大胆な形はダウンフォースを生んでいた ワイラ・プロネッロ・フォード 南米のプロト・レーサー(2)

公開 : 2023.11.18 17:46

グッドウッドで注目の的になったワイラ

果たして、オーシャン・ブルーのワイラは、グッドウッド・フェスティバルで注目の的になった。リカルドにとっては、濡れた路面で走ること自体が新鮮だったという。

その数日前、ワイラはグレートブリテン島の中部にある、ケイツビー・イノベーション・センターへ運ばれた。空力特性を検証するために。

ワイラ・プロネッロ・フォード・クーペ(1969年)
ワイラ・プロネッロ・フォード・クーペ(1969年)

ここは、50年間も放置されていたグレート・セントラル鉄道のトンネルで、幅は8mと広く、長さが2740mもある。ブラバムやザウバーでF1の開発に関わったセルジオの発案により、現在は風洞実験施設へ改修されている。

セルジオも、ワイラが風洞実験を経ていたことを知っており、マシンの地面効果に以前から関心を抱いてきたという。ボディには気圧センサーが取り付けられ、狭いコクピット内にテスト機材が詰め込まれた。

ワイラは、外部からの風の影響を受けないトンネルを全開で疾走。カムテール状のエクステンションを取り付けた状態もテストされた。

「クラシックカーの空力特性を安価に確認できる、素晴らしい場所だと思います。しかも楽しい」。とセルジオが感想を述べる。

「ラジエーターやギアボックス、エンジンを正しい温度で動かせ、外部からの影響もなく、路面は滑らか。驚くほどの再現性で、興味深いデータを収集できましたね」

ヘリベルトの大胆なデザインは有効だった

テストへ同席した、フェラーリで空気力学を専門としてきたウィレム・トエット氏も、感銘を受けた様子。「素晴らしいクルマです。アッパーボディの形状は滑らかで、ディフューザーを備えたフラットなフロアが、最大限のダウンフォースを生んでいます」

ヘリベルトの大胆なデザインは有効だったことが、現代の技術で改めて確認された。

ワイラ・プロネッロ・フォード・クーペ(1969年)
ワイラ・プロネッロ・フォード・クーペ(1969年)

ワイラは英国のアルゼンチン大使館にも招かれ、レッドカーペットの上に飾られた。デモ走行では、凄まじいV8エンジンのサウンドが放たれ、外交官だけでなく大使館周辺の人も驚かせたようだ。

スポーツ・プロトティポ・アルヘンティーノの終了後、技術者のヘリベルは、軍事産業やロボット工学へ携わるようになった。だが、2010年のダカール・アルゼンチン・チリ・ラリーへ出場するマシンの開発にも関わっている。

惜しくも資金不足で活躍には至らなかったが、そこで生み出された3.0Lエンジンのオフロードマシンにもまた、ワイラへ通じる特徴的なプロポーションが与えられていた。

撮影:エマヌエル・ゼベレカキス
協力:リカルド・ゼツィオラ氏、ガブリエル・ド・ムルヴィル氏、ケイツビー・イノベーション・センター

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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