待望のQ4はPHEVとして日本上陸 アルファ・ロメオ・トナーレの新味を試す

公開 : 2023.11.06 11:45

アルファ・ロメオトナーレ PHEVとMHEVとの違いは?

この「プラグイン蛇」は、かの「人を飲み込む蛇の紋章」をあらため電源プラグに図象化した、MHEV版にはないディティールで、今後リチャージャブルなアルファ・ロメオならBEVにも用いられるだろう。

単に「緑色で長いもの」を巧みに使い回した、発想とデザイン力は本当にダテじゃない、てな軽い話でも済ませられるかもしれない。でも、蛇や竜を槍で刺している騎士の姿は聖ジョルジョだが(蛇や竜の形をした)悪魔を踏みしだいて天使の翼を背負っていたら聖ミカエル、みたいな違いというか、そうしたイコノグラフィー(図象学)的伝統を踏まえた風土的産物という気もしなくはない。

アルファ・ロメオ・トナーレQ4
アルファ・ロメオ・トナーレQ4

同じグループ内でいえば、ジープのガラス隅に見える「隠れジープ」の応用編かもしれないが、元ロゴをイジってまでアルファ・ロメオが電動化にかける意気込みがうかがい知れる。

話は戻って、全長4530mmと全幅1835mmは当然、MHEVと変わりない。PHEVの車高だけが上がったのは、FFベースのリアモーター4WDである以上、多少オフロードも意識したのか?と一瞬考えたが、ドライブモードにそんなものが加わった形跡もない。

でも15.5kwhのバッテリーがホイールベース内に収められた分、MHEVより3%ほど低重心化し、何より前後重量配分は53:47に最適化された。公式資料には、ロールアングルと旋回速度はそれぞれ8%向上とある。

とはいえ車両重量はMEHV比で+25kg、つまり1880kgにまで増量。重くないか?と数値だけ見ると感じるが、その点は後述する。ひとまずEVモードでの航続距離は約72kmで、直4の1.3Lターボとの航続距離と合わせ技で600kmと、一回満タン&満充電でのアシは長そうだ。

27.5kg-m/180psのエンジンは無論、前車軸を6速ATを介して駆動し、フロント側にも5.4kg-m/45psの電気モーターが組み合わされている。5.6kg-m/20psというMHEVのフロントモーターより明らかに伸び重視のようだ。

参考までに、PHEVのATギア比は5速がMHEVと横並びの0.851で、ファイナルレシオはより低められている。そこに単体で25.5kg-m/128psを発揮するリアモーターが組み合わされ、システム最高出力は280psとなっている。

新世代のアルファ・ロメオ

要はPHEVパワートレインになったとはいえ、すべてを足し算式に解き放つトルク&パワーではない。電気とICEが互いに任せるべきは潔く任せるものの、仕事の繋ぎ目がごくシームレスで、それでいてシンプルなスキームのAWDとして、俊敏かつ軽快なアルファ・ロメオ独特のロードホールディングを実現しているのだ。

個人的に、アルファ・ロメオらしい動的質感とは何ぞや? に対する答えは「生き物っぽいほどの躍動感」だと思っている。ヒストリック・イベントなどで旧いアルファ・ロメオがサーキットを走るのを見て感心させられるのは、元より静的なデザインもいいけど、車の状態がキマっていることが前提とはいえ、動的な状態での姿勢、4輪を接地させる姿形そのものがやたらと美しいことだ。

アルファ・ロメオ・トナーレQ4
アルファ・ロメオ・トナーレQ4

この日、別の取材班が走らせるトナーレQ4を路上で見て、そして自分で乗って、キレイに走らせられる感覚の片鱗は、きっちり確認できた。街中でおもにEV走行だったが、軽やかに地面を掻くような加速感と適度にキビキビしたドライバビリティで、実際の車重よりはるかに軽快に感じられた。正直、体感では1700kg台前半だったのが、後で諸元表で1880kgという数値を確認して、1割以上も騙されていたことに驚いた。

ステアリングフィールはクイック過ぎず、これ見よがしに鋭さを演出するタイプではない。ダイヤル操作でDNAのドライブモード選択で、D(ダイナミック)にもしてみたが、中立付近が締まるものの、落ち着きが失われることもない。街中から首都高速ぐらいの速度域ではハーシュネスもよく抑えられ、落ち着いた乗り心地さえ味わえる。

踏み込めばICEの伸びをアテにできて、トルクカーブと野太いエキゾーストノートと加速感がキチンとシンクロしている。ただ、A(アドバンスド・エフィシエンシー)という電気のみのモードでも135km/hまで加速できる通り、電気モーターの加速だけでも役不足に陥ることは、ほぼ考えられない。

街中や高速巡航など、たいていの低負荷状況では、寡黙にして滑らかな後輪駆動車としてトナーレQ4はふるまう。回生は手元のパドルで強められ、日常的にブレーキの補助として使える程度の減速Gだ。

総じて、電動モデル特有の癖や唐突さはないが1台のアルファ・ロメオとして魅力的、そこがトナーレQ4の美点だ。ワインディングやサーキットで美しく楽しいのはアルファ・ロメオなら当たり前だったが、そうじゃない日常域でも、PHEVがちゃんとアルファ・ロメオになっていることに素直に驚けるというか、ボディサイズごと日本の生活感にハマってくれそうなところまで、予想していたよりもはるかに新世代のアルファ・ロメオだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    南陽一浩

    Kazuhiro Nanyo

    1971年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。ネコ・パブリッシングを経てフリーに。2001年渡仏。ランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学で修士号取得。2005年パリに移る。おもに自動車やファッション/旅や食/美術関連で日仏独の雑誌に寄稿。2台のルノー5と505、エグザンティア等を乗り継ぎ、2014年に帰国。愛車はC5世代のA6。AJAJ会員。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。
  • 編集

    AUTOCAR JAPAN

    Autocar Japan

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。

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