレンズが向けられる。筆者の予想は正しかったようだ。このバッテリーEVは、近年最も特徴的なサルーンといえる。数年後には、時代の先駆者として評価される可能性を持っていると思う。

サルーンではなくストリームライナー

もちろん、1955年製の300SLRに並ぶ価値が生まれることはないだろう。70年後に、143万ドル(約207億3500万円)へ相当する金額で落札されるとは思えない。それでも、2023年を象徴するモデルにはなり得るだろう。

ヒョンデの上層部、特にデザイン部門を率いるイ・サンヨプ氏は、アイオニック6をサルーンではなく、ストリームライナーと呼んで欲しいと話す。マーケティング部門が主導しているのかもしれないが、デザインチームの影響力の大きさも間違いない。

ヒョンデ・アイオニック6 AWDロングレンジ(欧州仕様)
ヒョンデ・アイオニック6 AWDロングレンジ(欧州仕様)

効率を求めるなかで匿名化が進み、ブランドらしい個性は薄まりつつある。メルセデス・ベンツEQEテスラモデル3などは、わかりやすい例といえる。だが、ヒョンデは異なるベクトルを向いている。2極化する可能性はあるが、個性はあった方が良い。

そんな事を思いながら、街の広場へ向かう。アイオニック6のスタイリングを際立たせるためには、当たり障りのない景色に停めた方が望ましい。湖と山岳地帯へ取り囲まれるように、観光客で賑わうホテルやレストランが並んでいる。

テラス席でティータイムを楽しむ人が、アイオニック6へ目線を送る。混雑した一角を通り過ぎると、数人から見つめられた。可動式の花壇を避けて、フォトグラファーが仰々しく撮影を始めたからかもしれないが。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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